ミステリー小説のなかに「コージーミステリー」というジャンルがあるのをご存知でしょうか。殺人などの陰惨な表現はほとんどなく、日常に潜む謎を解き明かしていくミステリー小説です。この記事では、コージーミステリーの魅力と、おすすめの作品を紹介していきます。
ミステリー小説のジャンルのひとつ「コージーミステリー」。当時アメリカで流行していたハードボイルド小説の対になるものとして、イギリスで発祥しました。
コージー(cozy)には「親しみやすい」「居心地がよい」という意味があり、コージーミステリーは主に日常に潜む謎を解き明かしていきます。
そのほかの特徴として、
などが挙げられるでしょう。ミステリーではあるけれど、殺人などの凄惨な表現が苦手な方でも楽しめるという魅力があります。
何事にも積極的に関わらない「省エネ主義」をモットーにしている高校1年生の折木奉太郎は、姉からの命令で廃部ぎりぎりの古典部に入部することになりました。そこで、好奇心旺盛な女子生徒、千反田えると出会います。
さらに、元部長であるえるの伯父が、33年前に関わったという事件の謎を解いてほしいと依頼され……。
- 著者
- 米澤 穂信
- 出版日
- 2001-10-31
2001年に刊行された岐阜県出身のミステリー作家、米澤穂信の代表作「古典部」シリーズの1作目です。2012年にテレビアニメ化、そして2017年には実写映画化もされている人気作で、「角川学園小説大賞」では奨励賞を受賞しました。
奉太郎は、部員たちとともに33年前の謎に挑みます。事件の鍵となるのは、代々発表されている古典部の文集「氷菓」。そのタイトルにはどんな意味が込められているのでしょうか。
伏線が丁寧に張り巡らされ、そのうえで展開される推理は読んでいて爽快。さらに謎を追うなかで少年少女たちの成長や心の揺れも描かれていて、青春小説としても楽しめるコージーミステリーだといえるでしょう。高校が舞台でありながら読後感はなかなかにビターで、そのコントラストも魅力です。
中学校に通う沢崎瞬太は、実はキツネの耳と尻尾をもつ妖狐。母親につれられて、王子稲荷のふもとにある商店街にできた占いの店「陰陽屋」でアルバイトをすることになりました。
しかしその店、店主の阿倍祥明は元ホストの偽陰陽師で、怪しさ満点。この2人がコンビを組んで、店を訪れる人々の悩みを解決するべく奮闘します。
- 著者
- 天野 頌子
- 出版日
- 2011-01-05
2007年に刊行された天野頌子の作品です。2013年にはテレビドラマ化もされました。
まっすぐで裏表がない瞬太と、毒舌ですがお金が絡む相手には優しい祥明という凸凹コンビが活躍。テンポのよい会話劇を楽しめます。
コメディタッチで日常の謎を追うコージーミステリーなので、殺人などの血なまぐさい事件はありません。ほのぼのとしたミステリーが好きな方に特におすすめ。また文体も軽いので、普段あまり読書をしない方でも読みやすい作品になっています。
鎌倉の片隅でひっそりと営業している古本屋「ビブリア古書堂」。美人店主の栞子は、古書に関しては並外れた知識をもっているものの、内気な性格で極度の人見知りです。
そんな彼女が、ビブリア古書堂を訪れる客が持ち込むいわくつきの謎を、持ち前の知識を生かして解いていきます。
- 著者
- 三上 延
- 出版日
- 2011-03-25
2011年に刊行された三上延の代表作「ビブリア古書堂」シリーズの1作目です。メディアワークス文庫における初のミリオンセラー作品で、2012年には「本屋大賞」にもノミネートされました。漫画、テレビドラマ、映画など多方面にメディアミックスもされています。
本書の特徴は、作中に登場する古書が実在するということ。事前知識は必要ありませんが、古書の内容と絡めながら物語が進んでいくコージーミステリーなので、読んでいるだけで自然と世界が広がっていき、古書への興味も沸いてくるでしょう。
栞子が知識のみで謎を解いていく様子は面白く、本を読むこと自体の楽しさも感じられる作品です。
都会で美容師をしていたものの、仕事にも恋愛にも疲れはててしまった仁科明里。小学生の頃にひと夏を過ごしたことのある、地方の商店街に引っ越すことにしました。
新居の斜め向かいで時計店を営む飯田秀司と知り合い、彼とともに商店街の人たちが持ち込む謎を解いていきます。明里はしだいに、秀司に惹かれていくようになり……。
- 著者
- 谷 瑞恵
- 出版日
- 2012-09-20
2012年に刊行された谷瑞恵の作品です。谷はもともと、主に児童向けのファンタジー小説を手掛けていましたが、「大人向けのものを書いてみたい」と本シリーズを執筆したそうです。
日常に潜むちょっとした不思議な出来事を追いかけるコージーミステリー。黒猫が喋ったり、神隠しがあったりと、本作にもファンタジー要素が含まれていて、物語を彩るアクセントになっています。結末はどれも、人のあたたかさを感じられてほろりと泣けるようなもの。優しい気持ちになれるミステリーです。
大叔母から、ブルックリンにある書店を継ぐことになったダーラ。30代なかばの女性です。その書店には、緑色の目で冷たく客を睨む、黒猫のハムレットが主のように暮らしていました。
ある日ダーラは、近くの工事現場で、店の常連客が死んでいるのを見つけてしまい……。
- 著者
- アリ・ブランドン
- 出版日
- 2015-08-29
2015年に刊行された、アメリカの作家アリ・ブランドンの作品です。
死体の近くには、何やら動物の足跡がありました。そして猫のハムレットは、どうやら事件に関する何かを知っている様子です。ハムレットの出すヒントをもとに、ダーラと友人の探偵が犯人の推理をしていきます。終盤のサスペンスは怒涛の盛りあがりで、コージーミステリーながらスリリングな展開を楽しめるでしょう。
また犯人捜しだけではなく、書店の経営や、ダーラと周りの人々との関係なども丁寧に描かれているのも特徴。ニューヨークの街並みも楽しめるので、海外のコージーミステリーを読みたいと考えている人にもおすすめです。