小説『リピート』を面白くする謎を考察。予想外の犯人の正体とは【ネタバレ注意】

更新:2021.11.20

『イニシエーション・ラブ』の大ヒットで知られる乾くるみが、『そして誰もいなくなった』などの過去の傑作の枠組みに挑戦した『リピート』。本作は、現在の記憶を持ったまま過去の自分に戻って人生をやり直す「リピート」に招かれた人々が謎の死を遂げていく、タイムトラベル・ミステリーです。 この記事では、全米3大ネットワークの1つであるCBSでドラマ化の予定もある本作の見所を、結末までご紹介します。ネタバレを含みますのでご注意ください。

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小説『リピート』が面白い!乾くるみが描く、大どんでん返し!【あらすじ】

 

主人公の毛利圭介(もうりけいすけ)は、どこにでもいる大学4年生。ある日、見知らぬ男から1時間後に地震が起こるという予言めいた電話がかかってきます。たちの悪い悪戯だと思いますが、予言は的中。時刻・震度もぴったりなのです。

風間と名乗る電話の主は、過去に戻って人生を繰り返しているのでこれから起こることがわかるのだといいます。そして、その過去に戻る旅「リピート」に、圭介を招待するというのです。

謎と危険に満ちた時間旅行。ラストに向けての謎解き、種明かしには、だれもが大きく驚かされるはず。

2018年1月、『リピート〜運命を変える10か月〜』というタイトルでテレビドラマ化(全10話)された本作。2019年10月に、アメリカのCBSがテレビドラマ化に向けて準備中であることを、アメリカのオンラインマガジンDeadline.comが報じました。

日本のSFファンの心をつかんだ『リピート』が、世界の『リピート』へと羽ばたくということで、期待が高まる作品です。

作者・乾くるみとは。『イニシエーション・ラブ』が代表作!

 

本作の著者・乾くるみは、日本の小説家・推理作家です。 1998年、『Jの神話』でメフィスト賞を受賞したのを機にプロ作家としてデビュー。 

2004年、恋愛ミステリー小説『イニシエーション・ラブ』を発表。これが、同年の「このミステリーがすごい」第12位、「本格ミステリーベスト10」第6位と高評価を得て、ブレイクしました。

著者
乾 くるみ
出版日
2007-04-10

 

くりぃむしちゅーの有田哲平はじめ、熱烈な『イニシエーション・ラブ』推し芸能人も多く、約10年で百数十万部を売り上げました。2015年、堤幸彦監督、松田翔太主演で映画化もされました。

タロットをモチーフにした著者の作品群はタロット・シリーズと呼ばれ、『イニシエーション・ラブ』はタロットカードの6番・恋人、本作は10番・運命の輪として、シリーズに含まれています。

本作の主要人物の1人・天童太郎は、『イニシエーション・ラブ』をはじめ他のタロット・シリーズ作品に共通して登場します。1作だけでなく、他作品との繋がりにも仕掛けを用意しているのが乾くるみ作品の面白いところ。

それぞれの作品での共通点にも注目して読んでみてくださいね。


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登場人物

 

風間が「適当に電話をかけて選んだ」という9人が、地震の予言から4週間後、9月29日に横浜中華街に集められます。確かに、そこに集まったのは、適当としか思えないばらばらな面々。

主人公の毛利圭介はそこで、アイドル系の顔立ちの篠崎鮎美(しのざきあゆみ)と初めて会い、心惹かれます。鮎美は23歳の会社員で、招待客の紅一点です。

他にも7人の招待客がいますので1人ずつご紹介します。

著者
乾 くるみ
出版日

 

休日のお父さん風な40代、横沢洋(よこさわひろし)は金融関係と思われる会社の経理部人事課長。 

スポーツマンタイプの30代、池田信高(いけだのぶたか)はゴルフのレッスンプロです。

20代半ばでヤンキーっぽい高橋和彦(たかはしかずひこ)はトラック運転手。

同じく20代半ばのシナリオライター天童太郎(てんどうたろう)は、新宿歌舞伎町で企画会社を経営。

年齢不詳、がりがりで、ぼさぼさ髪に黒縁メガネの大森雅志(おおもりまさし)は、 食品化学関係の研究者らしく、科学的見地でリピートを考えます。

最年少は、坪井要(つぼいかなめ)。小柄な金髪少年で、リピートで受験の再チャレンジを狙います。

郷原俊樹(ごうはらとしき)は60歳くらいの裕福そうな会社経営者。

本当に何のつながりも感じられないメンバーです。考え方もいろいろで、風間の予言を信じる者もいれば、嘘だと思う者、トリックを見破ろうとする者もいます。

そして、リピートの主催者である風間も会場に現れます。風間元春。30代半ば。がっしりした体格で、髪はオールバック、細縁のサングラス、豊かな口ひげをたくわえ、何とも怪しげな風貌です。

呉越同舟ともいうべく、このメンバーでいったいどのような旅が始まるのか。そして、公開が待たれる海外ドラマ版では、誰がどのような役を演じるのか、こちらも期待が高まります。

リピートについての解説

 

そもそもリピートとは、何でしょう。この設定についてまずはご説明しましょう。

ことの発端である風間は、今年の1月13日の夜に戻る時間の旅だと説明。「未来の記憶」を持ったままやり直す人生のこともリピートと呼びます。

10月のある日ある時刻、ある場所に、時空の裂け目のような口が開くことからそれはスタートします。そこに入ることによって時間が戻ることを偶然発見した風間は、オリジナルの人生のことをアールゼロ(R0)とし、一度目のやり直しをR1、次がR2として、このリピートを繰り返していると明かしました。

