「葉村晶」シリーズを全作紹介!これは原作を読まないともったいない!読む順番も紹介

更新:2021.11.20

推理小説にも様々なジャンルがありますが、個性的な探偵役が登場するシリーズものは外せません。女性探偵、葉村晶を主人公とした「葉村晶」シリーズも、人気作の1つ。常に満身創痍な不運体質の持ち主ながら、意外とハードボイルド。ブラックな読後感もクセになる、ドラマ化が決定した本作の魅力をご紹介いたします。

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「葉村晶」シリーズの作者・若竹七海とは

「葉村晶」シリーズを手がけるのは、作者・若竹七海(わかたけななみ)です。1963年生まれ、東京都の出身。立教大学文学部史学科在学中、ミステリクラブに所属していました。

過去には、東京創元社の創元推理文庫の折り込み冊子で「木智はるみ」名義で書評コーナーを担当していたことも。卒業後5年のOL生活を経て、1991年東京創元社『ぼくのミステリな日常』で作家デビューをします。 

若竹作品の大きな特徴は、ジャンルを選ばないこと。本格推理だけでなく、ハードボイルドやホラー、パニック小説など、幅広い作風を持ち味としており、読者を飽きさせません。作品には一貫して「人間が誰しも持っている悪意」が描かれており、ブラックなニュアンスがクセになります。

2013年『暗い越流』で日本推理作家協会賞短編部門を受賞。各社が発表するミステリ・ランキングにも毎年何らかの作品がランクインしており、人気の高さがうかがえます。また、本作のシリーズだけでなく、「若竹七海」シリーズや、「葉崎市」シリーズなど、複数のシリーズを手掛ける作家としても知られています。 

著者
若竹 七海
出版日

「葉村晶」シリーズが面白い!シシドカフカでドラマ化!【あらすじ】

「葉村晶」シリーズは、主人公の女探偵葉村晶を主人公とした、若竹七海の小説作品です。仕事はできるけれど、極度の不運体質の晶は、長谷川探偵調査所で働いています。様々なアクシデントに見舞われながらも、事件を解決していく作品です。

シリーズが進むにつれ、晶の年齢や生活環境が変化していくのもシリーズの特徴の1つ。読者とともに、晶も年齢を重ねていき、変化を楽しむことができます。  

20年以上にわたって愛されているシリーズですが、2020年1月24日よりNHKドラマ10枠にてテレビドラマ化されました。葉村晶役はシシドカフカが演じます。 詳細はドラマの情報ページでご覧ください。
 

シシド・カフカさんドラマ初主演!『ハムラアキラ~世界で最も不運な探偵~』

女探偵・葉村晶の人物像

 

本作の主人公・葉村晶は、傍若無人な姉から逃れるために、転職や転居を繰り返します。

その後、探偵事務所での調査の仕事を気に入り、探偵として働き始めました。白黒ハッキリさせたがる性格で、その性格ゆえに様々なアクシデントに巻き込まれる不幸体質。クールな一匹狼タイプですが、秘めた優しさも兼ね備えた女性です。

依頼に対し、不運に見舞われながらもタフな精神で突き進んで解決していく、なんとも頼り甲斐のある本作の主人公です。

 

「葉村晶」シリーズを刊行順に紹介!主人公の年齢も変化していく

 

主人公の晶は作品を追うごとに年齢を重ねていき、境遇も変化していきます。シリーズは6作発表されていますが、刊行順と晶の年齢順に作品をご紹介いたしましょう。 

まず1作目は1996年に発表された第1弾『プレゼント』。8編が収録されており、晶はまだ20代半ばのフリーターです。小林警部補とのダブル主人公で版元が違うため、シリーズに含めないという意見もありますが、晶が初登場した第1作目になります。 

2作目、『依頼人は死んだ』からは、晶1人を主人公としたシリーズとして刊行されました。物語開始当初29歳。3作目『悪いうさぎ』ではついに30歳に突入。31歳の晶がトラブルに巻き込まれます。 

ちなみに厳密にはシリーズには含まれていませんが、2014年の『暗い越流』には、晶が登場する短編「蠅男」と「道楽者の金庫」が収録。37歳から40歳くらいの彼女が描かれています。

 

著者
若竹 七海
出版日
2016-10-12

 

さて、シリーズ紹介に戻りましょう。4作目『さよならの手口』5作目『静かな炎天』6作目『錆びた滑車』では晶は40代となります。彼女を取り巻く状況から、刊行順に読むと40代の彼女の生活を追うことができます。  

基本的には刊行年順に読むと、晶の年齢を追うことができるので、混乱が少なく読むことができます。ダブル主人公ではありますが、初登場作ということもあり、やはり最初に『プレゼント』を読んでおくのがおすすめ。

間に何があったのか知りたい!という読者は3作目と4作目の間の時系列になる『暗い越流』収録の短編2作も外せません。 
 

 

『プレゼント』のあらすじ、見所を解説!

