言葉で説明をしても理解するのが難しい、命のこと、人種のこと、戦争のこと……実話をもとにした絵本を読めば、ストーリーを追いながら自然と心に入ってくるのではないでしょうか。この記事では、次の世代にも読み継ぎたいおすすめの絵本を紹介していきます。
「52ヘルツのクジラ」をご存知でしょうか。鳴き声だけが検出され、声紋からクジラだと判定されていますが、正体は不明。誰も姿を見たことがありません。
これから紹介する絵本の主人公は、父親の仕事の関係でアメリカに引っ越してきた少年、ユウト。英語がわからず周囲とコミュニケーションをとれずに苦しんでいた彼に、父親が「52ヘルツのクジラ」の話をしてくれました。
その夜、ユウトが体験した不思議な出来事とは……?
- 著者
- ながい しょうご
- 出版日
- 2019-07-25
2019年に刊行された作品。海洋研究所に勤務する父親と少年を描いた、ノンフィクション絵本です。
通常のクジラはだいたい10~40ヘルツで鳴きます。周波数が違うため、「52ヘルツのクジラ」は他のクジラと会話をすることができず、「世界でもっとも孤独なクジラ」とも呼ばれているのです。
実在するクジラの話を軸に展開するストーリーは、世代を問わずに共感できる内容。切ない物語を聞いたユウトは、その夜不思議な体験をします。あらためて、想いを伝えることの大切さに気付くことができるでしょう。
海の色はもちろんですが、登場人物が来ている服や家具など、いたるところに青色が使われているのも特徴。その奥深さを楽しむことができます。
猫のトロとイヴは、いつもどこでも一緒です。
2匹でお留守番をしていると、トロはイヴの好きなものを取りあげて、なんでもひとり占め。自分の思い通りに過ごします。それでもイヴは、そんなトロの振る舞いをまるで気にしていない様子です。
ところがある日、ご主人がイヴだけを連れて出かけてしまいました。ひとりぼっちのお留守番に、トロは最初は幸せを味わいますが、だんだん何日も帰ってこないイヴが心配でたまらなくなり……。
- 著者
- エアーダイブ
- 出版日
- 2015-02-23
エアーダイブは、北海道で出版事業を展開する企業です。本作は2015年に刊行されました。
線画を基調としたシンプルなイラストと、短い文章で構成されています。だからこそ、細かい表情の変化や色の使い分けなどで、イヴがいなくなった後のトロの心情の変化を感じられるのが魅力です。
ペットに限らず、大切な人や場所を失う経験は、誰の人生にも訪れます。一緒にいる時間が長いほど、その存在の大きさを意識しなくなっていくものですが、当たり前の日常を当たり前に過ごせることの尊さを教えてくれるでしょう。
結末はハッピーエンドではありませんが、小さな子どももそこから何かを感じとれるはず。最初はすべてを理解できなくても、本作の読書経験が、未来に別れを体験した時に活きるのではないでしょうか。
2011年3月11日に起きた東日本大震災。東北地方では電力と物流が絶たれ、被災地への物資輸送が困難な状況となりました。そんななか、磐越西線を使って燃料を届けることになり、全国から集められたのがディーゼル機関車です。
昔、この路線で活躍していたデーデもその1台。震災から2週間後の深夜、燃料タンクを率いて走り出します。
ところが、彼らを待ち受けていたのは、錆ついた線路と雪でした。山道を必死で登りますが、動けなくなってしまいます。
- 著者
- すとう あさえ
- 出版日
- 2013-11-30
震災直後の大混乱のなか、被災地に燃料を輸送したディーゼル機関車と鉄道マンの奮闘を描いた絵本です。2013年に刊行されました。
困難な時こそ協力して知恵を出し、助けあっていたことが、ディーゼル機関車を通して力強く描かれています。あとがきに記されている補足や、見返しに書いてある地図にも目をとおすことで、より一層理解が深まるでしょう。
