2019年に創刊40周年を迎えた岩波ジュニア新書。一般新書と比べてわかりやすい文章で書かれているので中高生におすすめですが、それだけでなく、実はあらゆる教養の入門書として大人が読んでも満足できる作品が多数あるのです。この記事では、岩波ジュニア新書のなかから特におすすめの作品をご紹介していきます。
劇作家であり演出家でもある鴻上尚史の作品。「まわりの目が気になるけれど、本当の自分を抑えつけて目立たないように生きるのも息苦しい」という、思春期の不安や悩みへのアドバイスが書かれています。
現状に閉塞感を抱いて悩んでいる人は、本書を読むことで生き方を工夫することができるでしょう。自己をコントロールする能力を身につけてみてはいかがでしょうか。
- 著者
- 鴻上 尚史
- 出版日
- 2019-04-20
私たちはどうしても、所属するコミュニティ内の人間関係にとらわれてしまいがちです。本書はそのなかでも特に、多感な思春期の子どもたちにおすすめ。自分のなかでうまく消化できなかったもやもやが、「空気」「世間」「社会」の意味を正しく理解することで、少しずつ晴れていきます。
視野を狭めて自分を必要以上に苦しめてしまうことのないように、拠り所となる「世間」をいくつかもつことで、心が軽くなるはず。壁を乗り越える手段を早い段階で身に付けることができたら、きっとこれからの未来も明るいものになるのではないでしょうか。
9.11以降のアメリカで、メディアの実態を取材してきた堤未果。本書では、戦争や教育などメディアによって演出されるイメージを例に挙げ、情報を正しく取捨選択し、背景にある真実を捕えることの必要性を訴えています。
教育の現場に市場原理が持ち込まれ、過度な競争を強いて落ちこぼれた子どもを軍にリクルートする、という負の連鎖が起きている9.11以降のアメリカ。そこから日本の読者が学べることは何でしょうか。
- 著者
- 堤 未果
- 出版日
- 2011-02-19
テレビや新聞、インターネットなど、情報を得る手段には事欠かない現代。しかし情報は意図的に操作されることも多く、真実を正しく捉えるのは容易ではありません。
ただ本書では、現代社会の闇を見せつけるだけでなく、情報を見定める目を養う方法を丁寧に教えてくれているので、大人でもハッと気づかされる部分があるでしょう。
最終章では、社会を変える力とは何か、これからを生きる世代は何を武器にしたらいいのかを示し、若者たちに明るい未来を提示してくれています。
高校の家庭科教師をしている南野忠晴の作品。「自立」をテーマに、ご飯の作り方やお金とのつきあい方、時間の使い方など家庭科を通した学びを紹介しています。ノウハウが書かれているだけでなく、人生をより豊かにするための指南書のような内容です。
子どもと大人の狭間にいる高校生に向けた「自立とは何か」「家族とは何か」「社会の中で生きるとはどういうことか」という深い問いかけは、大人が読んでも心に響くもの。自分で考えることの大切さをあらためて考えさせてくれます。
- 著者
- 南野 忠晴
- 出版日
- 2011-02-19
作者の南野忠晴は、英語科の教師から家庭科の教師に転科した経歴の持ち主です。英語を教えていた時から、授業中に寝てしまうなど、やる気が出ない生徒たちを気にかけていました。そして彼らの話を聞くうちに、実は日々の生活のなかに無気力の原因があるのではないかと考えるようになったのです。
本書では「パンツのたたみ方」をきっかけに、何のために勉強するのか、何のために働くのかを教えてくれます。読めばきっと、家庭科の奥深さにも気づけるはず。社会で生きていく心構えを学べるでしょう。
作者の講義内容や生徒とのやり取りを元に構成されているので、実際に授業を聞いている感覚で読めるのも嬉しいポイントです。
作者の近藤雄生が、およそ5年半にわたる旅をするなかで体験したことを綴った作品です。
私たちが生活しているこの場所は、広い地球のごく一部でしかなく、限られた世界での価値観はけっしてすべての人にとってのスタンダードではないということを気付かせてくれます。
- 著者
- 近藤 雄生
- 出版日
- 2010-04-21
将来について漠然とした不安を抱えたまま、旅に出た作者。オーストラリア、インドネシア、タイ、中国、イラン、アフリカ、スイス……と旅を続けます。そのなかで彼は、世界ではこんなにも自分と異なる生き方をしている人がいるのかと痛感したそうです。
そして、文化や価値観、生活スタイルの差異は、私たちを分断するものではないことにも気づいたそう。
日々の生活に閉塞感を抱いている人や、将来に不安を感じている人には、「世界の中での自分」を意識させてくれる本書がおすすめ。型にはまった考え方から脱却できるはずです。
かつて「世界商品」として人々を魅了し、大きく世界を動かした砂糖に焦点を当て、近代史の流れをわかりやすくまとめた作品です。
17世紀初頭。イギリスの上流階級の間では、紅茶が高値で取引されていました。そして、ステイタス・シンボルとして、紅茶に砂糖を入れて飲む習慣が広がっていったのです。やがてそれは一般市民にも広まり、イギリスでは大量の砂糖が消費されるようになります。
すると、サトウキビを栽培する大規模なプランテーションが世界各地の植民地で展開。奴隷制度や三角貿易、南北問題などに繋がっていきます。
- 著者
- 川北 稔
- 出版日
- 1996-07-22
近代以降の世界史の流れを、砂糖に注目して追う斬新な構成。新たな視点で物事を捉えることができるので、中高生はもちろん、もう1度世界史を学び直したいと考えている大人の方にもおすすめです。
砂糖というひとつの商品で歴史が動いていくダイナミックさは、目を見張るものがあります。また、サトウキビのプランテーションが展開されたことで土地が枯れ、人が奪われた国は、いまもなお貧困に苦しめられているなど、現代との繋がりも考えさせられるでしょう。
歴史を学ぶ意義を実感できる一冊です。
詩人の茨木のり子が、自らの人生を豊かにしてきた詩を厳選し、それらの魅力を情熱的に語った作品です。
人間の誕生から死を5つに分けて、人生のそれぞれの場面における心の動きを感じられる構成になっています。
- 著者
- 茨木 のり子
- 出版日
- 1979-10-22
茨木のり子は1926年生まれ。1946年に大学を卒業し、1950年ごろから詩を作りはじめるとともに、他の詩人の作品にも数多く触れてきたそうです。本書では、彼女の心を動かしたさまざまな詩を紹介しつつ、その魅力を解説しています。
詩そのものを楽しめるのはもちろん、それらを解釈する茨木の感性と表現力に脱帽。言葉の美しさを実感できます。
戦前戦後の詩がほとんどですが、いま読んでもまったく色あせることはありません。詩に触れてみたいと思った方の、贅沢な入門書になるでしょう。