欲望におぼれる人間のすがたや社会の闇の深さが描かれている、『闇金ウシジマくん』。アングラなジャンルにも関わらず約15年間連載が続き、4度の映画化と3度のドラマ化、さらに単行本発行部数は、累計1000万部を突破!第56回小学館漫画賞・一般向け部門の受賞実績がある人気作品です。 怖くてもついつい読みたくなってしまう理由は、リアリティ。作者・真鍋昌平の綿密な取材によって描かれているということもあり、「このエピソードは、あの出来事がモデルになっているに違いない」という感想もよく見られます。 今回はそのうち、「あの人気エピソードは、北九州で実際に起きた凄惨な事件をモデルにしている?」説を検証していきます。
先ほども少しお伝えしましたが、『闇金ウシジマくん』の魅力は何といっても、マンガとは思えないリアリティ。これだけ言われても、「ふ~ん、本当に?」と思われるかもしれません。読めば分かるのですが、これが本当にリアルでまるで自分が社会的に堕ちていってしまっているかのように背筋がゾワゾワするのです。
普通の人が借金におぼれていく姿も理由が所帯じみていたり、砂時計が落ちるようにじわじわ転落していったりと、リアル。登場する裏社会の言葉や考え方もキャラの表情のすごみと、話題にあがる内容の身近さから「本当にこういう感じなんだろうな……」と納得してしまうほどです。
読んだことのない人には、第1話からではなく、まずは自分の興味のある話題から入るのがおすすめ。フーゾクやホストなど夜の世界がテーマのときもあれば、お金稼ぎのときもあり、はたまたガチで危ない裏社会が描かれるときもあります。
本作については、下記の記事で詳しく紹介しています。
『闇金ウシジマくん』が無料で読める!最新42巻までの見所をネタバレ紹介!
闇金融という裏社会のストーリーでありながら、ドラマ化、映画化までされた『闇金ウシジマくん』。この記事ではその魅力を、やばすぎる登場人物とストーリーの見所からご紹介していきます。スマホの漫画アプリ「マンガワン」で無料で読むこともできるのでそちらもぜひ!
- 著者
- 真鍋 昌平
- 出版日
- 2012-11-30
エピソード単位でガラっと話が変わるので、途中から読んでも問題なく楽しめます。無料アプリ「マンガワン」だと、タイトルから話のイメージが湧き、好きなところから読むことができるので、おすすめです。
今回紹介する「洗脳くん」編はマンガワンで読むことができます!単行本で読むのであれば、26巻~28巻に掲載されているので、手にしてみてはいかがでしょうか。
そんな『闇金ウシジマくん』は、あまりのリアルさから、キャラクターやエピソードに、モデルがあるとのウワサがあります。前回は、本作の「鰐戸(ガクト)三兄弟」が、「神原三兄弟」という実在した三兄弟がモデルなのではないかという考察をしました。まだ読んでいない方は、下記の記事もあわせてご覧ください!
【闇金ウシジマくん】あのキャラクターのモデルは、関東連合すら恐れた伝説の三兄弟!?【検証】
約15年間連載していた『闇金ウシジマくん』。何よりもこのマンガの魅力は、作者・真鍋昌平さんの綿密な取材で描かれるリアリティ。マンガでありながらあまりにも作品世界がリアルなため、「この人物のモデルはあの人に違いない」とネット上でよく話題になっています。 今回、どれほど参考にしているのか、「渋谷区にいた最恐の三兄弟がモデルになっている説」を検証します。ちなみに本作はスマホアプリ「マンガワン」で無料でよむこともできます!