本作は記念すべき葉村晶が初登場した作品。短編集で、8作品が収録されています。注目すべきは、本作は単独主人公ではなく、探偵役が2人いるという点。20代のフリーター晶と、見た目は中年男性ながら鋭い観察眼と推理力を持つ小林警部補が謎を解いていきます。 

著者
若竹 七海
出版日

片方が主人公の物語が交互に収録されている形式ですが、表題作「プレゼント」は小林警部補が探偵役を務める物語。晶が初めて探偵役を務めたのは「海の底」。

フリーのライターとアルバイトを転々としていた彼女は、先輩編集者からホテルのカーペットの染み抜きを依頼されました。そして部屋から作家が消えたという謎に、疑問を抱きます。 

本作の見所は、交互に探偵役を務めた2人が、最後に収録されている「トラブル・メーカー」で共演をはたすというところ。類稀なる推理力を持つ彼らが、どのように謎に挑んでいくのかに注目です。

また、晶の姉なる人物が登場するところもポイント。強烈なキャラクターで読者を楽しませてくれます。

『依頼人は死んだ』のあらすじ、見所を解説!

本作は連作短編集。1作目『プレゼント』で長谷川探偵調査所に入社した晶でしたが、本作では退社。再雇用を持ちかけられ断りますが、契約探偵を提案され、心動かされます。

再び調査員となった彼女は、長谷川探偵調査所の依頼を請けおうことに。9作収録されていますが、季節ごとに事件や騒動が起こるため、最後は2年後。31歳で物語の幕が閉じます。 

著者
若竹 七海
出版日
2003-06-10

本作の大きな特徴は、自殺をした理由を探るという作品が多いというところ。表題作である「依頼人は死んだ」も、自殺が絡んだ物語です。

共通の友人を持つ佐藤まどかと知り合った晶。まどかから、市役所からガンを知らせる書類が届いたと相談を受けます。数日後、まどかは死亡。酒と睡眠薬があったことから自殺だと推測されましたが、晶はその死に疑問を抱きます。 

謎解きを基本としていますが、ハードボイルドな雰囲気もあるのが本作の大きな魅力です。

上記のような作品以外にも、有名人の護衛なども行っており、調査員の仕事の幅の広さが感じられるでしょう。多くの人の心に潜むうすら暗いところを、多く垣間見られる点も、短編集の本作ならではの見所です。

『悪いうさぎ』のあらすじ、見所を解説!

31歳の晶は、フリーの調査員として仕事を続けていました。忙しい時と暇な時の差が激しい職業。自身をフリーターだと評しながらも、依頼に向かいます。女子高生のミチルを連れ戻す仕事を請け負った晶でしたが、不慮のトラブルにより負傷。入院を余儀なくされてしまいます。 

著者
若竹 七海
出版日
2004-07-09

その後、退院した晶に、指名で依頼が舞い込みます。依頼主は美和という少女の父親。内容は、娘が行方不明になっており、手掛かりを知っているはずのミチルから聞き出してほしいというものでした。晶は、何かを知っているものの口を開かないミチルと協力し、美和の行方を探すことになります。 

シリーズ初の長編ということもあり、大ボリューム。行方不明になった少女を探すだけでなく、晶に復讐を企む男や、結婚詐欺師など様々な人物が関わり、混迷を極めます。事件の結末は衝撃的ですが、タイトルの意味に気が付いた時、後味の悪さを味わうでしょう。

見所は、長編ならではの大盤振る舞いな不幸っぷり。開始直後から不幸な目にあってしまう晶に、ついつい同情してしまいます。

『さよならの手口』のあらすじ、見所を解説!

