もし東京に核弾頭が落ちたら?『東京核撃』は、そんなifの世界を現代の東京都心部を舞台に描いた核災害サバイバル漫画です。 主人公は保育園児2人の母親である祐希。仕事中に核弾頭の爆撃に合い、荒廃した都心部から避難し、子供達を助け出しに向かうのでした。危機意識を持つことの大切さについて考えさせられる、リアルシミュレーションコミックです。 本作はスマホアプリで読むこともできるので、気になった方はそちらもどうぞ。
佐原祐希(さはらゆうき)は、夫の眞人(まさと)、保育園に通う宗太とゆいの4人家族。眞人は核攻撃への危機意識が強く、家族に対して核攻撃から身を守るための避難訓練をしたり、核爆弾が投下された後の避難に関する知識を共有したりしていました・
しかし周囲からはそんなことほとんどありえないと言われていました。そう、たしかにそれは「ほとんど」ありえないものでした……。
- 著者
- 細野 史羽
- 出版日
- 2018-08-17
ある日祐希が勤務先のバイクショップで働いていると、そこにJアラートが鳴り響きます。それは、現実にも存在する、日本全国に鳴り響く警報です。
その後まもなく、ミサイルが着弾。同じ職場で働いていたメンバーは祐希以外全員が亡くなってしまうのでした。
混乱のさなか、眞人から携帯に連絡が。祐希は、彼の職場が爆心地から近いため生存を不安視していましたが、SNSで「(子供2人を)たの(む)」というメッセージが届いていました。子供を救いに向かうことを決意し、バイクで疾走する祐希の前に広がったのは、瓦礫の山となった東京でした……。
近未来ではなく現代の東京が舞台になっているため、リアリティを感じられる本作。都心の土地勘のある人なら、立地を思い描きながらストーリーを追うことで、よりリアルと漫画世界の境界が曖昧になる感覚を覚えるでしょう。
もし、核爆弾が落ちたらどう動くべきか?核弾頭からの防災や、着弾後の避難などの知識など、考えさせられることや学ぶことが多い作品でもあります。
ここでは本作の主要な登場人物を紹介していきます。
佐原祐希(さはらゆうき)
『東京核撃』の主人公。東京都板橋区高島平で夫の眞人と、息子の宗太、娘のゆいと4人で暮らしています。台東区上野のバイクショップ「バイク大王」のショップスタッフとして勤務。職場では、店長に口説かれつつも、後輩店員たち含め、気安く良好な関係を築いています。
以前は核ミサイルに備えて訓練をする眞人に対して、あるわけないと否定的な発言をしていました。しかし、Jアラートでミサイル発射を知った後は、眞人から得た知識をもとに、保育園にいる宗太とゆいを助けに向かいます。
祐希の夫で、宗太とゆいの父親。港区南青山の会社に勤務しています。連休を申請し上司に断られてしまったり、年末も会社に出勤したりしするほどの激務ぶりが伺えます。子供とふれあう時間が削られるほど、仕事にかかりきりな状態のため、祐希は会社人間と怒りをあらわにするのでした。
彼の知識がキーとなってくる本作。核ミサイルが落ちることを、あり得ないとしながらも脅威に感じています。家族とともに「核爆発災害訓練」と称して防災訓練を繰り返し、避難経路のシミュレーション方法や、放射線量の知識を教示していました。
祐希と眞人の子供で、高島平の自宅近くのYCM保育園に通っています。父親のことを呼び捨てて祐希に叱られたり、「パパ遊べ!」と命令口調で話しかけたりと、かなりわんぱくな様子。
眞人が仕事ばかりで遊んでくれないことに不満を持っています。
『東京核撃』の見所のひとつは実在する土地や駅が舞台になっているところです。作中では永田町に核ミサイルが被弾し、上野で働く祐希が高島平の子供たちへのもとへと向かう様子が描かれます。