そして今回、圭介たちに声をかけたのはR9からR10への旅で、ゲストを連れていくのは3度目だと言います。

また、この設定で見逃せないのが、リピートにあたっていくつか注意点があることです。

まず、リピートの秘密を誰にも洩らさないこと。そして、過去に戻ってもオリジナルの人生となるべく同じように暮らすこと。その後の人生が大きく変わってしまうようなことをすると「未来の記憶」が役に立たなくなると釘をさされます。

風間は、いったん変化が起こると、その変化が飛躍的に増加して、予想が立てられなくなることを恐れているよう。北京で蝶がはばたくと、その影響で一週間後にニューヨークで雨が降るという「バタフライ効果」というのは読者のみなさんも聞いたことがあるかもしれません。

そしてこここそ、本作のミソ。過去に戻るリピーターたちの行動は、蝶の羽ばたきにつうじていくのです。

考察すべき作品の謎:次々と死んでいく登場人物たち。犯人は誰?

 

1991年10月27日は、武豊騎乗のメジロマックイーン降着により荒れに荒れた秋の天皇賞がありました。その3日後の10月30日に、9人は新木場駅に集められます。そこに現れる「西洋航空」のマイクロバス。風間が運転するバスに乗り込み、みな期待と不安がないまぜの気持ちで、ヘリポートへと向かいます。

午前11時37分、風間を入れた10人は、1月13日夜11時13分7秒に戻る過去への口へ飛び込みます。果たして現在(R9)から過去(R10)に戻った彼らにどのような人生が待っているのでしょうか。

しかし、やり直しへの期待はいきなり裏切られます。トラック運転手だった高橋は、運が悪いことに、戻った先の自分が運転中だったために、そのまま事故死してしまうのです。

偶然の事故と思われた高橋の死。しかし、その後も不幸が他のリピーターたちを襲い、ひとりまたひとりと、命を落としていくのです。これでは、何のためにR10にやって来たのかわかりません。

不安にさいなまれる圭介。そして、頼りにしていた天童も彼の前から姿を消します。

果たしてこれらの死に犯人はいるのか?もしいるとしたら、何の目的があるのか?

タイムトリップを使った巧みなトリックと、予想できなかった犯人の正体には思わず絶句してしまうでしょう。手元に置いて何度も読み返したくなるミステリーです。

小説『リピート』の、苦い読後感。結末はどうなる?【ネタバレ注意】

 

リピーター(リピートをする人)の1人を殺した犯人として、麻生正義という元警察官が逮捕されます。それでも、事件全体に麻生がどう関わっているのか見えてきません。実は、そこには恐ろしいからくりがあったのです。

風間の家に呼ばれた圭介は、リピーター連続怪死事件の謎を明かされます。連続怪死事件といっても、連続であり怪死であると感じているのはR9からやって来てR10体験中のリピーターたちだけです。

しかし、犯人が捕まり、謎が明かされたあとも、事件は続きます。ますます不信感をつのらせる、圭介……。

そして、彼らは2度目の10月30日を迎えるのですが……。

著者
乾 くるみ
出版日

 

物語の結末は、苦いもの。それが蝶の羽ばたきほどの些細なことでも、時間の規律を乱した罪は重いということなのか、と考えさせられます。

自分たち以外に秘密をばらすことができない、いつ自分が死ぬのかわからない。極限の状態に置かれた登場人物たちのエゴや咄嗟の判断に、それぞれの人間の本性を感じる本作。それらが引き起こした物語のラスト、彼らを待っている恐ろしい罰はご自身でお確かめください。

また、このあとは最後に、本作のドラマ化がどんなところが見所になるかを考察します。

アメリカ映画版『リピート』はどうなる?

 

海外ドラマ通、SF好きに限らず、「マシ・オカ」と聞いて、どこかで聞いた名前と思う方は多いはず。

2006年にスタートし、全世界でブームを巻き起こしたアメリカのテレビシリーズ「HEROES/ヒーローズ」。超能力者をテーマにしたこのドラマで、日本人プログラマーのヒロ・ナカムラ役を演じてブレイクしたのが、日本国籍の俳優マシ・オカでした。

彼がアメリカ版『リピート』の制作で総指揮を執ることが決定しています。

「HEROES/ヒーローズ」で、ヒロ・ナカムラも超能力の持ち主。自分の能力がうまく発動したときに、両手を広げて発する「ヤッター!」の掛け声で世界的に有名になりました。

そして、マシ・オカ演じるそのヒロ・ナカムラが持っていた超能力こそ、「時空操作」なのです。本作『リピート』に通じるものを感じますね。

マシ・オカは俳優としてだけでなく、ハリウッド版『Death Note/デスノート』のプロデューサーや、大人気コミック『進撃の巨人』のリメイク映画に関わるなど、多くの実績を残しており制作面でも活躍しています。日本のコミックの大ファンでもあります。

アメリカの映画・ドラマ界で実績を残し、大ヒットドラマで本作に通じる「時空操作」能力を持つ役を演じたマシ・オカの目に留まった本作。

彼であれば作品の魅力をしっかりくみ取って、日米の枠を超えて世界中をドキドキワクワクさせるドラマに仕立ててくれることでしょう。「X-メン」「デスパレートな妻たち」などのスタッフの協力も得ているといわれ、期待は高まるばかりです。 

時空をこえる物語には、あるはずのものがない、ないはずのものがあるなど、自分の知っている現実とは異なる現実が用意されています。10か月ほど前に戻った主人公を待っていたのは、失敗しない人生なのか、新しい重石なのか。

彼の最後を推理し、作者との知恵比べを楽しんでみてはいかがでしょうか。

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