古川日出男初心者におすすめ文庫のランキング!文体の特徴を感じられる5作品

更新:2021.12.14

古川日出男の作品は他の作家にはない個性的な表現力をもっており、文体は音楽のような直感的なリズムが特徴的です。独自の世界観が展開され、オンリーワンな魅力を私達読者に見せてくれます。今回はそんな古川日出男の5冊の本をランキング形式でお勧め致します。

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個性的な文体が魅力の古川日出男

福島県郡山市出身の古川日出男は、早稲田大学第一文学部へと進学して中退。その後編集プロダクションで勤務し、小説家としてデビューを果たした作品は1994年『砂の王 ウィザードリィ外伝II』です。その後、2002年『アラビアの夜の種族』で日本推理作家協会賞と、日本SF大賞をダブル受賞、2005年『ベルカ、吠えないのか?』で直木三十五賞の候補にまであがり、2006年に『LOVE』で三島由紀夫賞受賞を受賞しています。

また、小説以外に戯曲の分野でも、2014年に書き下ろし戯曲『冬眠する熊に添い寝してごらん』が岸田國士戯曲賞候補に挙がり、『女たち三百人の裏切りの書』で2015年 に野間文芸新人賞受賞、2016年に読売文学賞小説部門を受賞しています。

古川日出男は20代後半から村上春樹に傾倒し、2003年に若手作家が村上作品をトリビュートして作品を書いた「村上春樹RMX」シリーズの発起人となり、2009年には村上春樹にインタビューを行ったりと、村上春樹を尊敬している作家の一人です。比喩表現や文章が個性的な村上春樹に対して、文体の表現力や独自の世界観や設定が売りの作家ですから、村上春樹の事を自身の上位互換のように尊敬していたのかもしれません。

古川日出男が影響を受けた作家は、村上春樹はもちろん、他の国内作家では劇作家の清水邦夫や、詩人の吉増剛造で、海外作家ではガルシア=マルケスや、ボルヘスなどのラテンアメリカ文学作家です。このラテンアメリカ文学というのは1980年代に日本でブームを起こしていて、古川日出男は多感な時期である10代~20代の時にこのブームが起きているので、なおのこと作品に対する影響が大きく表れているのではないかと思われます。
 

5位:古川日出男が二つの物語を交差させる読みやすい物語

『聖家族』は異能の一族である狗塚家について辿ってわかった、妄想の東北の700年という期間を描いた話です。

一章毎に「聖兄弟」と「地獄の図書館」の話が交互に語られていきます。この二つの話はそれぞれ目的が違いますが、話に入っていくうちに、この二つの物語が独立した話ではなく、関係性の深い話である事に気づかされます。

著者
古川 日出男
出版日
2014-01-29

また、この物語の舞台となる東北はあくまで妄想の東北であり、実際の東北とは異なります……が、実際の東北をモチーフに古川日出男が完成度の高い東北を作り上げてしまうので、まるで本当にそんな東北があるように錯覚し、読者の日本の東北という価値観を崩壊させる、まさに異形の作品です。

この作品は二段組で700ページを超える分厚い本なので、頭を堅苦しくして読むのではなく、肩の力を抜いて、気長に、気軽に読む進めていくと最後のシーンまで読み切りやすいと思います。読破した頃には、その文章量にも関わらず、また見返したくなる感情が湧いてくる、読んで損のない作品です。

4位:古川日出男の文体の才能が発揮された特徴ある作品

この作品は1999年に単行本化された『沈黙』と、2000年に単行本化された『アビシニアン』の二作品を収録したものです。合計すると600ページを超えるので、パッと見、手が出し辛そうだと思われるのに何故合作にしたのかというのは、この『沈黙』と『アビシニアン』が共通のテーマに基づいて作られた作品だからと言えます。

『沈黙』は主人公の薫子が、祖母の家の地下室で十一冊のノートとラベルが剥がれた何千枚ものレコードを見つけるところから始まります。調べるとそのレコードは、十七世紀アフリカにルーツを持つある楽曲が収録されていて、薫子や親族はそのある楽曲である「ルコ」というものに関わる事になり……。ちなみに、「ルコ」という音楽ジャンルは実際には存在せず、架空の音楽ジャンルの話が展開されます。

そして、『アビシニアン』の内容は文字が読めない少女に恋をした主人公の「ぼく」が、理解されないにも関わらず少女の為に、ひたむきに物語を描く事で、その物語が独特の方向へ変わっていきます。
 

著者
古川 日出男
出版日
2003-07-25

この二つの作品はどちらも、文学的な描写や、精巧でかつ重みがある文章の響きなどが重視されており、ストーリーに関する描写がとにかく削られています。他の小説と同じように読むと非常に難解に思えるかもしれません。ですが、文一つとっても他にはない繊細で綺麗な文章で書かれており、まるで詩の集まりで紡がれる物語を読んでいるような、小説にある無限の可能性をこの二つの作品から感じ取る事が出来ます。

もしかすると、古川日出男の作風に慣れていない方が最初にこの作品を見ると、以降の作品を読み進めていくのが疲れてしまうかもしれません。なので、この作品を読む前に以降紹介する、『サウンドトラック』、『ベルカ、吠えないのか?』、『アラビアの夜の種族』のいずれかを読んで頂ければ、より楽しむ事が出来ると思います。

また、もしこの3冊のうち、いずれも読まなかったとしても、古川日出男は「村上春樹RMX」シリーズにトリビュートというフレーズを使ったように、「小説を音楽と捉えている」節がありますので、この本の文章を「音楽」と捉えて読んで頂くと、満足度の高い読了感を得られると思います。

