「野間児童文芸賞」歴代受賞作品からおすすめを紹介!大人も楽しめる名作揃い

更新:2019.10.1

児童向けの小説や童話などに贈られる「野間児童文芸賞」。大人が読んでも魅力的な作品が数多くあります。この記事では、歴代受賞作のなかから特におすすめの作品を厳選してご紹介していきます。

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「野間児童文芸賞」とは。選考委員や傾向など

 

講談社の初代社長である野間清治は、日本の文芸作品の質的向上を願い、その発展に力を注いでいました。彼の遺志を継ぎ、1941年に「野間文芸賞」と、「野間文芸新人賞」の前身である「野間文芸奨励賞」が創設されます。

この記事で取りあげる「野間児童文芸賞」は、「野間文芸賞」に包含されていた児童部門を独立させて1963年に誕生したもの。他の2つの賞とあわせて「野間三賞」と呼ばれるようになりました。

主催をしているのは、財団法人野間文化財団。児童向けの文学や詩、童謡、ノンフィクション作品が受賞の対象です。8月1日から翌年の7月31日までに発表された作品のなかから、選考委員による合議で受賞作が決定されます。

 

「野間児童文芸賞」を受賞した、時代を越えて愛され続ける名作『バッテリー』

 

主人公の原田巧は、天性の才能をもつピッチャー。中学校へ入学する直前に、父親の転勤のため岡山県と広島県の県境に位置する新田市にある、母親の実家に引っ越すことになりました。引越し初日、日課にしているランニングをしていると、同級生だという永倉豪と出会います。2人はやがてバッテリーを組むようになり、野球を通してともに成長していきます。

その一方で、新田市にある野球部について調べていた巧は、祖父の井岡洋三が、かつて新田高校野球部を何度も甲子園に導いた名監督だったことを知るのです。祖父に変化球を教えてもらいたいと頼むのですが……。

 

著者
あさの あつこ
出版日
2003-12-25

 

1997年に「野間児童文芸賞」を受賞した、あさのあつこの作品です。

巧は、自分に才能があることをわかりながら努力も怠りません。それゆえに自信家で、プライドが高いです。一方の豪は温厚で、周囲の人からも好かれる真面目な性格。対照的な2人が、野球を通して真剣に向き合い、真のバッテリーへと成長する過程が見どころでしょう。

試合に勝ち進む様子が描かれるスポーツ小説ではなく、彼らの心の動きが中心に描かれているので、野球に詳しくなくても問題ありません。まだ幼さが残る2人が時に葛藤し、苛立つ様子や、バッテリーという信頼関係がないと成り立たない間柄ゆえのすれ違いなどに、大人の読者でも心がぎゅっと掴まれます。

小学校高学年や、中学生の読書感想文にもおすすめです。

 

闇に差し込む一筋の光を描いた「野間児童文芸賞」受賞作『つきのふね』

 

中学2年生のさくらと梨利は親友。しかしある事件をきっかけに、2人は口もきかなくなってしまいました。さくらは、梨利を裏切ってしまったことを後悔し続け、一方の梨利もさくらと疎遠になり不良グループとつるむように。もやもやした気持ちを抱えたまま、日々を過ごします。

梨利に好意を抱いていた同級生の勝田は、なんとか2人を仲直りさせようとしますが、さくらは仲違いをした理由を彼に話すことはできません。

そんな彼女の唯一の心のよりどころは、事件が起こったコンビニで働いていた、大学生の智さんです。しかし彼もまた、どんどんと心を病んでいき……。

 

著者
森 絵都
出版日
2005-11-25

 

1998年に「野間児童文芸賞」を受賞した森絵都の作品です。

さくら、梨利、勝田、智さんという4人を描いた物語。彼らは皆、人間関係や家族の問題など、何かしら不安や虚しさを抱えています。特に智さんは、「1999年の7月に人類が滅亡する」というノストラダムスの予言を信じ、人類を救う宇宙船の設計図を書いているという不思議な人物です。

誰しも彼の言動は空想に支配されていると思うのですが、さくらと梨利を仲直りさせたいと願う勝田の計らいによってそれが現実となり……タイトルにもなっている「つきのふね」を、小学校の屋上で浮かべるシーンは圧巻でしょう。

「人より壊れやすい心に生まれついた人間は、それでも生きていくだけの強さも同時に生まれもってるもんなんだよ。」(『つきのふね』より引用)

