小説『トム・ゴードンに恋した少女』の見所を結末までネタバレ!映画化再始動

更新:2019.10.10

森で迷子になった9歳の少女が、自然の脅威と内なる絶望感に抗いながら、9日間を生き抜くジュブナイル小説、『トム・ゴードンに恋した少女』。1999年に出版された、ホラー小説の巨匠スティーヴン・キングの作品です。 幼い少女の心象風景、スティーヴン・キングならではの豊かな表現が、ホラーテイストあいまって読者に肉迫する隠れた名作です。この記事では、映画化が再始動した本作の魅力を結末までご紹介!ネタバレを含むので、未読の方はご注意ください。

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小説『トム・ゴードンに恋した少女』緊張感が走る、少女のサバイバル記!映画化も再始動が決定

トリシア・マクファーランドは同年代と比べれば少しだけ背が高く、活発なところのある9歳の少女でした。1年前まで父母と兄4人で、何不自由なくボストン郊外で幸せに暮らしていました。

その後、離婚した母・キラと、兄・ピートと一緒に暮らしていたトリシア。彼らとは何かと衝突しがちで、彼女は窮屈さを感じていました。しかし、それすらも後に経験することを思えば、まだ幸せな部類でした。

著者
スティーヴン キング
出版日
2007-05-29

キラの教育方針で、兄妹は週末になるとアパラチア自然遊歩道へ10kmほどハイキングに行っています。母と兄の不和を気にするトリシアは、極力ポジティブに振る舞いますが、当日も現地に着くまでに険悪な雰囲気になってしまいました。

心地よい森の中に入っても2人は口論をやめません。うんざりした彼女は、小用のためにそっと道から離れました。そして一旦道を戻って脇に入った彼女は、森を突っ切って元の道に戻ろうと考えます。

それがすべての始まりでした。ものの数十分で迷子になってしまい、深い森の奥へ奥へと進んでいくことになります。

人里離れた森ではトリシアを助けてくれる者はいません。彼女は暗い森の中で、たった9歳にして壮絶なサバイバルと恐怖体験に直面します……。

本作は2000年代に『ゾンビ』の巨匠ジョージ・A・ロメロの手で映画化が進んでいましたが、彼が死去したことから企画が止まっていました。2019年8月、ロメロの妻クリス・ロメロが引き継いで映画の企画が再始動。キャストや監督も未発表ですが、今後の続報に期待されています。

作者、スティーヴン・キングの手腕が光る、作品の魅力とは?

著者
スティーヴン キング
出版日
2008-08-05

スティーヴン・キングは1974年に長編小説『キャリー』でデビューしたアメリカの小説家です。

言わずと知れたホラー小説の大家で、『シャイニング』、『IT』、『ミスト』など彼の手がけた作品はモダン・ホラーの代表的作品とされています。その一方で、『刑務所のリタ・ヘイワース』(映画『ショーシャンクの空に』の原作)や『グリーンマイル』といった、感動的なヒューマンドラマも有名です。

ほとんどの作品はアメリカの街が舞台となっており、平凡で一般的な日常風景はリアリティがあるもの。そんな読者に近しい光景と怪奇現象のともなう非日常が密接にリンクし、物語がリアルにホラー色を帯びていくのがキング作品の特徴です。

物語の登場人物が直面する恐怖が、そのまま読者の恐怖体験に繋がっていくのが魅力的で、キングの類いまれな手腕を感じさせます。

小説『トム・ゴードンに恋した少女』の見所1:等身大の少女の反応

この物語はほぼ全編が主人公のトリシア・マクファーランドの視点で語られます。

トリシアは9歳にしては大人びた少女です。森に迷ったとなると大人でも狼狽えるものですが、彼女は健気にも気丈に振る舞います。

しかしある時、感情を爆発させるシーンがあります。自然のまっただなかに放り出された彼女は、上空のどこかを飛ぶ飛行機のエンジン音が遠ざかっていっくのを耳にし、唐突に1人ぼっちを自覚するのです。

森には他に誰もいない。自分を助ける者はいない。人の手のおよばない、恐ろしい自然の領域に入ってしまったのだと気付き、トリシアは泣き叫びます。助けを求める彼女の姿が一気に読者をも感傷的にさせます。

以後、彼女は大きな出来事でも些細なことでも、感情が揺れると、赤子のように泣いてしまうようになるのでした。トリシアが気丈に見えるのは、あくまで背伸びして大人の真似をしていただけなのです。子供らしい等身大の反応が随所にあり、読んでいると応援したくなります。

小説『トム・ゴードンに恋した少女』の見所2:壮絶なサバイバル

本作は少女トリシアが、どのようにして9日間を生き抜いたかが描かれます。

彼女はハイキングという状況で森に迷うことになるので、多少の食べ物の備えはありました。しかし所詮日帰りの準備なので充分ではありません。飢えて渇いたトリシアが、少ない知識を総動員して水や食べ物を確保していくのが、サバイバル小説らしい見所といえるでしょう。

もう1つ見逃せないのが、孤独をいかに凌ぐかという点です。水なども大事ですが、人は1人だけでは精神がもたないのが普通でしょう。そこで彼女にとって助けになったのがラジオでした。偶然にも所持していたウォークマンのおかげで、一方的とはいえ、人との繋がりを保つことが出来たのです。

過酷なサバイバルの様子、トリシアの揺れる心と、ラジオによってもたらされた心の安定の安堵感などに注目しながら読んでみてください。

小説『トム・ゴードンに恋した少女』の見所3:心を乱す恐ろしい存在

トリシアはラジオを通して、大ファンである野球選手トム・ゴードンを空想することで9日間を切り抜けていきます。

一方で、その空想が彼女の負担にもなります。あるいは空想ではないのかも知れませんが……。

トリシアが森を進む時、あるいは夜に寝入る時、たまに何者かの存在を感じ取ります。「特別のあれ」と称される恐ろしい怪物です。単なる小さい子どもの妄想かと思いきや、そうではありません。トリシアの行き先々で生々しい動物の死体があったり、恐ろしい爪後が残された木が倒れていたりするのです。

すべてトリシアが偶然出くわしただけのものなのか?想像の産物なのか? それとも……。キング作品ならではのホラーテイストも魅力的です。

小説『トム・ゴードンに恋した少女』の結末を解説!トリシアのサバイバルの終焉とは……?【ネタバレ注意】

 

トリシアが森で迷子になってから数日が経過しました。大規模な捜索が行われていましたが、彼女は捜索範囲から何十kmも進んでしまっていたので、発見は困難をきわめていました。

一方トリシアは生水にも慣れ、徐々に自然に適応していきました。しかし体力は確実に失われており、喘息のような症状が出始めてしまうのです。

 

著者
スティーヴン キング
出版日
2007-05-29

 

そんな中、彼女は何度目かの夜に見た夢とそっくりな、荒れた牧草地に辿り着きます。今ではほとんど本物のように思えるようになった、空想のトム・ゴードンが彼女に語りかけます。これが最後のチャンスだと。

そこからラストに至る展開は、トリシアの成長がひしひしと感じられます。サバイバルを通じて鍛えられた観察力、行動力、そして勇気。物語はすべてが必然であったかのように収束していきます。

トリシアは無事に森を抜けて、「特別なあれ」の手から逃れることができるのでしょうか。トム・ゴードンに恋した少女が、まさにその名選手のような目覚ましい活躍を見せてくれます。読後には心地よい満足感を得られることでしょう。

 

いかがでしたか? トリシアの9日間の冒険と恐怖体験がどのような形で映像化されるのか非常に楽しみですね。

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