長谷川探偵調査所が閉鎖されたことから、吉祥寺にあるミステリ専門の書店でアルバイトをすることになった晶。ボロ家で古本の引き取りをしていたところ、押入れを踏み抜いて床下に落下。骨折してしまったばかりか、白骨死体を発見してしまいます。 

著者
若竹 七海
出版日
2014-11-07

入院をした晶は、病院で同室の元女優、芦原吹雪と知り合いになりました。そして彼女から20年前に行方不明になった娘を探してほしいと依頼されます。

吹雪の死期が近く、親戚からも重ねてお願いされたことからリハビリ代わりにと依頼を受けた晶。しかし過去同じ依頼を受けた探偵が失踪していたことを知ります。 

長編作品ですが、また入院から開始というお約束的な不運っぷりにニヤリとしてしまうでしょう。不運のオンパレードももちろん見所ですが、事件がいくつも絡み合う、見事な構成と伏線の回収が本作の見所。

また、巻末には、作中に登場するミステリ古書店店長である富山店長のミステリ紹介コーナーが収録されており、ミステリ好きにはたまらないおまけ読み物になっています。

『静かな炎天』のあらすじ、見所を解説!

長編が続きましたが、本作は久しぶりの連作短編。四十肩になり身体がつらくなってきた、とこぼす40代の晶が様々な事件に遭遇します。収録されているのは6作品。

テレビ朝日のバラエティ番組「アメトーーク! 第3回読書芸人おすすめ本」の回で、お笑いコンビ「メイプル超合金」のカズレーザーが絶賛していたことでも話題となりました。 

著者
若竹 七海
出版日
2016-08-04

表題作「静かな炎天」は、珍しく晶の元に次々と依頼が舞い込みます。ひき逃げ事件で子供に重傷を負わせた男の素行調査や、疎遠になっていた従妹の消息を探してほしいなど。すぐに解決できる事件ばかりでしたが、簡単だと思われていた依頼の数々から、思わぬ事件が浮かび上がっていきます。 

また入院したり、風邪を悪化させたりと体調不和が目立ってきた晶。身体をいたわってほしいと思いつつ、不運な目にあっているとどこか安心してしまうという、複雑なファン心理が働いてしまいます。

見所は夏の熱気を肌で感じるような、人間の強烈な悪意と心の闇。晶の軽妙さと鋭いツッコミが、癒しに感じられます。

『錆びた滑車』のあらすじ、見所を解説!

書店でアルバイトを続けながら、店の2階に事務所を置く白熊探偵社の調査員をはじめた晶。別のリサーチ会社からの下請けとして、石和梅子という高齢女性の尾行をしていました。しかし、梅子と古い木造アパートに住む青沼ミツエのケンカに巻き込まれ、負傷してしまいます。  

著者
若竹 七海
出版日
2018-08-03

怪我をしたうえに、住んでいたシェアハウスが建て替えられるため、引っ越しを余儀なくされてしまった晶。ミツエの住まいであり所有物でもある木造アパートに住むことになります。

そこで彼女は、ミツエの孫で交通事故に遭い記憶喪失になっているヒロトから、自分と亡くなった父親はなぜあの場所にいたのかを調査してほしいと依頼されるのでした。 

本作は長編作品。40代の晶が、老女同士のケンカに巻き込まれて怪我をするという満身創痍なところは相変わらずです。見所は巧みな構成。シリーズを読み進めていくうちに、何度も唸らせられていますが、本作も思わず読み返したくなってしまうでしょう。タイトルの滑車が意味するものについて、考察が捗ります。

「葉村晶」シリーズ、ドラマ版での見所を考察!

20代から40代まで、晶の人生と遭遇してきた様々な事件を描く「葉村晶」シリーズ。ドラマは『ハムラアキラ~世界で最も不運な探偵~』という、前面に不運体質を押し出しているような印象のタイトル。ドラマでも散々な目にあってしまうのでは、と心配と期待が膨らみます。 

シリーズのどのあたりを描くのかというと、特定の作品ではない様子。ドラマ版の晶は34歳、ミステリー専門書店でアルバイトをしながら、店長が冗談で始めた「白熊探偵社」で調査員をしている、という設定になっています。

若い頃と40代の頃の設定が融合したような状態なので、事件もシリーズ中からこれぞ、という話がチョイスされるのではないでしょうか。  

ドラマは全7回と話数は多くないですが、若竹作品と言えば事件が複雑にからみ合いながらも、最後にはきれいに解決するという、巧みな構成能力。ドラマでも構成を意識し、1話の中に複数の事件が登場するのでは、と予想されます。 
 

 

散々な目にあいながらも、事件に毅然と立ち向かっていく晶。ミステリ作品ですが、晶のそんな姿勢から、ハードボイルドな空気が生まれているのでしょう。クールでもちょっと抜けたところのある、魅力たっぷりな探偵の活躍をドラマでも期待しましょう。

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