爆笑するわけではないけれどクスリと笑えたり、その不気味さに空恐ろしさを感じたり……たまにはシュールな小説を読んでみるのはいかがでしょうか。この記事では、独特の世界観をもつ特におすすめの作品を紹介していきます。ユーモアたっぷりで癖になること間違いなしです。
純真無垢なエレンディラは、厳しい祖母と暮らしていました。祖母の言いつけに従い、毎日くたくたになるまで家事に追われていた彼女。ある日疲れがたたって燭台を倒してしまい、住んでいた屋敷が全焼してしまいます。
これに怒った祖母は、とんでもない方法でエレンディラに罪を償わせようとしました。彼女の運命は……?
- 著者
- ガブリエル ガルシア=マルケス
- 出版日
- 1988-12-01
『百年の孤独』で世界に知られるガルシア=マルケスによる短編集。1978年に刊行されました。表題作の「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」は、美しい少女エレンディラのお話です。
ガルシア=マルケスといえば、日常と非日常の融合がみられる「マジックリアリズム」の手法を用いた作品が有名ですが、本作でもありえない出来事が日常として当たり前のように語られ、シュールさを醸し出した世界観が魅力になっています。
収録されているどの物話も、リアリティのある人間くささが現実味を感じさせる一方で、幻想的な非日常の場面がうまく織り交ぜてあり、独特で奇妙な感覚を味わうことができるでしょう。
主人公の山田羽仁男は、十分な給料を貰い、申し分ない生活を送るコピーライターでした。しかしある時、行きつけのスナックで夕刊を読んでいると活字がゴキブリに見えてきて、突然生きている意味がわからなくなります。
自殺を試みたものの失敗してしまった羽仁男は、急に自由な世界が開けたように感じ、思い切って会社を辞め、新聞の求職欄に次のような広告を出しました。
「命売ります。お好きな目的にお使いください。当方、二十七歳男子。秘密は一切守り、決して迷惑はおかけしません。」(『命売ります』より引用)
羽仁男のもとに舞い込む依頼とは……?
- 著者
- 三島 由紀夫
- 出版日
1968年に刊行された三島由紀夫の作品です。
新聞に公告を載せると、羽仁男のもとにはさまざまな依頼が舞い込みます。薬の実験台、無理心中、吸血鬼に血を吸われる……しかしそのたびに、偶然か運命か助かってしまい、なかなか死ぬことができません。
一風変わった依頼を引き受けてつい助かってしまう様子がくり返されるさまは、なかなかシュール。何度も命の危機にさらされるなかで、変化していく羽仁男の死生観が見どころでしょう。
純文学のイメージが強い三島由紀夫ですが、本作は娯楽要素の強いユーモラスなエンタメ小説。非常に読みやすいので、三島作品は難しそうだと敬遠していた方にもおすすめです。
ある朝目覚めると、自分の名前が思い出せないことに気付いた主人公。職場に行くと、自分の名前を奪って働く「名刺」を見つけます。
「S・カルマ」という名前を奪われた主人公は、居場所を失い、徐々に社会から断絶されていきます。名前を失った主人公が最後に辿り着いた先とは……?
