スウェーデンの田舎の村で暮らす子どもたちの日常をユーモラスに描いた「やかまし村」シリーズ。アストリッド・リンドグレーンの、『長くつ下のピッピ』と並ぶ人気作です。この記事では、登場人物、各作品のあらすじと魅力、絵本などを紹介していきます。
スウェーデンの作家アストリッド・リンドグレーンの児童書「やかまし村」シリーズ。1947年に1作目の『やかまし村の子どもたち』が刊行され、1986年に映画化もされました。日本では2000年に公開されています。
作者のリンドグレーンは、1907年にスウェーデン南東部のヴィンメルビューで生まれました。小学校教諭や事務員の仕事をするかたわら、執筆活動を始めます。1945年に発表したデビュー作の『長くつ下のピッピ』が大ヒットし、一気に作家としての名声をあげました。「やかまし村」シリーズは、リンドグレーンが幼少期を過ごしたヴィンメルビューが舞台になっているそうです。
シリーズの挿絵を担当しているイロン・ヴィークランドは、エストニア生まれのイラストレーター。難民としてスウェーデンに渡り、ストックホルムの美術大学を卒業しました。柔らかな色合いと甘すぎない人物描写が魅力的です。
物語の舞台である「やかまし村」には、家が3軒しかなく、そこに3家族が暮らしています。作中では大きな事件が起きるわけではなく、子どもたちを中心とした彼らの日常が描かれているのが特徴です。田舎なのでテレビも車もなく、彼らは大自然のなかでたくさんの遊びを見つけ出していきます。日本の読者には珍しい食べ物や、北欧の豊かな自然が好奇心を刺激してくれるでしょう。
対象年齢は、小学校中学年から。各章は短いので、読書習慣をつけるのにもおすすめです。
やかまし村にある家は、それぞれ中屋敷、南屋敷、北屋敷と呼ばれています。各家に住む子どもたちを紹介しましょう。
中屋敷
中屋敷唯一の女の子が、7歳のリーサです。「やかまし村」シリーズの主人公で、物語は彼女の目線をとおして語られます。彼女の上に、1番年上のラッセと、2番目のボッセという2人の兄がいます。
南屋敷
ブリッタとアンナ姉妹が住んでいます。本を読むのが好きで頭のいいお姉さんと、お芝居のような物言いをする妹のかわいらしいコンビです。
北屋敷
人一倍心の優しい男の子、オッレが住んでいます。「やかまし村」シリーズの2作目『やかまし村の春・夏・秋・冬』では、妹のシャスティンが誕生します。
スウェーデンの片田舎にある、やかまし村。そこにはたった3軒の家が、隣りあって暮らしています。村にいる子どもの数は、男の子が3人と女の子が3人。
森と湖に囲まれた美しい自然と、明るくて優しい家族に囲まれた彼らの日常が、中屋敷の末っ子リーサの視点から描かれる作品です。
- 著者
- アストリッド・リンドグレーン
- 出版日
- 2005-06-16
「やかまし村」シリーズの1作目。北欧の豊かな自然のなかで暮らす子どもたちの、ほのぼのとした日常が描かれています。
家と家との間にある木を伝って子ども部屋を行き来したり、窓から窓へ手紙のやりとりをしたり……読者の心をくすぐるエピソードが満載で、物語にぐっと惹き込まれます。秘密基地を作って家出計画を立てる様子など、大人たちに内緒の企みがたくさんあってドキドキです。
やかまし村は田舎にあるので、子どもたちは学校へ通うために何時間も歩かなければなりません。まだ電話もない時代、とある大雪の日に、彼らは家に帰れなくなってしまいました。全体的にほのぼのとしたエピソードが多いなかで、ソリを使って迎えに来てくれたお父さんを見つけた時のリーサの心情は印象的です。
時に優しく、時に厳しい自然のなかで送る、素朴であたたかな生活。リンドグレーンの描く物語は、大人が読んでも童心に返って楽しめるでしょう。
夏は湖に浮かぶ島で海賊ごっこを楽しみ、冬は氷が張った池でスケートをして……やかまし村の子どもたちは、春・夏・秋・冬の季節とともに遊びます。
クリスマスや新年のお祝い、赤ちゃんの誕生、おじいさんの誕生日など、イベントごとも盛りだくさん。前作と同じく、中屋敷の末っ子リーサの視点で綴られる物語です。
- 著者
- アストリッド リンドグレーン
- 出版日
- 2005-12-16
「やかまし村」シリーズの2作目。本作の1番の山場は、北屋敷のオッレに妹のシャスティンが生まれたことでしょう。これでやかまし村の子どもたちは、女の子が4人、男の子が3人になりました。
オッレの家では犬を飼っているのですが、シャスティンが生まれたことでやきもちをやいてしまいます。何度も優しく撫でながら、「おまえは気だてのいい、すてきな犬だよ」と話しかけるオッレ。まだ幼い彼の優しさに心を掴まれてしまいます。
やかまし村の四季が描かれている本作ですが、特徴的なのは北欧の夏が暗くならないこと。北欧は緯度が高いため、冬は暗くて長く、夏は明るくて短いのです。彼らと一緒に、季節を存分に楽しんでみてください。
やかまし村の子どもたちは、楽しいことを見つける天才。リーサが子ヒツジを学校へ連れていったり、宝箱をめぐって男の子と女の子が駆け引きをしたり……。
いつも通りの刺激的な日常を満喫しています。
- 著者
- アストリッド リンドグレーン
- 出版日
- 2006-12-15
「やかまし村」シリーズの3作目、最後の一冊です。オッレの乳歯を抜く作戦を立てたり、赤ちゃんだった妹のシャスティンが歩いたり、子どもたちが少しずつ成長している様子を感じられるでしょう。
なかでも「サクランボ会社」のお話は秀逸。子どもたちが庭の木からサクランボを収穫し、「サクランボ会社」と称して町へ売りに行くのです。看板を持って道端に立つのですが、果たして無事に売ることはできるのでしょうか。
また、子どもたちがつい男女で対抗する構図になるのは、万国共通のよう。喧嘩もするけど仲良しで、ずっと一緒に居たいからと、未来の結婚まで真剣に考える姿が微笑ましいです。
- 著者
- リンドグレーン
- 出版日
児童書として小学校中学年頃から楽しめる「やかまし村」シリーズですが、実は絵本があるのをご存知でしょうか。本作であれば挿絵も多く字も大きいので、就学前の子どもでも読むことができます。
物語は、「やかましむらのこどもの日」を定め、村で1番小さい2歳のシャスティンと1日中遊ぶ様子が描かれています。
なんとかシャスティンを喜ばせようと、必死になって知恵を出し合うお兄さん、お姉さんたち。歌を歌ったり、子馬に乗せたり、ブランコをしてみたり……しかしまだ赤ちゃんのシャスティンが気に入ることを探すのはなかなか難しく、四苦八苦します。
「やかまし村」シリーズの絵本には、本作の他にも『やかまし村のクリスマス』があります。リーサがクリスマスの日を回想するお話で、こちらもほのぼのと明るい気持ちになれる一冊です。