村岡花子の翻訳を堪能できる本おすすめ5選!その生涯と功績も紹介

更新:2019.10.8

日本で初めて『赤毛のアン』の翻訳を手掛けた村岡花子。NHK連続テレビ小説「花子とアン」の主人公のモデルになった人物としても知られています。今回は、明治生まれの才女が翻訳した、誰もが懐かしいと感じる児童文学5冊を紹介します。

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村岡花子はどんな人?その生涯と功績を紹介

 

1893年生まれ、山梨県甲府市出身の村岡花子。本名は村岡はなです。安中逸平、てつ夫婦のもとに、8人兄弟の長女として生まれました。

社会主義運動に参加していた逸平は、幼い頃から文才を発揮するはなに高等教育を受けさせようと奔走し、彼女は10歳でミッションスクールである東洋英和女学校に編入することになりました。

寄宿舎で暮らしながら英語を学び、後に歌人の白蓮となる柳原燁子、歌人の佐佐木信綱、アイルランド文学翻訳家の片山廣子などと出会い、短歌の創作や古典文学も学びます。この頃から「安中花子」というペンネームを用い、童話の執筆をするようになりました。

高校を卒業した後に英語教師となったはなは、小説の執筆にも着手。1917年に『爐邉』を発表します。これを機に日本基督教興文教会に転職して、翻訳と編集に携わるようになりました。

1919年には、福音印刷社長の村岡儆三と結婚。しかし関東大震災の影響で夫の会社が倒産し、さらには6歳の長男を病気で失ってしまいます。不幸続きのなかでアメリカの作家マーク・トウェインが執筆した『王子と乞食』と出会い、翻訳。英語児童文学の翻訳を天職だと感じるようになったそうです。

それ以来、モンゴメリなど多数の児童書や絵本を翻訳し、日本に紹介。1960年には児童文学への貢献を評価されて藍綬褒章を受章しました。1968年に脳血栓のため75歳で亡くなっています。

村岡花子の翻訳が物語のイメージと見事にマッチした『王子と乞食』

 

1537年10月12日、イングランドに2人の男児が誕生します。ひとりは国王ヘンリー8世の長男であるエドワード・テューダー、もうひとりはもっとも貧しい地域で生まれたトム・キャンティです。

誕生日は同じでも、生まれが対極の2人。10歳の時に偶然出会い、お互いの生活に興味を抱きます。そして話をしているうちに、自分たちがまるで双子のようにそっくりな顔立ちをしていることに気付くのです。

著者
マーク・トウェーン
出版日
1934-07-25

 

1881年にアメリカで刊行されたマーク・トウェインの作品。日本では1899年に巌谷小波の、1927年に村岡花子の翻訳本が出版されました。

エドワードの思い付きで、お互いの洋服を交換し、入れ替わって生活をすることにした2人。庶民の服を着たエドワードはさっそく番兵に追い払われ、貧民の生活を身をもって体感します。一方で王室で暮らすことになったトムは、恵まれてはいるもののその暮らしに空虚さを感じるようになるのです。

登場人物のなかには実在する者も多数いて、16世紀のイングランドの世情を皮肉るトウェインのユーモアも感じられるでしょう。村岡花子本人が「自信作」と自負するだけあり、原作のイメージを損なうことなく芸術的表現を再現。格調高い文章を堪能できる一冊です。

村岡花子が学生時代から大ファンだったウィーダの『フランダースの犬』

 

ベルギーのフランダース地方にある小さな村に、15歳のネロ少年と、寝たきりの祖父イェーハン、そして老犬パトラシエが暮らしていました。ネロはいつか画家になることを夢見ていますが、ミルクの運搬業をして辛うじて生計を立てている状況です。

そんな折、新しくやって来た業者に仕事を奪われてしまい、さらには祖父が亡くなり、クリスマスの前日には家賃の滞納で家を追い出されることになってしまいました……。

著者
ウィーダ
出版日
1954-04-17

 

1872年にイギリスで刊行された、女流作家ウィーダの短編児童文学です。日本では1954年に村岡花子の翻訳本が出版されました。

貧しいがゆえに、村人たちから迫害されるネロ。しかしルーベンスの絵に憧れ、一心に絵を描き続けます。崇高な生き方を選ぶネロと、彼に忠誠を捧げるパトラシエは、見栄と欲にまみれた現実社会で生きるにはあまりにもはかない存在でした。

やがて住むところすら奪われた彼らは、「ルーベンスの絵を見ることができたら死んでもいい」という願いを叶え、クリスマスの日に天に召されていくのです。

村岡花子は、東洋英和女学校に在学中、ブラックモーア宣教師のすすめで本作に同時収録されている『ニュールンベルクのストーブ』を読んで以来、ウィーダの作品に傾倒します。若い頃から愛読していた2作品に込めた想いを、一文一文から感じることができるでしょう。

