ピカレスク小説とは?特徴や世界の代表作、日本のおすすめ本を紹介!

更新:2019.10.3

悪漢小説や悪者小説ともいわれる「ピカレスク小説」。アンチ・ヒーローが主人公の物語です。正義の味方もよいけれど、悪の魅力に酔いしれてみるのもまた一興ではないでしょうか。この記事では、世界初のピカレスク小説から日本の代表作まで、読んでおきたいおすすめの5作を紹介していきます。

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ピカレスク小説とは。特徴を解説!

 

ピカレスクロマン、悪漢小説、悪者小説とも呼ばれる「ピカレスク小説」。簡単にいうと悪者を主人公にした物語です。

かつて中世ヨーロッパでは、若い騎士が冒険の旅をしながら悪者を退治し、美しい姫を助ける「騎士道物語」が普及していました。「選ばれし者」が主人公の物語は、ロールプレイングゲームや映画など、現代にも受け継がれている正統派です。

しかし16世紀なかばのスペインでは、小麦不足による食糧難が発生。あまりにも厳しい現実に、理想主義的な騎士道物語は陳腐化していき、悪者を主人公とする初めてのピカレスク小説『ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯』が誕生しました。高貴な血筋ではなくいわゆる下層出身の主人公が、冒険ではなく現実社会のなかでもがきながら生きるリアルな姿が描かれ、ヨーロッパ中で身分を問わず流行します。

それ以来、強気をくじき弱きを助ける「ルパン」や「ねずみ小僧」のような義賊物語も人々の心を掴み、ピカレスクは小説のひとつの形式として定着しました。

 

世界初のピカレスク小説『ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯』

 

16世紀のスペイン。主人公は、下層階級に生まれたラーサロ少年です。母親に育てられていましたが、ある日盲目の物乞いから申し出があり、彼に仕えることになりました。

それ以来ラーサロは、欲深い坊主や気位だけ高い貧乏従士など、さまざまな人に転々と仕える生活を送ります。

 

著者
出版日
1972-09-01

 

1554年にスペインで発表された、作者不詳の中編小説。世界で初めてのピカレスク小説だといわれています。ラーサロ少年の目を通して世の中の出来事を語る一人称形式は、当時としては画期的な作品でした。

ひとかけらのパンを得るために窃盗や詐欺などを犯す大人たち。ラーサロも、悪漢ぶりが際立つ彼らに仕えながら、したたかに生きていきます。大人を出し抜いてパンをくすねるたくましさが痛快です。

主人とラーサロのテンポのよい掛け合いは、発表から500年近く経った現代でも面白く、ヨーロッパ中で大流行したのも頷ける傑作。会田由の臨場感あふれる翻訳も読者から高評価を得ています。

 

日本を代表するピカレスク小説『白昼の死角』

 

物語の舞台は、終戦から数年後の日本。主人公の鶴岡七郎は、東大法学部生のなかでも「天才」と呼ばれる友人、隅田光一が立ち上げた学生金融会社「太陽クラブ」に参加します。

光一は犯罪ギリギリの高利貸しとして成功をおさめますが、奢りとエゴのせいで自滅。一方で光一の行動を近くで見ていた七郎は、彼以上の「悪」に覚醒していくのです。

 

著者
高木 彬光
出版日
2005-08-01

 

1960年に刊行された高木彬光の長編小説。高木自身が「これ以上のピカレスク小説は書けなかった」と認めた傑作です。20年近く経った1979年に発表された映画が大ヒットし、原作もあらためて評価されました。

七郎には、自滅した光一にはなかったカリスマ性とリーダーシップがありました。また肉体を鍛え、ヤクザに恫喝されても動じない強い精神力も持ちあわせています。法律の死角をついた手形詐欺をおこない、警察の追求をかわす悪行の数々は見事というしかありません。

まともに働いても十分豊かになれたはずの七郎。しかし悪の魔力に引き込まれ、それゆえか魅力を増していく変貌っぷりを楽しめる作品です。

 

狂った殺人鬼を描き切ったピカレスク・サイコホラー『悪の教典』

 

