『竜馬がゆく』や『坂の上の雲』など数多くの名作を遺した司馬遼太郎。彼が亡くなった1996年に、その精神を後世に伝えるため財団法人が設立され、「司馬遼太郎賞」が創設されました。この記事では、歴代の受賞作のなかから特におすすめの作品を紹介していきます。
財団法人「司馬遼太郎記念財団」が主催する文学賞「司馬遼太郎賞」。文芸、学芸、ジャーナリズムという広い分野の作品から、年1回受賞作が選出されています。
1997年に開催された第1回から、2004年の第8回までは、作品ではなく人物が対象でした。2005年以降は、創造性にあふれ、さらなる活躍を予感させる作品を対象に贈られています。
選考方法は、作家や文化人、報道関係者などからアンケートをとって候補作の推薦を募り、その後、財団を構成するマスコミ11社による候補選定委員会が候補作を決定。最後に選考委員が受賞作を決めるというもの。
毎年年末に受賞作を発表し、翌年の司馬遼太郎の命日である2月12日に授賞式を開催しています。正賞は懐中時計、副賞は100万円です。
時は12世紀の中国、北宋末期。重税と悪政により、人々は苦しい日々を送っていました。
そんななか、腐敗してしまった政府を倒して世直しをしようと、数人の男が立ち上がります。仲間を集め、梁山泊を拠点とし、戦いへと向かっていきます。
- 著者
- 北方 謙三
- 出版日
- 2006-10-18
2005年に「司馬遼太郎賞」を受賞した北方謙三の歴史小説。中国の四大奇書に数えられる『水滸伝』を大胆にアレンジし、ファンの間でが「北方水滸」と呼ばれ愛されています。
とにかく登場人物が多いのが特徴。研ぎ澄まされたような文章で、全員のキャラクターが魅力的に書き分けられているので、読んでいるうちに自然と覚えることができます。それぞれの場所で生きていた彼らが、やがて出会い、仲間となっていく過程を見るのも楽しいでしょう。
民のために政府を立て直そうと、文字通り死力を尽くして戦う男たちの生きざまに、胸が熱くならないわけはありません。文庫版で全19巻とかなりの長編ですが、1度は読んでおきたい作品です。
不動産屋で働く八木沢省三郎。大阪の十三に戦前から建っている堅牢な洋館「骸骨ビル」の住人たちを、穏便に退去させる任務を請け負います。
彼らは戦争孤児で、戦後の混乱期にビルに住み着き、オーナーの阿部と茂木に育てられたとのこと。一筋縄ではいかなそうですが……。
- 著者
- 宮本 輝
- 出版日
- 2011-12-15
2009年に「司馬遼太郎賞」を受賞した宮本輝の作品です。デビュー作の『泥の河』以来、大阪の情景と戦争の傷跡を描いてきた宮本。本書はその集大成ともいえるでしょう。
物語は、八木沢が彼らとともに過ごした3ヶ月間を、10数年後に回顧しながら日記風に綴っている構成。探偵、ニューハーフ、ダッチワイフの製造業者、SM雑誌編集者など、変わり者の住人たちとの交流が描かれています。
管理人としてビルに住むことにした八木沢は、ともに暮らし、手作りの料理を食べ、畑仕事に汗を流すうちに、彼らが骸骨ビルから立ち退かない理由を知っていくことになります。戦後の厳しい状況を生き抜いたひとりひとりのエピソードは、切ないながらもクスリと笑える部分も。穏やかな読後感を得られる一冊です。
日本は、なぜ勝てないとわかっている戦いに向かっていったのか。「バンザイ突撃」や「玉砕思想」など、精神論主義の根源はいったいどこにあったのか。
第一次世界大戦までさかのぼり、思想の流れを読み解いていきます。
- 著者
- 片山 杜秀
- 出版日
- 2012-05-01
2012年に「司馬遼太郎賞」を受賞した片山杜秀の作品です。
「持たざる国」である日本が「持てる国」に勝つためには、どうすればよいのか……。片山は、皇道派の小畑敏四郎、世界最終戦論の石原莞爾、玉砕思想の中柴末純の3人に焦点を当て、異なる思想の彼らが最終的に「物質不足を精神主義で補完する」という同じ結論に辿り着くまでの過程を丁寧に描いています。
ヘビーな内容ではありますが、文章自体は柔らかくわかりやすいです。強い政治体制がなく、総力戦を戦い抜く力がなかった「未完」の日本。合理的な思想がなかったからこそ、悲惨な結果に終わったことも理解できるでしょう。
世界史上もっとも有名な戦場カメラマン、ロバート・キャパ。彼の出世作「崩れ落ちる兵士」は、スペイン内戦の際に共和国側の兵士が反乱軍に撃たれ、倒れる瞬間を捉えた傑作として知られています。
しかし、この写真は果たして本物なのでしょうか?長らく真贋論争が続いたこの1枚を、80年の時を経て解き明かしていきます。
- 著者
- 沢木 耕太郎
- 出版日
- 2015-12-04
2013年に「司馬遼太郎賞」を受賞したノンフィクション作家、沢木耕太郎の作品です。
ひとりの人間の死の瞬間を、これほどまでに見事に撮ることができるのだろうか。沢木は常識的な感覚に裏打ちされた疑問を解明すべく、当時使用されていたカメラを調達し、現地スペインへ赴きます。そして残された43枚の写真から撮影場所やアングルを探り、粘り強い取材を続けた結果、キャパが背負ってきた驚くべき「十字架」に辿りつくのです。
キャパに対するシンパシーを胸に、凄みすら感じさせる沢木の情熱を堪能できる一冊です。
江戸時代8代将軍、徳川吉宗の時代。大阪に、炭問屋を営む木津屋吉兵衛が暮らしていました。彼は切れ長の目に高い鼻梁をもつ色男で、働くよりも学問を愛する風流人です。
そんな吉兵衛のもとへ、兄の訃報が届きました。実家の辰巳屋に駆けつけて、葬儀の手はずを整え跡目を引き継ぐのですが、とんでもない相続争いに巻き込まれていき……。
- 著者
- 朝井 まかて
- 出版日
- 2018-07-27
2018年に「司馬遼太郎賞」を受賞した朝井まかての作品です。江戸時代最大の贈収賄事件「辰巳屋騒動」をもとにした、エンターテインメント性の高い時代小説になっています。
もともとは一商家の相続争いに過ぎなかったのに、やがて将軍吉宗や大岡越前守忠相の耳にまで届く大騒動に。悪玉たちが入り乱れ、吉兵衛は投獄されてしまいました。
なぜ罪なき者たちをも巻き込む深刻な騒ぎとなったのか、追い詰められていく吉兵衛がどこまで男気を貫けるのか、そして本当の悪玉は誰なのか……登場人物の誰に感情移入するかで悪と善の見方も変わるでしょう。