自由気ままでツンデレで、とにかくかわいい存在、猫。彼らの魅力にとりつかれている人は少なくありませんよね。そしてそれは作家のみなさんも同じこと。この記事では、猫好き作家が書いたおすすめの猫エッセイを紹介していきます。
些細なきっかけから、生後3ヶ月の子猫を貰うことになった作家の角田光代。初めての飼い猫に戸惑い、慌てながらもトトを育てていきます。
小さくてふわふわな生き物の行動を追い、驚き、感動し……愛情がたっぷりつまったエッセイです。
- 著者
- 角田 光代
- 出版日
- 2017-06-17
『八日目の蟬』や『紙の月』で知られる小説家、角田光代が愛猫トトに対する愛を語った穏やかなエッセイです。2015年に刊行されました。猫を飼ったことがなかった作者が、しだいに家族として愛していくさまがほのぼのと綴られています。
エサやり、トイレ、毛玉などに関する「猫あるある」はもちろんのこと、猫にまつわる考察も「なるほど」と思わせてくれるものばかり。なかでも角田がBC(Before Cat)、AC(After Cat)と呼んでいる、猫に出会う前と後との変化については、猫を飼ったことがある人なら共感できるはずです。
「愛」の形を丁寧に描くことのできる角田光代だからこそ、飼い猫への想いがよく現れたエッセイになっています。小さくて、かわいくて、ふわふわで、やわらかくあたたかい猫。彼女の優しいまなざしに触れてみてください。
とある出会いをきっかけに猫好きになり、それからずっと猫と生きてきた作者。しかし出会いがあるということは、別れもあります。たくさんの猫と出会ってきた作者は、たくさんの別れも経験してきました。
街のいろいろなところに残っている、猫と過ごした記憶。彼らとの生活をとおして、人生を見つめるエッセイです。
- 著者
- 星野 博美
- 出版日
- 2009-05-08
ほのぼのとしたタイトルがかわいい、星野博美のエッセイです。2006年に刊行されました。
「のりたま」は、彼女が名付けた猫の名前。ほのぼのとしていてかわいらしいですが、エッセイのテーマは「生と死」という少しヘビーなものです。
作者の星野は写真家でもあり、彼女のなかには「二度と訪れない今の一瞬」を大事にするという感覚があるそう。それが本作にもよく現れていて、日常に溶け込む猫たちをかけがえのないものだと思い、彼らの死を大切に抱いて生きているのです。死は悲しくて辛いけれど、忌み嫌うものではないという考え方が伝わってきます。
過去へと思いをはせて語られる記憶は、まるで短編小説を読んでいるかのよう。死を扱ってはいるけれど、けして暗い作品ではありません。あたたかさに包まれてみてはいかがでしょうか。
気高いココア、人懐っこいゲンゾー、無邪気なヘッケ、そして人一倍気の強い奈奈……保護団体から貰いうけたり、拾ったりして出会った猫たちにまみれながら作者は暮らしています。
自由な行動に手を焼いたり、弱った猫の世話をしたり。振り回されるほど、愛は深まっていくのでしょう。
- 著者
- 町田 康
- 出版日
- 2010-04-15
ミュージシャンとしてデビューして以来、俳優や作家など多方面で活躍している町田康のエッセイです。2004年に刊行されました。猫たちを「彼」「彼女」と呼ぶほど無類の猫好きである町田は、愛猫をテーマにしたエッセイをシリーズで発表していて、本書はその1作目です。
町田の飼い猫たちはみな、捨てられていたり、保護団体に引き取られていたりした猫たちです。弱っていた彼らを助け、懸命に看病し、そして一緒に遊ぶ……それぞれのエピソードから、猫たちの個性と町田の優しさが見えてきます。
翻弄される作者の姿に笑えて、泣ける作品。猫にたっぷりと「かまけられる」作品です。
ある日、食器洗いをしていた作者の耳に、大きな物音が聞こえてきます。何事かと見に行くと、飼っていた小鳥の鳥かごがひっくり返っていました。犯人はベランダの隅にいた2匹の子猫。そして塀の上には、きちんと座っている親猫がいました。
これが、作者と「トラちゃん」との出会いです。動物好きの一家で暮らす、猫や小鳥や金魚などの姿が描かれたほのぼのエッセイです。
- 著者
- 群 ようこ
- 出版日
作家、随筆家として多くの作品を発表している群ようこのエッセイです。1986年に刊行されました。
タイトルにもなっている猫のトラちゃんをはじめとし、群家にはたくさんの動物たちが暮らしています。小鳥、金魚、犬、ネズミ……多くの動物たちに囲まれて日常を送っていることがよくわかり、読んでいてほっこりしてしまうでしょう。
トラちゃんは驚くほどしっかりもので、2匹の子猫にもきちんとしつけをしているように見えるそう。ご飯をもらうときもちゃんと「にゃん」と答え、まるで人間のようだというのです。
動物たちの個性的な姿も印象的ですが、作者の母親もまた「猫にちゃんと言って聞かせれば、鳥や金魚と殺し合うなんてことはない」と言い切る独創的な方。楽しい動物と家族に囲まれた日常は、読んでいるだけで笑顔になれる一冊です。
家に住み着いていた野良猫のノラが、ある日突然姿を消してしまいました。
ノラを見つけるために、チラシを配り、新聞広告を出し、外国人も読めるように英字のポスターを貼り……そこには、愛猫のために命すら懸ける作者がいました。たとえ大作家になろうとも、いなくなってしまったノラを思って涙を流す、内田百閒の姿が目に浮かぶエッセイです。
- 著者
- 内田 百けん
- 出版日
- 1997-01-18
猫が出てくる日本の小説といえば、誰でも思い出すのが夏目漱石の『吾輩は猫である』ではないでしょうか。漱石は黒猫を愛したそうですが、その門下生である内田百閒もまた、負けず劣らずの愛猫家です。本作は、内田の猫にまるわる話が収録された連作エッセイになります。
さまざまな手段を使って探すものの、見つからないノラ。大の大人が一日中泣いていると、なんと入れ替わるようにノラとそっくりの猫が現れるのです。百閒はその猫をクルツと名付け、愛情を注ぎながら一緒に暮らします。しかしやがて、クルツとも別れの時が……。
2匹の猫を狂うほどに愛し、「猫は運命のかたまり」だとも言った内田百閒。彼が感じた寂しさも含めて、心に染み入る作品です。
ある日編集者のもとに、暗号のように記号がタイプされた、奇妙な原稿が届けられました。相談されたポール・ギャリコが解読してみると、それは猫が書いた猫のためのマニュアル。
「快適な生活を送るために、どのようにして人間をしつけ、気に入られるか」その方法が書かれています。
- 著者
- ポール ギャリコ
- 出版日
- 1998-12-01
ここまで猫エッセイを紹介してきましたが、番外編として一冊の本を紹介します。猫が、猫のために書いた『猫語の教科書』をギャリコが解読し、代わりに出版したという設定の作品です。
私たちは猫を飼って、かわいがっています。しかしそれは、まんまと猫の思惑にはまっているだけだったのかもしれません。作中では「人間を飼いならす」ためのハウツーが語られ、仕草、鳴き声、行動、表情など、私たちが虜になっている猫のすべてが計算されたものだと書かれているのです。
猫を愛する者であれば、誰しもが思いあたる節ばかり。でもそれでもいい、むしろそうであってほしいと思わせてくれる、ハイセンスな一冊になっています。
猫を愛する人々が書いた猫エッセイを紹介しました。「あるある」に笑えて、そのかわいさに頬が緩んでしまいます。ぜひ読んでみてください。