アメリカで出版された優れた絵本に贈られる「コールデコット賞」。受賞作は非常に芸術性が高く、大人が読んでも楽しめるものがたくさんあります。この記事では「コールデコット賞」の歴代受賞作で邦訳出版されているもののなかから、特におすすめしたい6作品をご紹介していきます。
「国際アンデルセン賞」や「ケイト・グリーナウェイ賞」と並び、世界三大絵本賞に数えられる「コールデコット賞」。アメリカで1年間のうちに出版された絵本のなかから、もっとも優れた作品のイラストレーターに贈られます。
イギリスのイラストレーター、ランドルフ・コールデコットにちなんで創設され、特に芸術性の高い作品が選出される傾向です。
アメリカでは「ニューベリー賞」とともにもっとも権威のある児童文学賞として名を馳せており、15人の選考委員によって毎年膨大な数から選ばれます。
自分にぴったりの帽子をかぶった小さな魚。でもこれは彼のものではありません。眠っていた大きな魚から盗んだものなのです。
小さな魚は、少し罪悪感もあるのか、自分に言い聞かせるようにあらゆる言い訳をしながら海藻のジャングルに逃げていきます。きっとまだ寝てるはず、起きても気づかないはず、気がついても自分が疑われたりはしないはず……。
しかし大きな魚はどんどんと近づいてきて、絶体絶命の状況に気付いていないのは小さな魚だけ。果たして逃げ切れるのでしょうか。
- 著者
- ジョン・クラッセン
- 出版日
- 2012-11-11
2013年に「コールデコット賞」を受賞したジョン・クラッセンの作品。『どこいったん』に続く「帽子」シリーズの2作目です。今回も翻訳を手がけるのは長谷川義史。彼ならではの関西弁が、作品に独特のユーモアを与えています。
大きな魚が迫りくるスリリングな状況に気付いていないのは小さな魚だけ。関西弁でのんきに言い訳を重ねれば重ねるほど、読者の緊迫感が膨らんでいくのです。
ラストは思わずドキッとさせられるものですが、確信的なことは描写されていません。小さい魚はどうなったのでしょうか。想像力をかきたてられるストーリーで、読後もしばらく頭から離れなくなる一冊です。
ある日少年は、浜辺に流れ着いた古いカメラを拾いました。気になって中を開けてみると、フィルムもしっかり入っています。
写真屋に駆け込み、現像してみると、そこには今まで見たことのない幻想的な海中の世界が映し出されていました。
不思議な魅力にとりつかれた少年が、次々に写真をめくっていくと、最後に1枚だけ雰囲気の違うものが。虫眼鏡や顕微鏡で観察すると、見えてきたのは……?
- 著者
- デイヴィッド ウィーズナー
- 出版日
2007年に「コールデコット賞」を受賞したデイヴィッド・ウィーズナーの作品です。
最大の特徴は文字がないこと。1枚1枚丁寧に描かれたイラストが、ウィーズナーの思い描く世界を存分に読者に伝えてくれます。
最後に映っていたのは、少年と同じようにカメラを拾った子どもの写真。カメラが時代を超えてかつての持ち主に出会わせてくれる様子は、まるで海の向こうの誰かにメッセージを伝えるボトルメールのようなロマンを感じさせてくれるでしょう。その豊かな発想に感服です。
言葉がなくても、言葉がないからこそ広がりを見せる世界に、どっぷりと浸ってみてください。
ほとんどの絵本はフィクションですが、本作で描かれる男は、実在したフランスの大道芸人、フィリップ・プティです。
1974年のある夜、フィリップ・プティは友人とともに、世界貿易センターのツインタワービルの間に鋼鉄製のロープを張ります。翌朝、地上400メートルという高さのこの場所で、綱渡りのパフォーマンスをするためです。
風が強く吹くビルの上。パフォーマンスは成功するのでしょうか。
- 著者
- モーディカイ・ガースティン
- 出版日
- 2005-08-01
2004年に「コールデコット賞」を受賞したモーディカイ・ガースティンの作品です。
高い高いビルの上だということがよくわかる構図が魅力的。中盤に織り込まれている仕掛けがあったり、絵本を縦にして見るページがあったりと、楽しませる要素もたくさんです。
最後には、「このふたつのタワーはもうありません」と、2001年9月11日に起こったアメリカ同時多発テロ事件にも触れています。フィリップ・プティが人々を魅了した時間と、ツインタワーの賑わっていた姿を伝えてくれる作品です。
ある火曜日の夜に、アメリカのとある街で起こった不思議な出来事のお話です。
月の光が照らす池から、浮かび上がるのは無数のカエルたち。まるで空飛ぶ絨毯のような蓮の葉に乗って、街を巡ります。カラスを追いかけたり、おばあさんの家に忍び込んだり、ワクワクする冒険を楽しむカエルたちの表情に、思わず楽しくなってしまうでしょう。
- 著者
- デヴィッド ウィーズナー
- 出版日
1992年に「コールデコット賞」を受賞したデイヴィッド・ウィーズナーの作品。『漂流物』と同じく、本作もほとんど文字のない絵本になっています。
文字がなくても、不思議と頭の中で音が聞こえてくるような感覚を得られるのが魅力的。カエルたちに追いかけられるカラスのビックリしたような鳴き声、主が眠った後の部屋の中で煌々と流れ続けるテレビの声、朝方ににぎわい始める街など、繊細なイラストによってリアルな音を聞かせてくれるのです。
火曜日の夜に起こる不思議な出来事は、実際にはありえないことだとわかりつつも、もしかしたら……と思わせてくれるファンタジックなもの。1度読んだら忘れられない世界観をお楽しみください。
あるクリスマスイブの夜、少年はベッドの中で耳を澄ましていました。サンタの乗ったソリの鈴の音を聞くためです。
しかし聞こえてきたのは鈴の音ではなく、「しゅうっ」という蒸気汽車の音。導かれるように乗り込んだ少年は、たくさんの子どもたちと一緒に、世界のてっぺんにぽつんとある町「北極点」へと向かいます。
少年たちが体験した、クリスマスイブの奇跡とは……。
- 著者
- ["クリス・ヴァン・オールズバーグ", "Chris Van Allsburg", "村上 春樹"]
- 出版日
1986年に「コールデコット賞」を受賞したクリス・ヴァン・オールズバーグの作品です。翻訳は村上春樹が担当しています。
しんしんと降る雪、あたたかな室内、汽車の蒸気など、空気の温度や手触りが伝わってくるような美しいイラストが魅力です。
汽車に乗った子どもたちが到着したのは、すべてのクリスマスプレゼントが作られているという場所。そこで彼らは、サンタクロースから最初のプレゼントをもらうのです。大人になると見失いがちになってしまう純粋な心を描いた王道のストーリー。きっと読者の心をあたためてくれるでしょう。