下級武士である主人公が、身分の低さというしがらみから抜け出して剣の道を極めるために自分の道場をひらくというストーリーの『サムライうさぎ』。江戸時代を舞台に、15歳の悟助が才能とまっすぐな性格で道を切り開いていく様子に勇気をもらう作品です。 可愛らしい絵柄だけでなく、タイトルのうさぎにちなんで、連載話数は第〇話ではなく第〇羽となっているのも特徴です。この記事ではコミカルで熱量の高い本作の魅力を最終回までご紹介!スマホアプリで読むこともできるので、そちらもどうぞ。
舞台は侍を頂点とする士農工商の社会。下級武士は縦社会によって出世を阻まれ、圧迫された生活を送ること余儀なくされていました。
しかも主人公の宇田川伍助は、身分の差によって理不尽な理由から父と兄を次々と失ってしまい、はからずも家を継ぐことになった人物でした。
上司の機嫌を取りながらも剣術の努力を怠らず、立派な武士になることを目指して働いていました。
- 著者
- 福島 鉄平
- 出版日
- 2007-07-04
しかしある日、どれだけ剣の腕があっても、結局は身分の差によって他人の昇進の踏み台にされることになるという現実を知り、絶望します。悔しさに歯ぎしりしながら、それでも武士の世界で身を立てたい彼は、妻の志乃が見せる自由奔放な言動と姿から、自分も窮屈な侍社会から抜け出すことを決心するのです。
本作は、天下一の剣術道場を開くと決意した伍助が、くだらない見栄と体面からの自由になった象徴として、「うさぎ」になると決めたことが、「サムライうさぎ」というタイトルの意味に繋がっています。
イラストからはギャグ路線だと思われることも多いようですが、本作の魅力は骨太なところにあります。この記事でその魅力に迫って見ましょう。
福島鉄平は2000年に「コミックフラッパー」からデビューし、作品を掲載しながら、「週刊少年ジャンプ」の月例賞にも投稿を開始します。2003年には赤マルジャンプに『red』を掲載し、再デビュー。
しかしその後も『切法師』の中島諭宇樹や『闇神コウ~暗闇にドッキリ!~』の加地君也に師事し、アシスタントをしていました。
- 著者
- 福島 鉄平
- 出版日
- 2018-09-19
2007年に「週刊少年ジャンプ」に掲載された『サムライうさぎ』が連載のデビュー作品となり、それまでの間にかなりの読み切り作品を描いています。
また、2019年9月現在、『ボクらは魔法少年』という作品を連載中。魔法少女に憧れる少年が、魔法少女になるという、なんともユニークな設定のストーリーを描いています。
そんな福島は、心の機微を描くのがうまい漫画家で、優しい世界観のなかで、心に沁みるようなまっすぐなテーマを問いかけてくる作風が多い人物です。『サムライうさぎ』でも、可愛らしい絵柄で身分やしがらみに打ち勝つことについて真っ正面から描ききっています。
本作最大の魅力は、真摯に頑張る若い侍と、夫を支える明るい妻のほのぼのとした展開です。
15歳で家督を継ぎ、嫁を貰って出世のために剣術に磨きをかけようと頑張る伍助。そんな彼を、天真爛漫で少しずれたところがあるものの、ふいに物事の本質を突くようなことを口にする可愛らしい志乃が支えます。つつましくも幸せに過ごす姿は清楚な感じすら受けます。
そもそも、悟助があたらしく道場をつくろうと思えたのも、志乃がいたから。彼女がうさぎ好きである理由に、こんな名言があります。
- 著者
- 福島 鉄平
- 出版日
- 2007-10-04
「うさぎはねェ…
ピョンピョン跳ねて月まで飛ぼうと…
がんばってるヤツラだからね!!」
(『サムライうさぎ』1巻より引用)
そしてうさぎはどんな理由で飛んでいる訳でもないし、普通はただ可愛いと思うくらいの動物ではないか、と悟助は返しますが、志乃はさらにこう続けるのです。
「アタシにはそーゆー風に見えるんだからさ!!!」
(『サムライうさぎ』1巻より引用)
この言葉を聞いた伍助は、自分をがんじがらめにしていた武士階級へのこだわりより大事なものに気づきます。
このように、本作は2人のハートフルなやりとりに癒されるのが最大の魅力。お互いに初々しく相手を思う様子に、優しさが感じられます。
- 著者
- 福島 鉄平
- 出版日
- 2007-12-04
冒頭でも少しお伝えしましたが、本作は悟助が身分社会のしがらみから抜け出して、剣術の腕のみに主眼をおいた道場をつくることがメインストーリーです。
彼は父親と兄を身分の高い人物の理不尽によって失くしている人物です。それゆえに、社会のなかで和を乱さないことに人一倍気配りをしていました。
しかし尊敬していた人物に裏切られたこと、志乃の自由は発想に勇気をもらったことを経て、自分の夢へ進み出すのです。
この考えは現代では当たり前になっているところも多いですが、この当時は、当時の社会のルールを壊す、時の権力者からみると、とても危険なもの。今とは桁違いに革新的な考え方なのです。
この背景を知りながら読むと、より悟助の考え方の意味の深さが感じられ、勇気をもらうことでしょう。
- 著者
- 福島 鉄平
- 出版日
- 2008-02-04
また、本作はサブキャラたちもそれぞれの作り込みが細かく、メインキャラに引けを取らない魅力を持っています。
たとえば志乃の兄である摂津正雪は、なかなか憎めない人物。基本的に面倒くさいことが嫌いで、どこまでも逃げようとするタイプです。しかも女好きで、よく遊郭にかよっているという、いつもフラフラしているようなイメージ。しかし案外妹思いなところがあり、根本的には人がいいため、なかな憎めません。
さらに彼は自分に剣術の才能がないことを知っているものの、周囲が驚くほどの努力をずっと続けていた人物でもあります。しかもそれだけの努力を続けていたにも関わらず、周囲に迷惑をかけたくないという理由で悟助の道場を立ち去ろうとしたこともあるほど、他人に思いなところもあるのです。
このように、それぞれのキャラが単純な一面だけでなく、さまざまな顔を持って人生をいきている様子が見られるところも本作の魅力なのです。
もともとは人情味のあるハートフルな展開が魅力の作品でしたが、徐々に本作はバトル漫画的な展開になっていきます。大会という要素を中心として勝敗があり、そこにむけての努力が描かれるように。
この展開は賛否両論ありますが、最終的にはまた、初期のようなほのぼのとしたあたたかいストーリーがメインに戻っていきます。
- 著者
- 福島 鉄平
- 出版日
- 2008-04-04
特に最終回までの4話は、当初の展開に回帰したもの。メインは悟助と志乃の絆です。悟助は志乃が懸命に家事などをこなす姿を見て、ある考えに思い至ります。
彼らがたどり着いた2人の関係性の答えとは、何なのでしょうか?途中でバトルメインになることもありましたが、本質的にこの作品は夫婦の物語なのだと感じさせられる結末です。
また、8巻にはその後の物語も掲載されています。夫婦、彼らの2人娘の進路を含め、キャラたちがそれぞれの形で幸せになっている姿を見られるもの。それまでのファンでしたら泣いてしまうこと間違いなしです。