日本を代表する小説家・三浦しをんの作品『あの家に暮らす四人の女』。物語は、少し変わった4人の女が、少し変わった同居生活を送る「日常」を描いたもの。第32回織田作之助賞を受賞しており、はじめてのテレビドラマ化も決まった本作に、再び注目が集まっています。今回は、本作のあらすじと魅力をネタバレを含みながら紹介していきます!
東京・阿佐ヶ谷にある古い洋館。そこには、4人の女が暮らしていました。洋館の持ち主である70歳の鶴代、その娘で刺繍作家をしている佐知、佐知の教室の生徒である多恵美、そしてひょんなことから佐知と知り合った雪乃。
それぞれに個性がある彼女たちの生活は、時におかしく、時に切なく……そして、時に不思議な出来事に満ちています。
- 著者
- 三浦 しをん
- 出版日
- 2018-06-22
現代版『細雪』と呼ばれる本作は、温かくて優しいホームドラマ小説。2019年9月30日に、テレビ東京で映像化が予定されており、本作初のドラマ化です。
メインとなる4人の女は、鶴代役に宮本信子、佐知役に中谷美紀、多恵美役に吉岡里帆、雪乃役に永作博美と、いずれも実力派として知られる女優が演じることが発表されました。キャストからも期待度の高さがうかがえます。
ちなみに、原作本の帯には女優・小林聡美の言葉が書かれています。どんな生活が描かれているのか、とても気になるメッセージです。
「うらやましいほど愉快な共同生活」
(『あの家に暮らす四人の女』帯より引用)
三浦しをんは、1976年生まれの42歳、東京都出身の小説家・随筆家です。数々の作品を生み出しており、多くの受賞歴を持つ、日本を代表する作家のひとり。
第135回直木三十五賞を受賞した『まほろ駅前多田便利軒』や、本屋大賞を受賞した『舟を編む』は、読んだことがなくても、タイトルは聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
- 著者
- 三浦 しをん
- 出版日
- 2015-03-12
家族をはじめとした、「ちょっと変わった人間関係」を描くことでも知られており、登場人物の繊細な感情を表現する文体は、多くの人の共感を呼んできました。
少し変わった女たちが同居しながら、さまざまな日常を過ごしていく『あの家に暮らす四人の女』。本作も、そんな作風が詰まった1冊です。
本作の主要人物は、タイトルにもある通り「四人の女」です。まずは、その四人の女について、それぞれ紹介していきます。
1人目は、洋館の持ち主である牧田鶴代(まきたつるよ)。70歳近くの女性で、生まれた場所もこの洋館です。ガーデニングが趣味で、生まれてこのかた働いたことがないという箱入りのお嬢様です。
大学で出会った男・幸男が婿入りする形で結婚しますが、いろいろあって彼を家からたたき出してしまいます。そのいろいろな部分は、本編で描かれているので、ぜひチェックしてみてください。
2人目はそんな鶴代の娘で、四人のなかでメインとなる、牧田佐知(まきたさち)。刺繍の教室を開いたり、依頼を受けて刺繍の作品を作ったりして、生計を立てている37歳です。
記憶にない父親のことや、そんな父親に対する鶴代の気持ちなどを気にしたり、リフォームのためにやってきた内装業者の男・梶に一目惚れしてしまったり……実年齢よりもどこか幼い印象を受ける女性です。
しかしそれが可愛くて、彼女をより魅力的に見せているのかもしれません。本作では、佐知の家族や恋心などが多く描かれています。
3人目は、佐知の勘違いから偶然に知り合い、一緒に住むことになった谷山雪乃(たにやまゆきの)。佐知と同じ37歳で、保険会社で働いています。
印象の薄い顔立ちで、人からあまり覚えてもらえないタイプですが、佐知の複雑な心境を察して声をかけたり、佐知の恋を応援したりする優しい心の持ち主。雪乃は、佐知にとって「大きな存在」といえるでしょう。