特に上野のバイク屋街からバイクに乗って、放射能の影響から逃れられる地下鉄の駅を探し、上野御徒町駅へと向かう際の描写は真に迫るもの。道中のガラスの破片が飛び散り、瓦礫の山になった街を疾走する様子は、荒廃し、人がほとんどいなくなった不気味さを感じさせます。
現実の東京の街を元に描かれた背景に、無数の煙が立ち上り、上空には核爆発後のキノコ雲が描かれている……。万が一東京の街に爆弾が落ちたらあり得る光景であるということが、サバイバル描写をより一層リアルに感じさせてくれます。
『東京核撃』は完全なるフィクションでありながら、本作発売時2018年あたりの実際の東京に関係する要素を含んでいます。なので都市部に住む読者は特にリアルに、実際に災害に合った時のバーチャル体験をするでしょう。
ただ、その土地勘がなくでも本作は楽しめますので、この漫画を通してサバイバルシミュレーションしてみるのはいかがでしょうか。
この作品は、放射線防護、防災監修として理学博士の高田純が監修しています。
20キロトン(キロは10の3乗の意味)の空中核爆発が起きたら東京の街はどのような被害が出るのか、専門家ならでは予測に基づき、詳細に記されているのがまたリアルです。
『東京核撃』を読めば、Jアラートの警報が鳴った際に取るべき行動、核ミサイルが爆発後に避難すべき場所の選定方法、原子爆弾投下後に放射性物質を含んだ黒い雨が降ることへの周知や対処方法などを知ることができます。
もし核ミサイルが落ちたら何に気をつけたらよいのか?専門家ならではの知識が漫画で分かりやすく頭に入ってくるのも本作の魅力です。
『東京核撃』は東京に核ミサイルが落ちたらという主題で描かれますが、根底に流れるテーマは、佐原家の家族愛です。佐原家は夫婦共働きで保育園児の子供が2人。夫は仕事で忙しく育児に非協力的。そのため妻が仕事と育児をワンオペレーションに近い形で担わなくてはいけない状況でした。
現在の都心部の若夫婦の典型のようなライフスタイルの家族設定になっているため、共感しやすいのではないでしょうか?
そんな夫婦は、ストーリー冒頭で喧嘩をしてしまい、そのままそれぞれ別の場所で核ミサイルに被災。
眞人は爆心地の側で被ばくしながらも、子供の身を案じ祐希にメールを送ります。それを受け取った彼女は、子供たちの無事を確認するために、瓦礫の山となった東京をバイクや徒歩、地下鉄を使って向かいます。
危機的状況のなかでこそ、さらに家族が互いを思いやる気持ちが強調される本作。この作品を通して、夫婦の絆や、子供の大切さなどを再確認できるはずです。
核弾頭の爆心地で被弾し、バイクで駆け抜ける祐希。放射能から逃れるために地下鉄の線路沿いに家を目指します。
途中からは地下鉄が動いていたので乗車でき、無事最寄駅に到着。駅を出るとそこは都心部と比べると落ち着いた様子でした。彼女は保育園に向かい、そこで無事に宗太とゆいと再会を果たすことができました。
- 著者
- 細野 史羽
- 出版日
- 2018-08-17
しかしホッとしたのもつかの間、家に帰る途中にJアラートが放射線物質が降ることを知らせます。近くに逃げ込む建物もなく途方にくれる祐希。そこに現れた人物とは……。
最終話では、核弾頭の爆発による一次被害だけでなく、その後の黒い雨や被ばくなど、原子爆弾のもたらす脅威について専門知識が詳細に描写されています。
さらに主人公祐希の母親としての愛や、妻としての愛の深さを感じさせる内容になっており、核弾頭が落ちた後も未来を切り開く力強さを感じさせるエンディングです。
そのかすかに希望の光を感じさせる結末はぜひご自身でご覧ください。ストーリーだけでなく、防災の入門書としてもいいかもしれません。