主人公の異色のキャラクターと、彼が事件の真相にたどり着くまでの波乱万丈な展開が楽しめる、小説「御子柴礼司」シリーズ。 主人公は、弁護士の御子柴。目的のためならどんな手をもいとわず、また、高額な報酬を要求することから悪徳弁護士だといわれることもあります。しかし彼の「いわく」はそれだけでなく、ある重い過去を背負っていました……。 この記事では、要潤でドラマ化もされたこの人気小説シリーズをご紹介いたします。ドラマ『贖罪の奏鳴曲』を見るだけじゃもったいない!ドラマ化された原作を含めたシリーズすべてが面白いので、それぞれの魅力を知っていただければと思います。
弁護士版、ブラックジャック!
法外な報酬をもらう代わりに、絶対に負けない弁護士・御子柴の活躍と、それぞれの事件の波乱万丈さが際立つ「御子柴礼司」シリーズ。特に主人公のキャラクターがたった、リーガルサスペンス小説です。
作品の見所は、絶対に勝つ、がモットーの御子柴。特に法廷シーンで弁舌が冴える姿は、爽快感すら感じさせる見事さです。
また、ストーリーの波乱万丈さも見所。複雑な人間模様に引き込まれてストーリーを読み進めると、結末のまさかの展開に驚かされます。どんでん返しに定評のある作者、中山七里ならではの物語です。
『贖罪の奏鳴曲』がドラマ化されましたが、それを見るだけじゃもったいない!ぜひ原作を読んでいただきたいですし、シリーズ作品なので、そのほかの作品もおすすめです。
ここからは原作を踏まえたドラマ作品の見所、シリーズ作品それぞれの魅力をご紹介させていただきます。
魅力をご紹介する前にひとまずあらすじをご説明いたします。ドラマ作品の見所やシリーズ作品の魅力を知りたい方は飛ばしても問題ありません。
「御子柴礼司」シリーズは、中山七里の小説作品です。主人公は、弁護士の御子柴礼司。どんな裁判でも減刑を勝ち取り、時には無罪にもしてしまう優秀な弁護士です。
しかし対価として法外な弁護料を請求することでも知られており、さらに勝訴のためなら手段を選びません。時には証人を買収することすらある御子柴は、正義の弁護士とはいえないでしょう。
さらに彼には、14歳の時に女児を殺害しているという衝撃的な過去があるのです。その事件ゆえに少年院に収容されていました。しかしそこから人生をあらためて見つめなおし、贖罪のため名前を変え、弁護士となったのでした。
手段も経歴も驚きの御子柴が活躍するシリーズは刊行順に、『贖罪の奏鳴曲』『追憶の夜想曲』『恩讐の鎮魂歌』『悪徳の輪舞曲』の4作が刊行されています。
2015年にドラマ化されましたが、2019年12月7日から「悪魔の弁護人 御子柴礼司 〜贖罪の奏鳴曲〜」というタイトルでドラマ化されました。御子柴を演じるのは要潤。タイトルには1作目のみが使用されていますが、作中では4作すべてのエピソードが使用されると発表されています。なので余計にシリーズ作品をご確認いただきたいのです!
