武家の家の出という高貴な出自であるものの、少し間の抜けた静が主人公のちょいエロコメディが『夜明け後の静』。文明が開花したものの、まだ江の時代の名残を残した明治の日本の様子にも引き込まれる作品です。 この記事ではそんな本作の魅力を続編の「静さまは初恋である」までご紹介。スマホアプリで読むこともできるので、気になった方はそちらもどうぞ。
『夜明け後の静』は明治維新が行われて間もない頃の日本が舞台。主人公の小此木静(おこのぎしず)は武家の娘として生まれ、その立場に見合った性格になるよう育てられてきました。しかし明治維新によって武士の立場は失墜し、平民といっしょに普通の学校に通うようになります。
- 著者
- 石川 秀幸
- 出版日
- 2018-06-19
周りの女子たちは見目麗しい静に対して憧れを抱きながら接しようとするのですが、彼女は軽々しく平民と接するのはプライドが許しませんでした。それゆえ、なるべく一人で学校生活を送ろうとするのですが、明治になって以降海外から伝来した文化になじめず苦労します。
しかも時々ドジを踏んでしまうので、読者としてはそんな悪戦苦闘ぶりが微笑ましく、彼女を見守りたくなってしまいます。果たして静は周囲に気を許すことができるのでしょうか、それともこのままひとりで学生生活を送ってしまうのでしょうか?
主人公の小此木静は当時の女性にしては発育のよい女性として描かれています。とはいえ、江戸時代の女性にとって胸が大きいということは恥以外の何物でもありませんでした。周囲に見せびらかすなんてもってのほかで、着物を着る際にはさらしを巻いて押さえているほどです。
当然静もそうした慣例に倣ってさらしを巻き、着物で隠しながら学生生活を送ります。しかしながら、さらしでは抑えきれないほどのバストを持っているため、ふとした拍子でさらしが外れてしまうことがあるのです。
そのときの描写はエロティック。普段の気の強そうな表情ときっちりとした着物のイメージがあるので、彼女の意図しない状況になった時の表情や着物がゆるんだところから見える危うげな肢体にドキドキしてしみあいます。
特に彼女が意識のある状態でラッキースケベがあった際には羞恥心を感じているさまはしっかりと描かれており、見所です。
- 著者
- 石川 秀幸
- 出版日
- 2018-09-19
基本的に『夜明け後の静』は主人公の静の視点で展開されます。とはいえ、ほかの登場人物がピックアップされることも少なくありません。
たとえば、さち子という登場人物は貿易商の娘で子供の頃から海外に行くことが多かった女性です。この当時の女性には珍しいことで、その影響もあってか、あっけらかんと明るい性格。先進的なキャラとしてのシーンが多いです。
ただそれだけではなく、普段から洋装を着て学校に来ているさち子は、貧乳をコンプレックスにしており、大きな胸を隠している静に劣等感を抱いている様子も可愛いもの。
このように時代ならではの女性の性格や悩みを克明に描いているところも『夜明け後の静』の魅力のひとつです。
- 著者
- 石川 秀幸
- 出版日
- 2018-11-19
『夜明け後の静』は3巻をもっていったん完結しています。この巻で特にピックアップされているのは茅(かや)という女生徒です。
父親がもともと小此木家に仕えていた者で、維新後に会計役として宮仕えとなりました。とはいえ彼女にとって静は依然として静は尊敬すべき人であり、なにかと学校生活の助けをしていました。静は何かと彼女を頼りにしています。
あるときその茅が結婚を機に退学するという噂が学内を駆け巡ります。ショックを受けた静は彼女に事実かどうかを問い質しにいきました。茅は首を縦に振り、それを事実だと認めます。その後2人は……。
物語の区切りとしてはしっかりと作られており、おのおのの成長も描かれているきれいな最終回です。もっとも、これで静の物語は終わりというわけではありません。
『夜明け後の静』連載終了から4ヶ月後、『静さまは初恋である、浪漫斯はまだない』と改題して再び連載を開始しました。
ストーリーの冒頭で静は街を歩いているところ、ある男性と衝突してしまいます。彼から助け起こされた静でしたが、そこで彼女らしい勘違いをしてしまいました。
男性と手を触れたことで自分が妊娠してしまった、と思い込んでしまうのです。
当然ながら周りからは呆れられたのですが、もともと医者を目指している静にとってこうした勘違いは致命的です。彼女の先生であるキャロラインはどうしたら子供ができるかを一から学ばせるために、西洋医療を専門で学べる診療所へ出向かせました。そこにはなんと、冒頭で衝突した男性がいたのです。
前作は女性が中心となっていた物語ですが、続編になって男性もストーリの中心に参加するようになりました。静が恋愛を知りどのように変化するのか、という見所が増えてますます気になる展開です。
- 著者
- 石川 秀幸
- 出版日
- 2019-07-19
静と衝突した男性の名前は凪。彼もまた武家の生まれでしたが、維新後、武道がなんの意味もなくなったのを悟り、医者の道を歩むことを決心しました。とはいえ、まだまだ知識が未熟だった彼もまた、静と同様手を触れたことで相手を妊娠させてしまったと思い込んでいたのです。
行きずりの女性を妊娠させてしまったと思い込んでいる凪は責任を取り切腹するしかない、と早とちりしてしまいます。周囲の説得もあって思いとどまりましたが、そこに静が現れ、しかもこれから診療所に通うといってきたのでまた」話はややこしくなり……。
可愛らしい勘違いからスタートする、静の新たな物語。これまでは明治維新が終わった後に女性がどう暮らしていたかに焦点が当たっていましたが、ここで男性の視点が加わることになりました。凪もまた極端な性格ではありますが、当時の男性の価値観の一端を知ることができます。
静の恋愛模様について注目しつつ、当時の男性の心境も合わせて楽しんでみてはいかがでしょうか。ちなみに本作からはお色気要素は少なめになり、爽やかなラブコメ風味になっています。