痛いくらい心に刺さる名言もたくさん。読者の背中を押してくれる物語です。

 

上橋菜穂子のファンタジーが「野間児童文芸賞」を受賞『狐笛のかなた』

 

人の心の声が聞こえるという「聞き耳」の能力をもつ少女、小夜。ある夜、森で猟犬に追われる狐を助けます。その狐は、この世とあの神の世の間で生まれ、人間によって「使い魔」にされている霊狐でした。

しかし小夜も猟犬に追われてしまい、もはやこれまでと思われたその時、ひとりの少年に助けられます。彼は隣あう国同士の戦いに巻き込まれ、屋敷に10年間も幽閉されていた小春丸という者でした。それから小夜と小春丸はよくおしゃべりをするようになり、狐の野火もその様子をひっそり見守ります。

そんな日々がずっと続くと思っていた矢先、小春丸の脱走がばれてしまい、2人は会えなくなってしまいました。それから数年が経ち……。

 

著者
上橋 菜穂子
出版日
2006-11-28

 

2004年に「野間児童文芸賞」を受賞した上橋菜穂子の作品。霊能力者や霊狐、呪術などが登場する日本的なファンタジー小説です。

物語のメインは、幼い頃に出会った小夜、小春丸、野火がそれぞれ成長し、大人になってから。世界には、国同士の領土争いや呪詛の怨念がうずまいています。霊狐の野火は、主である霊能力者から「使い魔」にされていて、逆らえば命はないという状況。そんななかで小夜に危険が迫っていることを知り、とある選択をするのです。

序盤は小夜と小春丸の恋の物語かと思いきや、実は本作は小夜と野火の恋物語。小夜に助けてもらったことを何年経っても忘れずにいた野火は、淡く儚い想いを募らせていました。

純真無垢な小夜と小春丸と野火。運命に翻弄されながらも、それぞれが意志を貫こうとする姿に心を動かされる作品です。

 

キラキラと輝く夏の日を思い出す小説『しずかな日々』

 

小学生の枝田光輝は、人見知りでこれといった取り柄もなく、友達ができずにいました。しかし5年生になった始業式の日、後ろの席の押野に誘われて、空き地で草野球をやることに。この日を境に、彼の世界は急速に広がっていきます。

初めてできた友達と楽しい日々を送るようになりますが、そんななか母親から、仕事の都合で引っ越すことになったと告げられるのです。

どうしても転校したくなかった光輝は、夏休みから祖父の家で暮らすことになりました。

 

著者
椰月 美智子
出版日
2010-06-15

 

2007年に「野間児童文芸賞」を受賞した椰月美智子の作品です。

押野と出会うまでは、モノクロで音すらも感じさせないような日々を送っていた光輝でしたが、友人ができたことで世界は鮮やかになり、賑やかな声にあふれます。人は、周りの人との関わりでできていると実感させられるでしょう。

夏の水まき、線香花火、縁側でのスイカ、ラジオ体操など、何気ない出来事のひとつひとつがキラキラと輝いていること、母親とのすれ違いや祖父との距離感など、思春期に入る少し手前の子ども目線の描写が秀逸です。

 

少女と世界を繋ぐ「うた」の力を描いた「野間児童文芸賞」受賞作『うたうとは小さないのちひろいあげ』

 

高校1年生の白石桃子は、短歌の魅力に惹かれ「うた部」に入部。ユーモラスな先輩たちに囲まれて楽しく過ごしていました。

その一方で、常に心に引っかかっていることがあります。中学時代の親友、綾美が、いじめが原因で不登校になってしまっていたのです。

過去に起きたある事件が原因で、綾美に引け目を感じている桃子ですが、先輩にも背中を押されて何とか綾美の心を開こうと奮闘します。

 

著者
村上 しいこ
出版日
2015-05-26

 

2015年に「野間児童文芸賞」を受賞した村上しいこの作品です。

短歌は、五七五七七の31音で構成される歌。短い音のなかに届けたい言葉を込められるよう試行錯誤するなかで、少しずつ変化していく桃子と綾美の姿が描かれます。言葉のもつ力の大きさを痛感させられるでしょう。

タイトルにもなっている「うたうとは小さないのちひろいあげ」、桃子が詠んだこの上の句に、綾美は何と返すのでしょうか。

 

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