小学生から恋をしていた7歳年上の男の子が病気によってコールドスリープをし、自分と同じ年で目を覚まし、同級生になるという展開から始まる本作。 主人公の絃と、ある日彼女といきなり同級生になった千遥、絃のことが好きな弥太郎が、切ない三角関係をくり広げます。 年齢の違い、思い違い……。果たして、すれ違っているそれぞれの関係はどうなってしまうのでしょうか。今回は、作者・縞あさとの繊細なタッチで描かれたこの漫画のあらすじや魅力、最新巻である4巻について紹介していきます。スマホアプリで無料で読むこともできるので、そちらもご確認ください。
主人公・絃は小学生の頃から、7歳という年齢差はあれど、近所に住む男子高校生・千遥のことが大好きでした。同級生の男の子にいじめられた時には彼が慰め、一緒にご飯を食べるなど、2人だけの絆を築いてきました。
しかしある日、千遥に大きな病気が見つかってしまいます。
現在の技術では治すことの出来ない病のため、彼は人工冬眠(コールドスリープ)によって眠りにつくことになります。ストーリー上ではそれから一気に7年の月日が経過。絃は、眠ってしまっている千遥と同じ歳になっていました。
そしてそんな年に、人工冬眠をしていた彼がやっと目覚めるのです。
目覚めた千遥が最初に会おうとしていたのは、止まったままの記憶のなかにいる小学生姿の絃。そこで彼は、病院から抜け出してまで彼女に会おうとしますが、今の絃にあれから7年という月日が経ったことを告げられるのでした。
こうして絃と千遥は同級生として同じ高校に通うことになるのですが……。
- 著者
- 縞あさと
- 出版日
- 2017-11-02
千遥が目覚めるのをずっと待ち続けていた絃は、彼が目覚めたこと、そして同じ年齢で学校生活を送れることに喜びます。しかし2人の関係は一筋縄ではいきません。絃は小学生から高校生に成長し、それでもなお彼のことを愛しますが、彼は眠る前と同じ、7歳年下の妹のように接してくるのです。
その距離の近さは彼女だけでなく、読者もドキドキが止まりません。しかしあくまでもその関係は兄妹のようなもので、心の距離は縮まりはしません。そんな2人のもどかしい関係が、三角関係という要素も含み、さらに複雑になっていくのが見所の作品です。
漫画家・縞あさとは、2008年に『まどから、鳥のように』でデビューしました。そして2016年に『魔女くんと私』という作品を連載しています。そして今回ご紹介する『君は春に目を醒ます』が、初の長編連載です。
- 著者
- 縞あさと
- 出版日
- 2017-01-05
前作の『魔女くんと私』は、女の子に触れないと魔法が使えないのに、女子アレルギーである男子の魔法使い・真白が主人公。彼が隣の席の女子・凪と一緒に魔法使いとして奮闘していく恋愛物語です。
今作と同様に普通の高校生ラブストーリーではなく、現実にはない個性的な設定のもと物語は進行していきます。このように、身近に感じるラブストーリーに非日常のエッセンスが効いた作品が縞あさとの特徴です。
また、そのような普通ではありえない設定にもかかわらず、多くの人が共感できる心理描写が秀逸。ハラハラする展開をはさみつつも、全体的なトーンは気持ちがほんわかするような作品が多く、自然に読者を惹きつけます。
この漫画では、物語のスタートが切なく、それが作品の印象を儚く、美しいものにしています。その肝は、人工冬眠です。
科学の進歩によってできた人工冬眠は、長い間眠らせておくことで病気の進行を妨げることを可能にしました。眠らせている間に病気を治す薬の開発などの技術の進歩を待つというものです。その間は歳を取らないため、人工冬眠から目覚めた後も眠る前と同じ状況で人生を再スタートできます。
物語で千遥は高校生の時に人工冬眠を受け、7年という月日を経て目覚めました。その間、絃は千遥のことを変わらず思い続けていました。片時も彼を忘れなかった思いの強さが、この経ってしまった年月から感じられ、胸を締め付けられます。
