SFファンのみならず、多くの読書家から注目されている「日本SF大賞」。実は選考の対象は文芸作品だけに限りません。この記事では、賞の概要と、歴代受賞作から特におすすめの小説をご紹介します。
日本SF作家クラブが主催している「日本SF大賞」。1980年に創設されました。
日本SF作家クラブには、SFとファンタジーに関わる作家や翻訳家、編集者、批評家などが所属する団体です。星新一や小松左京などの大御所作家はもちろん、手塚治虫や大友克洋などの漫画家も参加しています。
「日本SF大賞」の最大の特徴は、小説や映画など、メディアをひとつに絞っていないこと。「作品がなかった以前の世界が想像できないもの」「SF界に新たな側面をつけくわえたもの」という基準にのっとっていれば、選考の対象になります。
2013年までは、日本SF作家クラブの会員によって候補作が選ばれ、そのなかから選考委員が大賞を決めていましたが、ファンや読者の意見も参考にするというビジョンを達成するために、2014年から一般の参加者からもエントリー作品を受け付けることになりました。
自由にエントリーされた作品から日本SF作家クラブの会員の投票で候補作を絞り、選考委員による最終選考で大賞が決定します。
SFに情熱を注ぐものであれば誰でも受賞のチャンスがあるとして、毎年注目されている賞だといえるでしょう。
シブレ山という山の石切り場でたくさんの謎に包まれた事故が起き、火が燃えづらくなった世界。茶釜の火を絶やさないように、女性たちは火を運んでいます。
しかしそんな彼女たちに孔雀が襲いかかり……。
- 著者
- 山尾 悠子
- 出版日
- 2018-05-11
2018年に「日本SF大賞」を受賞した山尾悠子の作品です。
ひとつひとつの話の意味は理解できるのですが、通して読むとストーリーを掴むことができません。時系列や起承転結を整理することが難しいというもどかしさをたたえています。どこで場面が切り替わったのか、どことどこが繋がっているのか、考えながら何度も読み返してしまう中毒性があるでしょう。
「幻想小説」というジャンルに分類されていることからもわかるとおり、焦点がぼやけたままページをめくっていくのはまるで夢をみているかのよう。断片的なのにどこか繋がりがある不思議な読書体験を堪能してください。
架空の軍事組織である航空宇宙軍と外惑星連合の戦争と、人類の文明史を描いた「航空宇宙軍史」シリーズ。本書の舞台は、「第一次外惑星動乱」から40年が経った世界です。
太陽系の各地では、新しい戦いの予兆が見え始めていました。
- 著者
- 谷 甲州
- 出版日
- 2015-07-23
2015年に「日本SF大賞」を受賞した谷甲州の作品です。
人類が地球を飛び出し、生存圏を太陽系全体に広げた未来の世界で物語が展開していきます。淡々とした口調で語られる宇宙の仕組みに、想像力を掻き立てられるでしょう。
短編形式で次なる戦いが始まるまでの個別の出来事が断片的に綴られていて、新たな動乱が起こる予感を覚えさせられます。そして、それぞれの話に散りばめられた要素が最終話につながっていく壮大な構成に圧倒するはずです。
宇宙戦争が起こる背景となる社会状況や、科学的計算にもとづいた論理的な描写はハードSFそのもの。続編の『工作艦間宮の戦争』もあわせて読んでみてください。
流れ星を観測するWebサイトを運営している木村和海。ある日、大気圏に落下するはずのロケットブースターが、不審な動きをしていることを発見します。
同じくこの異変に気付いたのは、北米航空宇宙防衛軍と、私設の天文台をもっているIT起業家のみ。やがて彼らは壮大なスペース・テロに巻き込まれていきます。
- 著者
- 藤井太洋
- 出版日
- 2016-05-10
2014年に「日本SF大賞」を受賞した藤井太洋の作品です。
主人公の木村和海、北米航空宇宙防衛軍、民間宇宙ツアーを企画する起業家、イランの科学者など、さまざまな人物の視点で物語が展開していきます。和海はただの宇宙オタクな青年なのですが、そんな彼がアメリカ、中国、イラン、北朝鮮など各国の思惑に立ち向かう姿が印象的です。
専門用語は多いですが、それぞれの登場人物のキャラがたっていて文章のテンポもよいので、SF小説初心者でも楽しむことができるでしょう。
アメリカで起こった暴動をきっかけに、世界中に未知のウイルスが蔓延する「大災禍」が起こり、従来の政府は崩壊しました。
病気をなくし、ずっと健康でいられるよう、身体に医療システムが埋め込まれ、新政府が人類の健康と幸福を管理するようになります。しかしこのシステムを嫌悪する少女たちが自殺を図り……。
- 著者
- 伊藤計劃
- 出版日
- 2014-08-08
2009年に「日本SF大賞」を受賞した伊藤計劃の作品です。
自分の体は自分のものではなく社会のもの。 作中では、人間は貴重な「リソース」とみなされています。それに納得できない3人の少女が自殺を図るのですが、結果は失敗。大人になり、それぞれの立場からもう1度社会に向き合っていきます。
押し付けられた優しさで人は幸せになれるのか、そもそも幸せとは何なのか……哲学的な問いかけを読者に投げかけてくる作品です。
12歳の少女、渡辺早季は、自然に囲まれた神栖66町で暮らしています。この町では「呪力」を身につけた人々が、バケネズミという生物を使役しながら穏やかに暮らしていました。
しかし早季はある出来事をきっかけに、自分たちがなぜこの場所で、人目を避けて暮らすようになったのか、その経緯を知ってしまいます。そして平和だった日常が、少しずつ歪んでいくのです。
- 著者
- 貴志 祐介
- 出版日
- 2011-01-14
2008年に「日本SF大賞」を受賞した貴志祐介の作品です。なんと構想に30年もかかったそう。物語の舞台は現代からおよそ1000年後ですが、呪力やバケネズミ、悪鬼など古代日本の怪異が用いられたSFになっています。
主人公の早季と幼馴染たちは、いま自分たちが生きている場所がどのような過去を乗り越えてできたものなのか、その事実を知って意志をもちます。既存の価値観を疑うこと、目に見えているものだけが真実ではないことを考えさせられるでしょう。
終盤ではバケネズミの正体が判明。人間の業の深さや倫理観にも問いかけてくる、重厚な作品です。