タイムスリップやタイムリープなど、時空を超えてストーリーが展開する「タイムトラベル」ものの小説。SFとミステリー双方の要素を堪能できるので、好きな方も多いのではないでしょうか。この記事では、タイムトラベルを用いたおすすめの小説を紹介していきます。
38歳の永田一雄。これまで家族のことを第一に考えながら、仕事にも力を注いできましたが、会社をリストラされ、中学受験に失敗した息子は引きこもりに。妻も家に帰って来なくなり、ついには離婚届を突きつけられました。
自暴自棄になって、もう死んでもいいと考えていた彼の前に、橋本と名乗る親子が乗ったワゴン車が現れます。言われるがままに乗り込み、連れていかれたのは、1年前のある出来事が起きた日でした。
混乱する一雄でしたが、さらに癌の闘病をしている父親が、自分と同じ年の姿でやってきて……。
- 著者
- 重松 清
- 出版日
- 2005-02-15
2002年に刊行された重松清の作品です。
死にたいと思っている一雄は、タイムトラベルをすることで、ドライブ中に事故で亡くなり成仏できずにいる橋本親子、そして病気で死にそうな父親の忠雄と出会います。
彼らは過去を辿りながら何とか未来を変えようとするのですが、当時は見えていなかった真実を次々と知ることになり、なかなか事実を覆すことはできません。ただ物事が起きた理由を知ることができ、起きてしまった出来事に真剣に向き合うようになるのです。
たとえ家族だとしても、抱えている苦しみをすべて理解するのは難しいもの。だからこそわだかまりも生じてしまいます。本作で描かれる3組の父子の関係が、不器用ながらも深まっていく様子にも注目してみてください。
物語は、ロンドン大学の名誉教授エドワード・ネイサンが「from E. to E. with love」と刺繍された白いレースのハンカチと、「LIONHEART」と書かれた便箋を残して失踪するところから始まります。
エドワードとエリザベスという2人が、時空を超えて愛し合う異色のSFラブストーリーです。
- 著者
- 恩田 陸
- 出版日
- 2004-01-28
2000年に刊行された恩田陸の作品です。「エアハート嬢の到着」「春」「イヴァンチッツェの思い出」「天球のハーモニー」「記憶」の5つの章で構成されていて、それぞれの章は有名な絵画がモチーフになっています。
エドワードとエリザベスはタイムトラベルをくり返し、それぞれの時代で出会うものの、ほんのわずかな時間しかともに過ごすことができません。しかし制約があっても、彼らは強く惹かれあい、また別の時代で人生を交錯させ再会するのです。
甘く切ないラブストーリーを純粋に描いているのかと思いきや、結末は思いもよらないもの。恩田陸の手腕も感じられる一冊です。
尾崎孝史は大学受験にすべて失敗し、予備校に入学するための試験を受けるために上京。そこで宿泊したホテルで火災に見舞われてしまいました。
危機一髪のところを「時間旅行者」と名乗る平田に助け出されるも、逃げた先は「二・二六事件」が起こる1936年2月26日の永田町で……。
- 著者
- 宮部 みゆき
- 出版日
1996年に刊行された宮部みゆきの作品です。
1936年にタイムトラベルしてしまった孝史。陸軍予備役大将だった蒲生憲之の自決現場に遭遇します。しかしどうやら自決ではなく殺人事件だったようで、孝史は真相を追い求めていくのです。
物語は、「二・二六事件」や東條英機など史実を織り交ぜながら展開。戦争に向かっていく当時の日本の空気感も感じられる内容になっています。
蒲生憲之ですら歴史を変えることはできなかったと描くことで、歴史を変えようとするのではなく、歴史は変えられないものとわかっていながら、どう向き合っていくべきかに焦点を当てた作品。置かれた状況に言い訳をせず、生きることに真摯に向きあう尊さを教えてくれるでしょう。
主人公の久太郎は、ある1日を9回くり返してしまう「反復落とし穴」という特異体質をもっています。「反復落とし穴」に規則性はなく、また何の前触れもなく突然やってくるため、久太郎自身もいつ起きるのか予測ができません。
ある年のはじめ、祖父の後継者を決定する親族の集まりがありました。そんななか、ちょうど「反復落とし穴」にはまってしまった久太郎。いつものように反復2日目を過ごしていると、なんと祖父が何者かに殺されてしまうのです。久太郎は「反復落とし穴」を利用して、祖父の死を何とか防ごうとするのですが……。
- 著者
- 西澤 保彦
- 出版日
- 2017-09-13
1995年に刊行された西澤保彦の作品です。
登場人物たちのキャラクターが魅力的なこともあり、同じ日を何度もくり返すものの飽きることはありません。誰が何のために祖父を殺したのか、防ぐ方法はあるのか、深まる謎を考えながらスラスラと読み進めることができます。
肝になっているのは、9回しかループできないこと、そして9回目の出来事のみが事実として残ること。久太郎の頑張りもむなしく、祖父は7回目の死を遂げてしまうのですが……。
伏線と結末が秀逸。巧妙な設定を活かしたどんでん返しをお楽しみください。
主人公の小沼真次は、父親が創立した小沼グループの御曹司。同窓会からの帰り道、事故でなかなかやってこない地下鉄を諦めようと、出口を探していました。
見慣れない出口を見つけて階段をのぼってみると、そこに広がっていたのは30年前の景色。幼いころがら慕っていた兄が、ワンマンな父親に反発するために自殺をした、まさにその日です。
- 著者
- 浅田 次郎
- 出版日
- 1999-12-01
1994年に刊行された浅田次郎の作品。「吉川英治文学新人賞」を受賞しています。
タイムトラベルをすることで、横暴だと思っていた父親の、戦中戦後をたくましく生き抜く生き様に触れる真次。これまで抱いていた印象を少しずつ変えていきます。
また、真次だけでなく彼の愛人のみち子もタイムトラベルをすることで、物語は新たな展開に。2人の意外な関係や、みち子が選択する切ない結末にも注目です。
理論物理学を研究している野々村。教授の番匠谷から、とある古墳から発掘されたという砂時計を見せられます。
この砂時計は、砂が減ることも増えることもなく、同じ質量を保ったまま落ち続けるという不思議なもの。興味を抱いた野々村は、発掘場所である古墳に調査へ行くのですが、野々村も含め調査に関わった者が次々と命を落としてしまい……。
- 著者
- 小松左京
- 出版日
- 2018-06-13
1966年に刊行された小松左京の作品です。古代から未来、今ある地球とパラレルワールドの地球など、物語のスケールは壮大。歴史、遺跡、時間、時空、宇宙と好奇心を刺激するトピックが盛り込まれている骨太なSFになっています。
砂の落ち続ける砂時計というアイテムのおかげで、どうやって着地をするのかまったく予想のつかない展開が続くのが魅力的。1回読んだだけで理解をするのは難しいという感想が多々あるほど複雑な構造ですが、結末は納得できるものになっています。
果しなき流れの果てには、一体何があるのでしょうか。