町田市の高校で英語を教えている蓮実聖司は、ハンサムで弁舌爽やかな理想的な教師です。生徒からは「ハスミン」と呼ばれて親しまれていましたが、その正体は人の心をもたないサイコキラー。正体を隠しながら、生徒たちを好きなように「管理」していました。

自分が邪魔だと感じた生徒に問題を起こさせるよう仕向けて退学させたり、同僚や保護者を実際に殺害したり、気に食わない者を次々と消していきます。

しかし、女子生徒を自殺に見せかけて殺す現場を、他の生徒に見られてしまい……。

著者
貴志 祐介
出版日
2012-08-03

 

2010年に刊行された貴志祐介の作品です。

生徒からも同僚からも信頼されていた熱血教師の仮面が、ページをめくるごとに少しずつ剥がされていく様子は、不気味ながらも目が離せません。そもそも物語上に善人はほとんど登場せず、蓮実がズルくて卑屈な者を排除していく過程はピカレスク小説の醍醐味だといえるでしょう。

下巻では、後に引けない蓮実が大量殺戮へと一気に突き進んでいきます。サイコパスの内面が詳細に描かれているのも新鮮で、狂気っぷりを堪能できる一冊です。

ピカレスク歴史小説の奥深さを堪能できる『宇喜多の捨て嫁』

 

戦国三大梟雄のひとり、宇喜多直家。実在した、備前国の戦国大名です。自分の手に負えなくなった者には、姉妹や娘と縁組をさせて形式上の親族となり、機をうかがって殺害するという手法をとっていました。

今回は、四女の於葉を敵将の後藤勝基へ嫁入りさせます。捨て駒ならぬ「捨て嫁」と呼ばれた於葉ですが、彼女自身は「父と戦い、父に勝つ」という決意を胸に抱いていました。

著者
木下 昌輝
出版日
2017-04-07

 

2014年に刊行された木下昌輝の連作短編集。表題作のほかに5編が収録されていて、いずれもさまざまな人の目線から宇喜多直家を描いたものになっています。

自らの野心のために娘をも売り飛ばす残虐非道な宇喜多直家。しかし彼の生い立ちを知ると、戦国の世を生き抜くためには致し方ないと思わせられるピカレスク小説です。屈辱を味わい、裏切りや陰謀に振り回された彼が、弱肉強食の戦国時代で「日本最凶の謀将」と呼ばれる男に変貌していく様子は読みごたえがあります。

非道ともいえる行動を続ける裏には、どのような想いがあるのか、悪漢として生きた彼はどのような晩年を迎えるのか……ラストには新たな事実もわかり、切なさが倍増。宇喜多直家という人物を知らなくても十分に楽しめる時代小説です。

「直木賞」を受賞したおすすめピカレスク小説『宝島』

 

物語の舞台は、第二次世界大戦後の沖縄。オンちゃん、レイ、グスク、ヤマコの4人は、子どもながら米軍基地に忍び込んで物資を略奪する義賊「戦果アギヤー」として活動し、物品を他の住民たち分け与えていたため英雄視されていました。

ところが嘉手納基地に忍び込んだ夜、米軍に狙撃され、それ以来リーダーのオンちゃんが行方不明になってしまいます。

著者
真藤 順丈
出版日
2018-06-21

 

2018年に刊行された真藤順丈の作品。「直木賞」を受賞しました。アメリカ統治時代の1952年から、本土に返還される1972年までの20年間を描いています。

残されたレイ、グスク、ヤマコの3人は、どうしてもオンちゃんが死んだとは思えません。やがて成長し、それぞれ警察官、テロリスト、教師になりますが、片時もオンちゃんを忘れたことはありませんでした。そして同じ夢に向けて、動き出すのです。

彼らがが「戦果アギヤー」にならざるを得なかった状況が、戦後の苦しみと悲しみ、そしてもどかしさをともなって読者に迫ってくるピカレスク小説。オンちゃん失踪の謎を、3人が解き明かしていく過程も楽しめる一冊です。

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