- 著者
- 安部 公房
- 出版日
- 1969-05-20
1951年に刊行された安部公房の作品。「壁」にまつわる物語を集めた短編集です。第1部の「S・カルマ氏の犯罪」は「芥川賞」を受賞しました。
自分の代わりに「名刺」が仕事をしたり、女性とデートをしたりしている姿はなんともシュール。アイデンティティを失った主人公は、不条理な裁判にかけられ、社会から追放されていきます。しかし本作に陰鬱な雰囲気はなく、むしろ不条理な現実を明るく軽快に笑い飛ばすような心地よさが感じられるでしょう。
他の短編も、「自分の存在」について考えさせられるようなものばかり。中毒性のある不思議な世界観に酔いしれてみてください。
売れっ子作家の佳子は、外務省に勤めている夫を仕事に見送ると、書斎にあるお気に入りの椅子でファンレターに目を通すことを日課にしていました。なかには、「有名作家の佳子に読んでほしい」と自身の書いた小説の原稿を送ってくる人も珍しくなく、その日もファンレターにしてはぶ厚すぎる原稿の束が届きます。
きっといつもの原稿だろうと、軽い気持ちで目を通しますが、「奥様」という呼びかけで始まるそこには、ある椅子職人の罪悪の告白が書き記されていました。
- 著者
- 江戸川 乱歩
- 出版日
- 2008-05-24
1925年に刊行された江戸川乱歩の短編集。表題の「人間椅子」は映画化もされており、乱歩ファンのなかでも根強い人気のある作品です。
椅子職人は、椅子の中に人間が隠れられるスペースを作り、そこに自らが入って椅子に座る女性の感触を楽しんでいるとのこと。ある時、その椅子は古道具屋に売られて持ち主が変わります。買い求めたのは外交官でしたが、その椅子に座るのは若くて美しい作家で、椅子職人は彼女に恋心を募らせているというのです。ついには自分の存在を伝えたいと思い、手紙を書いたとのこと……。
「角川ホラー文庫」から刊行されているだけあって、背筋がぞっとするシュールなお話。美しい女流作家と貧しく醜い椅子職人の対比が際立つ、耽美的な文章が魅力です。ラストシーンは読者によって解釈が分かれるといわれています。あなたは何を感じるでしょうか。
ある朝目が覚めると、巨大な毒虫になっていたザムザ。これまで父親の代わりに一家の大黒柱として忙しく働き、生活費や妹の学費を稼いでいました。しかし虫になったことで仕事はもちろんできません。父親からは傷つけられ、母親は気絶、妹からも蔑まれます。
また普段の生活も、ベッドではなく椅子の下で寝るようになり、食べ物は腐りかけのものを好むなど、変化していきました。
- 著者
- フランツ カフカ
- 出版日
- 2006-03-01
1915年に刊行された、フランツ・カフカの代表作です。
起きたら巨大な虫になっていた……という章劇的な場面から始まる本作。面白いことに「なぜ虫になってしまったのか」については一切触れられていません。ザムザ自身も彼の家族も、なぜ虫になってしまったのか、戻す方法はないのかなどは考えないのです。
恐ろしいほどに不条理で、最初から最後まで絶望的な内容。虫になるという一見シュールな展開ながら、物語全体に深い孤独が漂っているのが特徴でしょう。ザムザは家族の収入を心配し、一方で家族は世間体を気にします。ザムザがついに死んだ後、晴れ晴れと明るい未来について語りあう家族の姿が印象的です。最後まで救いがないこの物語から、何を感じるでしょうか。
アリスが暖炉の前にある大きな鏡をのぞき込むと、いつの間にか鏡をすり抜けて不思議な世界に迷いこんでしまいました。
1冊の本を見つけると、そこには左右が逆になり鏡に映さないと読めない文字が書かれています。どうやらこの世界は、現実世界とあべこべで、ヘンテコな理屈がたくさん転がっているようです。
- 著者
- ルイス・キャロル
- 出版日
- 2010-02-25
1871年に刊行されたルイス・キャロルの作品。『不思議の国のアリス』の続編です。
前作ではトランプがモチーフの世界になっていましたが、本作はチェス。赤の女王から8列目まで進むことができればクイーンになれると教えられたアリスは、白のポーンとなってゲームに参加します。
児童書ではありますが、ファンタジーというよりかはシュールな笑いが散りばめられている内容。ダジャレのような言葉遊びも多く、意味を見出すのは難しい部分もありますが、それこそが本作の魅力だといえるでしょう。登場人物たちの強烈な個性も見どころです。
『不思議の国のアリス』からストーリーが続いているわけではないので、前作を読んでいない方でもぜひお手にとってみてください。