『魔風が吹く』4巻までの見所をネタバレ考察!設定だけじゃない骨太な魅力!

更新:2021.12.11

無職で学歴もない青年がふとしたことから裏社会に接触してしまい、そのせいで殺人の疑いをかけられて被害者の父親や、裏社会の危険人物からも狙われるようになるクライムサスペンスとなっています。 本作は漫画アプリでも無料で読めるので、気になった方はぜひ読んでみてください!下のボタンから、簡単にアプリに移動することが可能です。

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『魔風が吹く』が今読んでも面白い!奇抜な設定と純文学のような深さ【あらすじ】

熊本地震の衝撃もまだ生々しく残る2016年、K県K市では人知れず狂気な事件が進行していました。上遠野由奈(かどのゆな)という若い女性が、台風の最中で死体遺棄されたことが発覚したのです。

父親の上遠野は憔悴しながらも遺留品を探し、ついに警察も見つけられなかった手がかりを発見しました。その手がかりとは20代無職の青年、堺翔平のスマートフォンでした。

就職もできずにいた境は、金に困って詐欺に手を出すほど荒んだ生活を送っていました。即金の欲しかった彼は、中学時代の旧友から仕事の手伝いをしないかと持ちかけられるのですが……その仕事とは女性の死体、すなわち上遠野由奈を捨ててくることだったのです。

不幸にも上遠野由奈殺害犯と間違われた境は、自身のスマホを腹部に埋め込まれてしまい、上遠野の復讐劇に巻き込まれていくのでした。

著者
円城寺 真己
出版日
2018-08-17

本作は奇抜な設定が特徴的なクライムサスペンスとなっています。フォトリアルな画風は元より、善人にも悪人にもなりきれない半端な主人公・境の言動がとてもリアルで、そんな男がどん底から這い上がろうとする姿勢には純文学的な赴きも感じられます。
 

タイトルの「魔風」とは、普通の人が厄介事を起こしていく内容から、「魔が差す」のような意味だと思われます。

登場人物紹介

主人公の堺翔平は落ちこぼれであることを除けば、きわめて現代的な若者です。高校を中退してからはまともな職に就かず、日々をなんとなく生きてきました。良心も倫理観も人並みにありますが、それとは別に、詐欺に手を染めるのは「困窮しているから仕方ない」と考えてしまう甘ったれた思考の持ち主。

境は裏社会の人間に睨まれたり、腹部にスマホを埋め込まれたり、事件の当事者でもないのにどんどん不幸な目に遭っていきます。

境を最悪な状況に追い込んだ張本人は、死体遺棄事件被害者の父親である上遠野です。独力で境の事件への関与を突き止め、復讐を開始しました。腕のよい医者であり、スマホを腹部に入れたのも彼の手腕です。上遠野は表向き冷静で優しい人格者として振る舞うのですが、裏表の激しさで事件のショックで彼が人間的に壊れてしまったことを伺わせます。

おそらく物語の鍵を握るのが、通称「番頭」と呼ばれる謎の男。暴力団関係者で境の関わっていた詐欺グループを取りまとめていました。性格は冷酷無比。恐怖と弱みで人をコントロールして容赦なく暴力を振るいます。上遠野由奈の死体遺棄を指示し、何かと境を酷い目に遭わせる張本人。娘を殺された上遠野にとっては、本当に狙うべき相手なのですが……。

そして境を巻き込んだ旧友、「キムタケ」こと木村武彦。経緯は不明ですが、番頭とともに上遠野由奈の死体を処理しようとしていました。彼もまた感情のない表情で、淡々と遺体の処理を友人に依頼します。かつては友だった彼に、一体何があったのでしょうか。

主人公の境以外、なにを考えているのかが分からない登場人物たち。彼らから目が離せません。

『魔風が吹く』の魅力:リアルさが沁みる!不運の連続

著者
円城寺 真己
出版日
2018-08-17

本作の面白さは「実際にいそう」と思える、等身大のリアルな登場人物にあります。一部普通でない者もいますが、多くは良くも悪くも、どこにでもいそうな普通の人間が、恐るべき事態に巻き込まれていくというのが面白いです。

