読書の秋におすすめの小説5選!秋の夜長に読みたい物語たち

更新:2021.11.19

「読書の秋」という言葉があるように、秋は食やスポーツと並んで、本を読むのに最適な季節だといわれています。過ごしやすくて集中力も高まるこの季節に、ぜひ本を手にとってみませんか?この記事では、秋の夜長に読みたいおすすめの小説を紹介していきます。

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なぜ「読書の秋」というのか、理由を解説!

 

うだるような暑さから解放されて、温度も湿度もが下がる秋。1年のなかでもっとも快適で過ごしやすい季節だといわれています。暑くてぼんやりしていた頭も体もスッキリする人が多いのではないでしょうか。

中国では唐の時代に、次のような漢詩が読まれました。

時秋積雨霽
新涼入郊墟
燈火稍可親
簡編可卷舒

秋の涼しくなり始めた頃は、灯火のもとで本を読むのがふさわしいという意味。韓愈(かんゆ)という文人が、読書や学問の大切さを息子に説くために読んだといわれています。

日本では、明治時代の1908年に夏目漱石が発表した『三四郎』のなかでこの漢詩が紹介され、「秋に読書をする」というイメージが広がりました。

やがて大正時代になると、「図書週間」が始まります。その後昭和になって、日本図書館協会が「文化の日」の前後2週間である10月27日から11月9日を「読書週間」とし、出版業界でもこれにあわせてさまざまなイベントがおこなわれるようになりました。

「秋の夜長」といわれるように秋が深まるにつれて夜が長くなり、過ごしやすい気候であること、そして「読書週間」が制定されたことから、「読書の秋」という言葉が使われるようになったのでしょう。

 

読書の秋に読みたい心があたたまる小説『月の砂漠をさばさばと』

 

9歳のさきちゃんとお母さんは、2人暮らし。お母さんの職業は作家です。花屋さんの家に生花が飾られるように、さきちゃんの家ではお母さんが物語を聞かせてくれます。

さきちゃんは、子どもならではの発想と目線で健やかに成長していきます。お母さんはそんな彼女を甘やかしすぎることなく、でも愛情豊かに接していくのです。

 

著者
北村 薫
出版日
2002-06-28

 

1999年に刊行された北村薫の作品です。おーなり由子のカラーイラストが40点挿入されていて、物語と絵本のよい部分が掛け合わせられているといえるでしょう。芸人で芥川賞作家でもある又吉直樹が、「中学生に読んで欲しい本」「20人以上にプレゼントした本」とテレビ番組で紹介したことから、一時は品薄状態が続くほど話題になりました。

さきちゃんとお母さんの何気ないやり取りのなかに、北村薫のメッセージが散りばめられていて、さまざまな気づきと感動に出会えるでしょう。日常のなかにある嬉しいことや悲しいことを、さきちゃんはとても純粋に受け止めていて、その心の動きにハッとさせられるのです。

父親の不在、親子でもわかりあえない事があることなど、時折見え隠れする影の部分も描かれているのが、作品の魅力を高めています。大げさな物語ではないけれど、秋の夜長には細やかな心情を感じられる物語がぴったり。さきちゃんと同年代の子どもはもちろん、大人の心もポッとあたためてくれる一冊です。

 

読書の秋にぴったりの十一月の物語『十一月の扉』

 

双眼鏡を覗いていたら偶然見つけた洋館。中学2年生の爽子は2ヶ月間だけ親元を離れ、「十一月荘」で下宿をすることになりました。

主人の閑(のどか)さん、バリバリ働く建築家の苑子さん、不思議な雰囲気をもつ馥子(こうこ)さんと娘のるみちゃん。みな節度があり、お互いを思いやっていて、爽子にとって憧れの存在です。

そして爽子は、十一月荘での生活を、「ドードー森の物語」と名付けて、お気に入りのノートに書いていきました。

 

著者
["高楼 方子", "千葉 史子"]
出版日
2011-06-10

 

1999年に刊行された高楼方子の作品。「産経児童出版文化賞」を受賞しました。

十一月荘は、俗にいうシェアハウスのようなもの。爽子は、個性的で優しい下宿人たちと共同生活を送ります。その暮らしに彩りを添えるのが、閑さんに英語を習うために十一月荘にやって来る、1歳年上の耿介(こうすけ)くん。爽子は彼に淡い恋心を抱きました。

作中作である「ドードー森の物語」と現実の世界が時折重なりながら、物語は進んでいきます。爽子は少女らしく夢見がちになったり、些細なことで落ち込んだり、自分の感情を処理できずに泣きじゃくったりしますが、そんな彼女を周りの大人が優しく見守り、そっと背中を支えてあげる姿に心を動かされるでしょう。