村岡花子が日本で初めて翻訳した不朽の名作『赤毛のアン』

 

1870年代のプリンス・エドワード島。グリン・ゲイブルズと呼ばれる一軒家には、老兄妹がひっそりと暮らしていました。

2人は畑仕事を手伝ってくれる男の子を養子にする手続きをしたのですが、ちょっとした手違いがあり、やって来たのは11歳の赤毛の少女、アンでした。

著者
ルーシー・モード・モンゴメリ
出版日
2008-02-26

 

1908年にカナダの女流作家ルーシー・モード・モンゴメリが発表し、アメリカで刊行された長編小説。1952年に村岡花子が翻訳し、日本でも出版されました。新潮社が毎年夏におこなうキャンペーン「新潮文庫の100冊」では、1976年からすべての年で選出されています。

村岡花子は原作を忠実に翻訳するのではなく、自然な文体を意識した意訳をしています。国も時代も文化も異なる物語ですが、あえて注釈もつけず、子どもたちが物語の世界に没頭できるよう配慮をしているのです。そのため2008年以降に増刷された文庫には、孫の村岡美枝による補訳が加えられています。

アンと出会った老兄妹は当初、痩せてそばかすだらけの顔をした彼女を追い返すつもりでした。しかし話をしているうちに、気の毒な身の上にもかかわらず明るくて想像力が豊かなアンを愛しいと思うようになるのです。

愉快な事件を巻き起こしつつも、少女から乙女へと成長していくアン。やがて学生時代に知り合った男性と結婚をし、6人の子どもの母となり、彼らが成長するまで物語はシリーズ化されました。

文豪ディケンズの格調高い文章を日本語で再現した『クリスマス・キャロル』

 

「スクルージ&マーレイ商会」を営むエベネーザ・スクルージは、冷酷無慈悲な商人。7年前に亡くなった共同経営者マーレイの葬儀ですら出費を渋るほどの守銭奴です。

ところがクリスマスイブの晩にマーレイの亡霊が現れ、「強欲なままでは悲惨な運命が待ち受けている。新しい人生に変えるため3人の精霊が訪れるだろう」と伝えたところから、物語が動き始めます。

著者
ディケンズ
出版日
2011-12-02

 

1843年に刊行された、イギリスの文豪チャールズ・ディケンズの中編小説です。村岡花子の翻訳は1952年に発表されています。

3人の精霊はスクルージに、まだ純真だった少年時代の姿、自分だけ肥え太り書記のクラチットにとことん冷たい仕打ちをする現在の姿、死後に虫けらのように扱われる未来の姿を見せていきます。そしてスクルージは、いまならまだ悲惨な未来を回避できる方法があることを知るのです。

村岡花子は東洋英和女学校時代に本作と出会い、クリスマスになるたびに読み返していたそう。古典的で温かみのある翻訳はまさに彼女の真骨頂で、物語のもつ温かみを感じられるでしょう。

村岡花子の愛読書と翻訳の良さをあらためて実感!『少女パレアナ』

 

父親が突然亡くなったことで孤児となった少女パレアナは、気難しい叔母さんに引き取られることになりました。

ひどい仕打ちを受けますが、彼女は牧師だった父親からとても素晴らしいものを受け継いでいます。それは、どんなことからでも喜びを探し出す「喜びを見つけるゲーム」です。

パレアナは悲しみを喜びに変える秘訣を伝え、頑な叔母さんの心を溶かしていきます。

著者
エレナ・ポーター
出版日
1986-01-01

 

1913年にアメリカで刊行された、エレナ・ホグマン・ポーターの児童小説です。村岡花子は1930年に翻訳、そのほか日本ではアニメ「ポリアンナ物語」として大ヒットしました。

世のすべての人を善良と信じるパレアナ。「喜びを見つけるゲーム」は時にうまくいかないこともありますが、彼女の力は街すらも動かし、人々の心を明るくしていきます。

聖人のような少女の物語には、読みやすい現代語よりも村岡花子のクラシカルな翻訳がマッチしていて、いま読んでもしっくりと馴染んでいるように感じられるでしょう。人を喜ばせることを人生の主題とするパレアナの姿に、心を洗われるような感動が胸に迫ります。

村岡花子の翻訳のすばらしさは、日本語を修練した者だけが書き得る芸術性の高い文体と、子どもを愛する思いやりに満ちた心から来るものでしょう。どこか懐かしく、涙腺がゆるんでしまう翻訳をお楽しみください。