千遥もまた、目覚めてすぐに小さな女の子を探す描写があります。これは7年前の絃の姿であり、誰よりも先に彼女に会いたいという気持ちあってのことなのでしょう。
しかし時間の経過によって変わってしまったことは多くありました。彼だけ取り残されたかのように変わらない姿や思いは、絃の気持ちとはまた違った切なさを感じさせます。
人工冬眠をした者に寄せる周囲の思いや、それを受けた者にしか分からない寂しさや戸惑いなど、この設定によって本作はより深い内容になっているのです。
本作は、千遥の無意識にドキドキさせてくるような言動にキュンキュンしてしまいます。
彼にとっては目覚めてすぐ、7年も経ったということはすぐには受け入れられない現実です。そのせいか、絃のことを同級生の女の子というより、今でも7歳下の小学生の女の子のように接してしまいます。そのため簡単に手を繋いだり、彼女に対して過度に心配性になったりとべったりな状態です。
さらに他のことには興味がないのか、常に絃のことを考えており、傍から見たらカップル同然。彼女に対する独占欲も強く、絃は毎回そんな千遥にドキドキし、気持ちを高ぶらせていきます。そのつもりがないと分かっていても、彼女同様読者も、彼にキュンキュンしてしまうのです。
本作は千遥と絃だけでなく、弥太郎も加わった三角関係も見どころ。
小学4年生の頃は絃をいじめていた彼ですが、千遥がきっかけで、ある日を境にいじめをしなくなります。そしてそれから7年、絃が彼を思い続ける横で、弥太郎もまた、彼女のそばにい続けました。実はずっと絃のことが好きだったのです。
しかし、ただそばにいるだけなので、絃は彼の気持ちにまったく気付きません。そんな弥太郎が、彼女の言動に一喜一憂している姿はとても可愛らしく、思わず応援したくなってしまいます。
しかし切ないことに弥太郎は絃が千遥のことを好きだと知っているため、彼女が千遥のために行動すればするほど、複雑な思いを募らせます。さらに千遥は弥太郎が絃に思いを寄せていることも知っているため、ますます事態は一筋縄ではいかなくなっているのです。
それでも健気に絃のことを思い続け、献身的に行動する弥太郎は、千遥とはまた異なる可愛らしい魅力があります。
絃は弥太郎の姉から、文化祭の後夜祭でライトアップされる時に好きな人に触れると付き合うことが出来るというジンクスを聞きます。そんな2人の会話を偶然千遥が聞いてしまいます。そこで初めて彼女に好きな人がいることに気付くのです。
千遥は自分のこととはまったく思わず、絃の好きな人を探ろうと、彼女の動向をチェックしようとするのですが……。
詳細は省きますが、あるタイミングで絃の好きな人に千遥が気づくところまでが3巻の内容。気になる展開のまま4巻へと続きます。
- 著者
- 縞あさと
- 出版日
- 2019-09-05
4巻は、ジンクスのタイミングで弥太郎がたまたま絃の手をとったところから始まります。彼は自分の気持ちを隠して、ジンクスは関係ない、絃のことを何とも思っていない、というように装います。
彼の気持ちに気づいていない絃は千遥への思いを抱え、誰しもが切ない思いを抱えたまま文化祭が幕を閉じるのでした。
そんななか絃のことを考えていた千遥は文化祭後も様子がおかしく、ある日熱を出してしまいます。絃がお見舞いに行くと、彼は熱で朦朧としたまま、ある本音を絃にぶつけてしまい……。
4巻は彼の本音を知り、今後絃がどう動いていくのかが最大の見所です。2人の間にあった意識のずれが再認識された時、果たして彼女はどうするのでしょうか?
また今まで陰ながら絃のことを思っていた弥太郎の言動も着目すべきところです。彼もまたある決意をし、三角関係はより複雑になっていきます。
弥太郎も千遥も今までとは違った言動を見せ、物語は大きく動いていきます。