一刻も早く被災者のもとへ物資を届けようと、真夜中に新潟を出発したデーデ。福島に着いた時には予定の時刻を3時間も過ぎていたそうです。それでもデーデが着いた時、待っていたみんなはとっても喜んでくれました。
横長のページを効果的に使ったイラストも見どころ。仲間の助けを得て、雪のなかを再び走り出したデーデたちの赤い車体が頼もしく、目頭が熱くなる一冊です。
リリーとサルマは、大の仲良し。学校ではいつも一緒です。ランチももちろん2人で食べるのですが、メニューは少し違います。
リリーはピーナッツバターのサンドウィッチを、サルマはヒヨコ豆をすり潰したフムスのサンドウィッチを食べるのです。お互いに、相手の食べているものを「まずそう」だと思っていた2人。ある日ついに喧嘩をしてしまいました。
そしてそれは、クラスを巻き込む大惨事になっていき……。
- 著者
- ラーニア・アル・アブドッラー(ヨルダン王妃)
- 出版日
- 2010-11-27
ユニセフ親善大使も務める、ヨルダンのラーニア王妃の作品。2010年に刊行されました。本作は彼女自身の幼少期の体験をもとにした絵本だそうです。
リリーとサルマの2人は、食べるものを通じてお互いの文化の違いを知り、他者を理解することを学びます。学校の友人という設定は、小さな子どもたちにも馴染みやすいでしょう。自分の食べているサンドウィッチをバカにされて、作ってくれた家族の顔を思い浮かべる彼女たちの心の優しさにもホッとします。
「違う」ことは悪いことではないと、わかりやすく教えてくれる作品。世界中の料理が登場する、楽しいラストにも注目です。
阪神・淡路大震災で妹を亡くした、いつかちゃん。避難所での生活や、どんどん元気がなくなっていく家族など、辛い体験をしてきました。
その年の夏、ちょうど妹が亡くなった場所から、大きなひまわりの花が咲きます。近所の人たちはそれを「はるかちゃんのひまわり」と呼び、毎年ひまわりの種をまく活動が広がっていきました。
- 著者
- 指田 和子
- 出版日
- 2005-01-05
テレビ番組がきっかけで話題になった、実話をもとにした作品。2005年に刊行されました。
「わたしでもイベントで、なんかおてつだいできるやろか。
あのときのおかえし、できるやろか」(『あの日をわすれない はるかのひまわり』より引用)
最初は辛くて、ひまわりを直視することができなかったいつかちゃん。それでも周りの人々に助けられながら生活し、何年も経ったころ、心境に変化が現れます。そうしてたどり着いたのは、「あの日をわすれない」と思うことでした。
突然やって来る震災の恐ろしさ、助けあうことや家族の大切さなど、さまざまなことを考えさせてくれる作品です。
デビッドという少年は、誕生日にもらったテディベアに、オットーという名前をつけました。親友のオスカーと一緒に、毎日楽しく遊んでいます。
しかし、彼らの幸せな日々を、戦争が奪います。ユダヤ人だったデビッドは、強制収容所に送られてしまうのです。
- 著者
- トミー ウンゲラー
- 出版日
- 2004-12-01
フランスの児童文学作家トミー・ウンゲラーの作品。2004年に刊行されました。
物語は、ティディベアのオットーの目線で語られます。オットーはデビッドからオスカーの手に託されるのですが、彼もまた空襲にあい、みな離ればなれになってしまいました。オスカーも戦火のなかさまざまな人の手をわたり、ボロボロの状態でアメリカの骨董屋に辿りつきます。そして数十年の時を経て、再びデビッドとオスカーと出会うのです。
表紙に描かれているオットーの胸にある傷は、銃弾の痕。彼の淡々とした語りが、より一層戦争の悲惨さを引き立てます。本作が実話をもとにしたものであるという事実が、何よりも胸を締め付けてくるでしょう。