1945年にスウェーデンで刊行された『長くつ下のピッピ』。世界中で人気となり、日本ではテレビドラマ化や映画化もされました。この記事では、そんな普及の名作のあらすじと魅力を、続編も含めて紹介していきます。
1945年に刊行されて以来、世界中で愛されている児童書『長くつ下のピッピ』。作者のアストリッド・リンドグレーンは、スウェーデンを代表する児童文学作家で、児童書の編集者でもあります。
1907年に4人兄弟の長女として生まれたリンドグレーンは、スウェーデンの南東部にあるヴィンメルビューの牧場で幼少期を過ごしました。この時の思い出が、『長くつ下のピッピ』の下敷きとなっています。
当初は、風邪で寝込んでいた娘のカーリンを喜ばせようと、即興で考えたストーリーだったそう。その後書籍化されるとまたたく間に人気になり、70言語以上に翻訳されて100以上の国で出版されました。
続編の『ピッピ 船に乗る』『ピッピ 南の島へ』も刊行され、スウェーデン、アメリカ、ソ連、カナダ、日本などでテレビドラマ化。各国で映画化や舞台化もされています。
リンドグレーンは生前、子どもや動物の権利を擁護する活動を積極的におこない、虐待に反対の立場を表明したオピニオンリーダーでもありました。多くの作品から、強い意志をもち続けた彼女の深い愛情を感じ取ることができるでしょう。
主人公のピッピは、赤毛をツインテールの三つ編みにした、そばかすだらけの女の子。足には右と左で色の違う、長い靴下をはいています。
船長だったお父さんが行方知れずになってしまい、お母さんはすでに亡くなっているので、たった9歳で天涯孤独の身となってしまいました。
しかし、お父さんが2人で暮らすために用意してくれていた別荘「ごたごた荘」の存在を知ります。トランクにいっぱい金貨をつめて、サルのニルソン氏を連れて、行ってみることにしました。
- 著者
- アストリッド・リンドグレーン
- 出版日
- 2000-06-16
ピッピは、自由で元気で、かなりの力持ち。長い間船の上で暮らしていたので、社会の常識やルールは知りません。型破りで愉快なピッピは、「ごたごた荘」の近くに住むトミーとアンニカ兄妹を巻き込んで、てんやわんやの楽しい毎日を送ることになります。
子どもの読者にとって、ピッピの生活はまさに憧れ。小言を言ってくる人はおらず、馬を買えるくらいお金持ちで、学校にも行かなくていいなんて、現実では考えられません。
また彼女は力が強いだけでなく、頑丈な心も持ち合わせています。赤毛をからかわれても、全然平気。他の人と違うところは全部自分の個性だと、ちゃんと知っているのです。
両親がいない孤児として描かれていますが、『長くつ下のピッピ』に悲壮感は一切ありません。天真爛漫なピッピの豊かな個性が、物語を輝かせる魅力になっています。
相変わらず、「ごたごた荘」で楽しい日々を過ごすピッピ。友達と街に出て豪快に買い物をしたり、久しぶりに学校へ行って遠足に参加してみたり。破天荒な性格は何ひとつ変わっていません。
そんなある日のこと、「ごたごた荘」にひとりのお客さんがやって来ました。そこにいたのは、エフライム船長。行方不明になっていた、ピッピのお父さんです。
- 著者
- アストリッド・リンドグレーン
- 出版日
- 2000-06-16
『長くつ下のピッピ』の続編。日本では1965年に刊行されました。
マネキン人形の手を1本だけ買ってみたり、馬をいじめる馬方を懲らしめたり、自分宛てに手紙を書いてみたり。続編もピッピらしさが全開です。大人から見ると決して「よい子」とはいえない行動も多いですが、自由で力強く、心は優しいので、結局みんな彼女のことが大好きなのです。
本作の見どころは、やはりピッピのお父さん。生きていただけでもびっくりですが、なんと南の島の王様になっていました。
そしてピッピは、お父さんと一緒に南の島へ行くことに。しかし彼女のことが大好きなトミーとアンニカ兄妹が悲しむ姿を見ると……。後半は少し切なく、ほろりとできる展開になっています。
自由な生活を楽しんでいるピッピ。トニーとアンニカはもちろんのこと、村の人たちともすっかり仲良くなりました。
そんなある日、クレクレドット島にいるお父さんから手紙が届き、ピッピは南の島をたずねることになります。もちろん今回は、トニーとアンニカも一緒です。
- 著者
- アストリッド リンドグレーン
- 出版日
- 2000-08-18
『長くつ下のピッピ』の続編。日本では1965年に刊行されています。
ピッピは南の島でも生き生きとしています。サメをやっつけたり、宝物を狙う悪党を追い返したりと、愉快な冒険エピソードが目白押しです。
しかし楽しい旅を終えて村に帰ると、もうクリスマスが終わっていました。がっかりするトミーとアンニカのために、ピッピはとっておきの準備をして2人を喜ばせてあげるのです。
普段は驚くようなことばかりするピッピですが、1本筋がとおった優しい女の子だということがわかるでしょう。読者の心もあたたかくなります。
ただ物語は、楽しいだけでは終わりません。最後にひとり、ロウソクを見つめるピッピは、なんだかとてもさみしそう。大人への入り口がすぐそこまで来ていることを、心のどこかで感じているのかもしれません。
- 著者
- アストリッド・リンドグレーン
- 出版日
- 2004-02-17
児童書として刊行された『長くつ下のピッピ』ですが、実は絵本で楽しむこともできます。対象年齢は5歳から。まだ長い文章を読むのが難しいお子さんにおすすめです。
挿絵を担当しているのは、デンマークのイラストレーター、イングリッド・ニイマン。児童書版よりもやや幼い背格好をしたピッピが、カラフルな世界で奔放に活躍します。スウェーデンで発売されているものと同じイラストだそうで、原色が多用された鮮やかな物語を楽しむことができるでしょう。