平凡な青年がいつの間にかドロップアウトし、魔が差して犯罪に携わったことで転げ落ちるようにドツボにはまっていく……悲劇としか言いようがありませんが、基本的にリアル寄りの本作において、トントン拍子に不運に見舞われていく境の姿は、少し異常です。

詐欺未遂から死体遺棄へ、死体遺棄から殺人容疑へ、殺人容疑から復讐に巻き込まれ、ヤクザには脅され……と不幸の連鎖が起きていきます。

善良な人間でもなく単なる悪人でもなく、なあなあで来てしまった普通の人が主人公だからこそ、この物語の異常さが際立つのです。

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『魔風が吹く』の魅力:スマホを埋め込まれるという緊張感

本作がただのクライムサスペンスではなく、緊張感に満ちた作風に仕上がっているのは、今時のガジェットであるスマホをユニークに活用しているからでしょう。

現代はスマホがあれば誰とでも連絡できます。刑事罰を覚悟すれば、上遠野や番頭の手を逃れて警察に通報して逃げ込むこともできるでしょう。

ところが境にはそれができません。金欠の彼が唯一所持するスマホが、上遠野の手によって腹部に埋め込まれたためです。上遠野はこのスマホの位置情報で境の状況を読み取り、事前に手渡しておいたイヤホンマイクで連絡を取ってきます。

体内のスマホは基本的に操作できず、自分からの連絡も不可能。さらにスマホの振動は想像以上に境を苦しめ、まるで孫悟空の頭の輪のようにも機能します。ご丁寧に充電ケーブルだけ手術の傷口から出されており、注意すればバッテリー切れすることはありません。

境の位置情報はスマホで割り出されるので、上遠野や番頭、あるいは他の人物に居場所がすぐバレてしまいます。この奇抜なアイディアがよいエッセンスとなって、物語の要所で緩急を与えてくれるのが面白いです。

『魔風が吹く』の魅力:ここまでやるか!壊れていく日常

著者
円城寺 真己
出版日
2018-11-19

グロテスクとまではいかないまでも、肉体的にも精神的にも痛々しい描写の数々は、本作の魅力の1つです。

真っ先に目を引くのは境に施された腹部の手術でしょう。大した道具もなしに行われた手術跡は非常に生々しく、見ているだけで痛みを感じるようです。

ある意味で腹部のスマホよりぶっ飛んでいるのが、番頭による数々の暴力行為です。殴る蹴るといった単純なものではありません。割り箸で眼球を抉ろうとしたり、男性器の先端をわざわざ紙で引き裂いたり、人の生皮を剥いだり(ガムテープを活用するのがリアルで怖いところ)、見た目で恐怖心を煽るシーンが多々描かれるのです。

番頭の暴力で追い詰められ、境の日常は加速度的に崩壊していきます。

『魔風が吹く』4巻の見所をネタバレ紹介!

境は真犯人を追う上遠野に協力するようになりますが、ことごとく番頭に横槍を入れられてしまいます。おそらく番頭が犯人、少なくとも犯人を知っているに違いないのですが、本人も捕らえられず確証もありません。

番頭に近づくべく、境は番頭と知り合いらしい木村の妹、日菜子と接触を図ります。日菜子の口から番頭の人となりが語られ、ただの冷酷な人間ではなかったことがわかります。

著者
円城寺 真己
出版日
2019-06-19

物語はどんどん集束し、関係者が続々と集結していきます。番頭を追う境、境を付け狙う番頭。その番頭を誘き寄せるために上遠野は日菜子をさらい、番頭もまた境の行方を知るために境の元カノの愛梨を抑えました。そこへさらに番頭目当ての関西弁ヤクザが街に雪崩れ込み、妹が巻き込まれた木村も参戦してきます。

登場人物の思惑と関係が錯綜し、予想不能の衝突を起こすのが4巻の見所と言えます。話が進むと、脇役かと思われていた者が意外なキーパーソンということが判明し、ダイナミックに展開していくのが素晴らしいです。

死体遺棄事件に端を発する一連の復讐騒動が、どのような結末を迎えるのか非常に楽しみです。

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いかがでしたか? 物語は気になる展開が目白押しとなっていきます。今後の境の運命や、上遠野の意志がどうなるのか気になって仕方がありません。

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