今回は、本作のなかでも特にトラウマものだとされるエピソード「洗脳くん」編(26巻、273話~28巻、309話)を考察します。こちらは、2002年に起きた北九州監禁殺人事件がモデルになっているのではないかといわれています。容疑者が自分の手を汚すことなく、マインドコントロールされた被害者たちがお互いを殺し合った凄惨な事件です。
次の章でいくつかの角度から検証していきましょう。
まず、『闇金ウシジマくん』の「洗脳くん」を読んだことのない方のために、軽くあらすじを紹介します。
「洗脳くん」編(26巻、273話~28巻、309話)は、結婚詐欺師の男が女性の恋心を利用して洗脳し、財産を奪おうとする物語。男は洗脳の対象を女性から、彼女の家族や妹、妹の夫、その夫の両親と広げていきます。
洗脳の方法は、いわゆる「飴とムチ」。DVで、精神的、身体的に弱らせたところで甘い言葉をかけ、依存させていくのです。
洗脳された人たち団結してが反抗しないよう、男は彼らにお互いの不満をぶつけさせ、相互不信状態に陥れます。そして、最終的には殺し合いや死体処理を仕向けていたのです。
モデルとされている「北九州監禁事件」とはどのような事件なのでしょうか。あまりに恐ろしい事件だったことから、報道規制がかけられていて、ご存知ではない方もいらっしゃると思います。
この事件は、2002年に福岡県で発覚しました。「発生」ではなく、「発覚」としているのは、監禁のため、この事態が長い間気付かれることがなかったためです。そして、幼い子供を含む7人が絞殺、虐待、飢餓などで亡くなったことがそこで初めて分かるのです。
逮捕されたのは、男女2人。しかし、実際に事件を操っていたのは、男だけであり、女性は被害者でもありました。
男は、彼女と両親、妹夫婦を洗脳によって自分の支配下に置きます。虐待や脅迫、行動の制限をおこない、逮捕された男を頂点とした支配の構造を作り、神格化させたことが明らかになっています。
その後、男は潜伏先のマンションを仲介してくれた男性をターゲットにし、彼や妻、幼い子供2人にも洗脳をおこないます。
この支配の対象は、大人だけでなく、当時3歳だった児童も含まれています。支配に置かれた人間は、殺人や死体処理を強要されました。逮捕された男はまったく自分の手を汚すことなく、洗脳した人をあやつり殺人をそそのかしていたのです。
事件は、マンションを紹介した男の娘が、祖父母の家に逃亡したことをキッカケに終わりを迎えます。不信に思った祖父母が警察に通報し、この事件の存在が世間に知れ渡ることになったのでした。
被害者に子供が含まれていること、支配された人間同士の殺し合い、洗脳による支配など、他の事件にはみられない残忍性、凶暴性があり、最も恐ろしい事件の一つともいわれています。
それでは、この事件が『闇金ウシジマくん』の「洗脳くん」とどのような共通点があるのか見ていきましょう。
一つ目の共通点は、エピソードのタイトルにもあるように、「洗脳」です。
「北九州監禁事件」、「洗脳くん」とともに、「洗脳」が核になっています。「洗脳」によって、支配された人は正しい判断ができない状況に追い詰められ、家族だとしても殺人や暴力を行ってしまったのです。
本作でも見るのが辛くなるほどに残虐で、精神をえぐってくるような光景がくり広げられます。しかし、実は本作は、これでも実際の事件よりもマイルドになっているというから驚きです。
事実は小説よりも奇なり。わたしたちには理解しにくい身内に対する攻撃を可能にさせてしまう、洗脳とはあらためて恐ろしいものだと感じます。
北九州監禁事件で逮捕された男は、自分では殺人を行っていません。洗脳した人たちに殺人を強要させていたのです。
「洗脳くん」も同様に、洗脳をおこなった男は殺人には関与していません。
洗脳をおこなった張本人が殺人に直接関わっていないのに、多数の被害者を出している点が共通しているのです。
犯人が自分の手を汚さず、彼に不必要になった人間を排除していたことは、不気味さをよりいっそう引き立てています。殺人の不快感が、この恐ろしい形で引き立てられてしまうのです。
「北九州監禁事件」が世間に発覚したキッカケは、マンションを仲介した男の娘が逃げ出したことです。
それに対し、「洗脳くん」の存在が明らかになったキッカケは、ネタバレになってしまうため、詳しくは書けませんが、洗脳されたうちの1人のある行動でした。
それぞれ手口は違うため、その違いに注目してみて、ご自身でも確かめてみてください。
もし、「北九州監禁事件」で少女の勇気ある行動がなければ、もっと多くの被害者をだしていたでしょう。もしかしたら、事件自体いっさい明らかになることもなかったかもしません。
「洗脳くん」でも、次のターゲットの女性がチラッと登場しています。この描写から、詐欺師の男は、過去にも同じようなことをおこない、そして、逮捕されなければ、これからも続けていたのだろうと思わされ、恐ろしさが際立ちます……。
「北九州監禁事件」と「洗脳くん」の共通点を紹介してきました。ここまでの共通点を見ていると、やはり「洗脳くんのモデルは北九州監禁事件なのではないか?」と思うかもしれませんが、作者の真鍋昌平は公式には発表していません。
この「洗脳くん」は『闇金ウシジマくん』26巻、第273話~28巻、第309話で読むことができます。「洗脳くん」では、「北九州監禁事件」とすべてが類似している訳ではなく、オリジナルのキャラクターも登場しています。
しかし、上で述べたようにこの事件はあまりに凶悪なため、報道規制がかけられていました。もしかしたら、世間には明らかにされていないだけで『闇金ウシジマくん』に描かれたことが実際に起こっていたのかも……?
ご自身で読んで考察してみてはいかがでしょうか。
- 著者
- 真鍋 昌平
- 出版日
- 2012-11-30