3位:勢いのある展開と文体が魅力の作品

海難事故により無人島に流れ着いた二人の子供で主人公のトウタとヒツジコが、外国人排斥運動が激しさを増した東京で、無人島で苛酷な生活を生き延びた二人が長じて後、東京に破滅をもたらすというもの。

ライトノベルと同じ感覚で気軽に楽しく読む事が出来ます。作品群の中でも抜群に読み易く、古川日出男作品の中でもこれだけは知ってる、という人もいる程です。

著者
古川 日出男
出版日

主人公のトウタは遭難する船に乗っており、ヒツジコは自殺を図った母と共に海に落とされ無人島に流れ着きます。彼らは特殊能力を持ち始めたり、踊りで仲間を厳選したり、鴉と心を通わせる性別のない子が地下組織と戦ってたり、そもそも東京を破滅させる目的もなんだか突発的だったりと、やりたい放題感が満載です。

古川日出男作品特有のスピード感のある文体や、印象的でリズムのある文章でこれを読ませるものですから、あっという間に読み切ってしまいます。

他の方の評価は著しく高い今作ですが、古川日出男作品にありがちな、物語よりも文章の響きや、個性的で精巧で重厚な文体に集中している所があるので、序盤の面白い展開で期待が大きくなりすぎて、物語中のすべての話をまとめきれていない部分や、思考回路が無茶苦茶すぎて理解しづらい所があったりと、大きな期待感が湧く作品だけに、ところどころに矛盾や、オチの納得感の物足りなさを感じてしまうかもしれません。

しかし、この作品には、そんな少しの要素など気にならないくらいの魅力と、最後まで読み切らせるスピード感があります。『サウンドトラック』は、古川日出男作品初心者の方には特におすすめしたい作品です。

2位:古川日出男の文体で描かれたエンタメ小説

次におすすめするのが、2005年に単行本化された『ベルカ、吠えないのか?』です。2005年に直木三十五賞候補にあがった作品です。表紙は内容を印象付ける、強く吠えている犬です。評価も高く、古川日出男作品の中でも知名度が高いと思います。

『ベルカ、吠えないのか?』の内容は、キスカ島に残された四頭の軍用犬である、「北」「正勇」「勝」「エクスプロージョン」から始まる血脈が「太平洋戦争」、「朝鮮戦争」、「ベトナム戦争」、「アフガン戦争」、「中米の麻薬戦争」、「ソビエト連邦の崩壊」の歴史を巡っていく、それを神の視点で追っていくという、エンタメ小説です。

著者
古川 日出男
出版日
2008-05-09

この6つの戦争の歴史に関しては、『聖家族』とは違い、本物の歴史を忠実に辿っていきます。古川日出男作品の中でも格段に読みやすい文章になっている為、非常にリアルで、まるで実際にこの戦争の歴史の中に実際に存在した犬の歴史なのではないかと錯覚します。

ロマンがある作品に仕上がっており、読了後の充実感は高いものとなっています。4匹の軍用犬が辿る物語も完全に独立してる訳ではなく、物語が交差する場面は鳥肌ものです。また、犬だけではなく、戦争が絡みますから人間の話も語られますが、そちらはコミカルに描かれています。

神の視点という事ですが、この神様も犬や人間や状況について思いついた事をいろいろ面白く語り、古川日出男が戦争や人間について思っている事が面白おかしく、わかりやすく読者に伝わります。

架空ながら高い描写力でこの犬達の歴史が、交尾を繰り返して紡がれていくので、犬の系統図まで作り、この作品世界にハマる方がいる程、歴史的な流れと犬の血脈がうまく結びついています。是非この作品を読んで、素晴らしい世界観に浸って欲しいです。

1位:スピード感のある文体、衝撃の展開、最初から最後まで目が離せない作品

2002年に日本推理作家協会賞、日本SF大賞をダブル受賞しています。当時この2つをダブル受賞したのはこの本が史上初だったそうです。

古川日出男が小説家として一番最初に受賞した小説がこの作品です。この作品も知名度が高いので、推測ではありますが、この『アラビアの夜の種族』だけは知っているという方も多いのではないかと思います。

著者
古川 日出男
出版日

『アラビアの夜の種族』の内容は、フランス革命の後現れた軍人、みなさんご存じのナポレオン・ボナパルトが、英国との開戦の前に貿易の道筋の要所であるエジプト侵攻を決意するという所から始まり、どんどん内容は広がっていきます。

この作品はディズニーでも『アラジン』の元ネタになっている『千夜一夜物語』がベースとなっています。また、途中でファンタジー要素が入るのですが、これは古川日出男のデビュー作『砂の王 ウィザードリィ外伝II』がベースになっています。どちらもアニメやゲームにおいて、いわゆる「王道」の位置にある作品です。

「王道」は、それをベースにすればほぼ確実に面白くなるから「王道」と呼ばれているのですが、その「王道」をベースに、オンリーワンな魅力を持ち、重厚でかつ軽快で、スピード感がある鋭い文章を書く古川日出男が、ダブル受賞するという結果にも現れているように高い集中力で書いた長編だと感じます。

原稿用紙2000枚の大長編ではありますが、寝るのも惜しんですぐに読んでしまい、最後まで驚愕の展開で目が離せません。

本好きや村上春樹ファンにはお馴染の古川日出男ですが、一般の方には知名度が極端に高い訳ではないと思います。しかし、このレビューを見て古川日出男について少しでも興味を持ち、本に触れてその魅力を感じて頂ければ幸いです。

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