最後に、上野多恵美(うえのたえみ)です。4人のなかで最年少の27歳で、もともと佐知の刺繍教室の生徒でした。誰からも好かれる愛されキャラなのですが、ダメ男ばかり好きになってしまうタイプ。牧田家の洋館に住むようになったのも、ストーカーとなった元カレから逃げるためでした。
また4人のほかに、洋館と同じ敷地にある「離れ」には、山田一郎という80歳くらいの老人が住んでいます。昔から牧田家にいる男ですが、使用人のような居候のような……どこか謎めいた存在です。
どのキャラクターも「現実にいてもおかしくない」ほどリアルな人間味があり、細かなところで個性が際立っています。そんな4人の生活がどんなものなのか、ちょっと覗いてみる気持ちで読んでみるのも面白いかもしれません。
近代文学のなかでも、とくに名前が知られている有名な作品といわれる、小説家・谷崎潤一郎の代表作『細雪』。じつは本作は、現代版『細雪』と銘打たれている作品でもあります。
『細雪』は、四人の姉妹の物語。もちろん舞台となる時代は違いますが、『細雪』と本作は、一緒に暮らす四人の女による物語という点で、同じ雰囲気を味わうことができます。
また本作では、佐知が密かな思いを寄せる男性が登場しますが、『細雪』でも、四人姉妹の三女・雪子のお見合い話が、より多くのページを割いて描かれています。
このように、物語の部分でも重なるところがあり、反対に時代観や価値観の違うところなどが見つけられるので、2つの作品を読み比べてみるのも楽しみ方のひとつです。
4人の女たちによる「穏やかだけど何かが起こる日常」を描いている本作ですが、ファンタジーのような設定やキャラクターが登場するのも魅力的です。
たとえば、洋館のなかにある「開かずの間」のエピソード。40年近くも封印されているその部屋は、佐知でさえ、なかに入ったことがありません。
それだけでも気になるところですが、雪乃がある理由から「ヘアピンと針金」を駆使して、部屋のなかに入りこむというシーンでは、つい笑ってしまうでしょう。
「開かずの間」の謎は、作中で明かされることになりますが、その設定だけでもどんどんページをめくってしまいたくなる面白さがあります。
そして、気になるキャラクターとしては、善福丸(ぜんぷくまる)という名前のカラスがいます。このカラスは、洋館のとある地域のことであれば、過去や未来を含めて「なんでも知っている」という不思議なキャラクター。
まるで神様のような雰囲気でもありますが、全世界のすべてを知っているわけではなく、洋館のとある「地域」だけというところが、なんともいえない面白さを感じさせてくれます。
このキャラクターもまた、ストーリー上で重要な役割を果たすことになるので、ぜひチェックしておきましょう。
本作のラストでは、「河童のミイラ」がとても重要な役割を果たすことになります。この河童のミイラは、40年以上も扉が閉ざされていた「開かずの間」から出てきたもの。
その詳細については、ぜひ本編を手に取って確認してほしいところですが、少しだけネタバレすると……河童のミイラは、鶴代のかつての夫で、佐知の父親である幸男とゆかりのあるものです。
また、河童のミイラのことを知った多恵美の発案で、ガラスケースに入れられて、リビングに置かれることになります。
- 著者
- 三浦 しをん
- 出版日
- 2018-06-22
同じころ、洋館の周辺に不審者が出るようになり、警察がパトロールを強化するようになります。なんとなく不安を覚えるようになった佐知たちでしたが、その不安は的中してしまうのです。
空き巣が洋館に入り込み、そのうえ佐知と鉢合わせしてしまい、彼女は絶体絶命のピンチに!そのとき佐知を助けてくれたのが……。
予想を裏切る展開になっていることは間違いないので、ぜひ期待して読んでみてください。
また、佐知が密かに想いを寄せている梶との関係にも注目です。こちらのエピソードには、あまり派手さはありませんが、きっと気持ちがほんのりと温かくなるでしょう。
少し変わった同居生活を描く本作は、家族という形が多様化されていく今だからこそ、あらためて読んでみたい作品です。ぜひドラマと合わせて楽しんでください。