やがて彼女のなかにあった母親に対するわだかまりも消え、考えたくなかった転校後の生活のことや、その先にある未来にも希望を見出していくのです。

「十一月荘」という名前のとおり、秋に読むのにぴったりの一冊。物語にマッチしたイラストもお楽しみください。

 

秋の夜長に喪失と再生の物語が染みる。泣ける小説『流れ星が消えないうちに』

 

高校生の時から付き合っていた加地と奈緒子。しかし20歳になる直前、海外旅行先で加地が事故死してしまうのです。

悲しみに苦悩する奈緒子。そんな彼女に、同じ高校の同級生で加地の親友でもあった巧が手を差し伸べ、加地の死からおよそ1年後に2人は付き合うことになりました。

しかし、2人とも加地のことを忘れることができず、何をするにも彼のことを考えてしまいます。

 

著者
橋本 紡
出版日
2008-06-30

 

2006年に刊行された橋本紡の作品です。2015年に映画化されました。恋人を亡くした奈緒子と、親友を亡くした巧。この世にいない加地を交えた三角関係が描かれています。

喪失感を抱えながらもお互いに支えあい、死を乗り越えるのではなく受け入れて、前に向かって歩き出すまでの心の動きが魅力的でしょう。

物語の途中でタイトルの意味がわかると、より一層強い切なさが押し寄せてくるはず。流れ星はいつか消えてしまうけれど、加地がこの世界に存在していたことも、一緒に過ごした日々も、消えることはないと気付かせてくれます。切ないけれど、前向きになれる物語です。

 

映画化もされた名作小説『あん』

 

どら焼き屋の雇われ店長をしている千太郎。人生に疲れ、この先も楽しいことなどないだろうと思いながら、だらだらと日々を過ごしています。

そこへ、店でアルバイトをしたいと、徳江というおばあさんがやって来ました。徳江の煮る「あん」は最高においしく、試食した常連客の女子高生ワカナのすすめもあって、千太郎は徳江を雇うことにしました。

 

著者
ドリアン助川
出版日
2015-04-03

 

2013年に刊行されたドリアン助川の作品です。同年の「読書感想画中央コンクール」では、中学校の部と高校生の部の指定図書に選定、2016年には映画化もされています。

徳江が来てから店のどら焼きは評判になり、たくさんの客が訪れるようになりました。しかし彼女がハンセン病を患っていたことが知れ渡ると、客足はパタリと途絶え、徳江は自分のせいだと悟り店を去っていくのです。

本作は、作者のドリアン助川が人生のどん底にいた時代に感じたことをベースに執筆したそう。千太郎とワカナが隔離病棟を訪れた時にわかる、徳江の壮絶な人生には、言葉を発することもできません。差別を真正面から扱っていて、生きる意味を考えさせられる作品です。

 

読書の秋に読みたい、美しいホラー小説集『秋の牢獄』

 

女子大生の藍は、11月7日の水曜日という秋の1日に囚われています。その日に何をしても、どこへ行っても、夜が明けて朝になると、また11月7日が始まるのです。

どうあがいてもこの日から抜け出せない……ひとり悶々としていましたが、ある時、自分と同じ「リプレイヤー」の隆一という青年と出会いました。

 

著者
恒川 光太郎
出版日
2010-09-25

 

2007年に刊行された恒川光太郎のホラー小説集です。

表題作の「秋の牢獄」は、藍がリプレイヤー仲間たちとの交流を楽しむようになったものの、北風伯爵という異形の人物の登場で一気にホラー色が強くなるストーリーです。

「神家没落」jは、主人公のぼくが神域である藁葺きの民家に囚われてしまう物語。翁の面を被った老人の説得で後継者となったものの、老人と同様に自分も後継者を見つけなければ神域から出られないことを悟り、戸惑います。ようやく脱出できた後にまた事件が発生し、一気にダーク落ちする展開が楽しめる物語です。

「幻は夜に成長する」は、不思議な能力をもつリオが、むりやり謎の教団の教祖に仕立てあげられ、山寺のような場所と幻に囚われてしまう物語になっています。

3作とも何かに「囚われる」ことがテーマになっていて、仄暗いホラー要素が魅力的。そのなかに秋の美しい情景が描かれていて、読者を不思議な世界観に連れていってくれるでしょう。

 

煌々とした灯りと快適な室温に慣れきった私たちは、ともすると季節感を失いがち。時には意識して、読書の秋を楽しむ心のゆとりをもってみるのもよいでしょう。

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