では、このあとはドラマ作品の見所を原作を踏まえて考えてみましょう。
- 著者
- 中山 七里
- 出版日
- 2013-11-15
ドラマではシリーズ全作品を映像化しますが、作品順に映像化されるわけではありません。シリーズを総括してエピソードをチョイスしているのです。ドラマ放映の限られた回数のなかに物語すべてを詰め込む必要がなくなり、内容が薄くなることを防いだようです。
そのなかで、原作でも最大の見所である、御子柴を丁寧に描いているのも、見所のひとつ。より深く丁寧に彼の人間性や葛藤を描こうとしているようです。法廷シーンにも力が入っており、役者陣の迫真の演技に引き込まれます。
小説作品ですと丁寧に描かれている分、長すぎる印象を受ける方もいるかもしれません。ドラマでは、御子柴が弁護士をする事件を厳選しているので、主人公の魅力を感じつつも、ストーリーの面白いところだけを見ることができます。
シリーズ第1作目、『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』。主人公が弁護士という立場でありながら、死体を遺棄するという衝撃的な場面から始まります。どういうことだ、と驚いている間に、どんどんと作品世界にのめり込んでいくでしょう。
その後、川の堤防で30代の男性の遺体が発見されました。死体はフリーの記者、加賀谷竜次であることが判明。彼には「ゆすり」の常習犯というよくない噂がありました。
さらに最近では東條美津子に付きまとっていたと判明。彼女もまた、保険金のため夫の人口呼吸器を止めたと噂される一癖ある人物でした。
捜査のために 美津子の元を訪れた警察官の渡瀬と古手川のコンビは、そこで事件を担当している弁護士、御子柴礼司と顔を合わせます。
どこかで見たことがあると気が付いた渡瀬が調べてみると、御子柴の隠されていた過去が判明。御子柴は26年前、幼女殺害の罪で逮捕されていた少年A、園部信一郎だったのです。
加賀谷がゆすっていたのは御子柴で、彼が加賀谷を殺したのではと疑う渡瀬と古手川。しかし加賀谷が死亡したと推定されている時刻、御子柴は東京地裁で仕事中だったという鉄壁のアリバイを持っているのでした。
異色の展開と、シリーズ第1作目ということもあり、御子柴という人物の成り立ちを知ることができるエピソードが見所でしょう。
主人公が死体を遺棄した場面から始まり、さらに殺人容疑をかけられるという怪しさ満点の状況で物語が進む本作。その異色の展開によって、どんどん物語に引き込まれてしまいます。刑事たちがどうアリバイを崩していくのか、ミステリ的には気になるところです。
しかし、あくまでも主人公は御子柴。彼に感情移入してしまうような展開です。人を殺した過去を持ち、なぜか死体も遺棄していたことも描かれていますが、どうして今のような状態になったのかが明かされると、納得していまうところがあります。
- 著者
- 中山 七里
- 出版日
- 2013-11-15
シリーズ第2作目。本作でも過去の事件につながりのある女性が登場。彼女の過去を解説するために、御子柴自身の過去も明かされていく展開が、最大の見所です。彼が何を考え弁護士をしているのか、その一端が見えてきます。
前作終盤で刺された御子柴は生死の境をさまよったものの、3か月後には退院。死体遺棄に関しては物的証拠がないとうやむやになりました。
御子柴はどうなるのと気を揉んだ読者の方も多かったのではないでしょうか。無事に生還し、彼の贖罪はまだまだ続いていくようです。
そして御子柴は仕事に復帰し、夫を殺した主婦の弁護を引き受けます。
夫、津田伸吾を殺害したとされるのは、妻の亜希子。遺体を片付けているところを義父の要蔵に見つかり、逮捕されました。彼女は犯行を認めており、16年の懲役という判決も下されていました。要蔵から亜希子の娘2人のためにも、減刑をという協力もあり、御子柴は裁判に挑んでいきます……。
事件は一見すると単純なものに感じられますが、実は複雑な家族関係が絡んでいました。
亜希子の過去を調べていた御子柴は、津田家の隠されていた事情を暴いていくのです。家庭内暴力をしていた夫、事件後引き込もりになってしまった娘、そして亜希子自身にも、御子柴の過去とつながる、ある秘密があったのでした。
大どんでん返しは本作でも健在、過去の事件が公になってしまった御子柴がどうなるのかにも注目です。
- 著者
- 中山 七里
- 出版日
- 2016-03-15
シリーズ3作目。本作では、御子柴が弁護士を目指すきっかけとなった人物が登場します。外道な方法も使用してきた御子柴でしたが、本作では意外と正攻法。恩人に報いたいという彼の純粋な思いが見所です。
前作の裁判で勝利するため、自身がかつて幼女を殺害した少年Aであることを明かした御子柴。当然ながら複数の契約を切られてしまい、仕事は激減。事務所も引っ越しを余儀なくされてしまいます。
そんな時、少年院時代の恩人である稲見が殺人の容疑で逮捕されたことを知ります。御子柴は過去が明かされたことで仕事が入らない状態でしたが、あらゆる手を使って弁護をもぎ取りました。
14歳で殺人を犯し、少年院に収容された御子柴にとって、稲見は父親代わりの人物。反省も何も感じていなかった自分に、贖罪の意味を教えてくれた人物なのです。
そんな恩人である稲見は、御子柴も関わる院生の脱走事件がきっかけで半身不随となり、さらに高齢でもあったことから、老人ホームに入所していました。
稲見が殺害したとされる介護士栃野は、日々入所者に暴力を振るっていた人物です。彼は栃野と口論になり、カッとなって殺したと供述しています。
しかし御子柴は複数の入所者からの聞き込みで、2人の間に口論はなかったことを突き止めます。殺意はなかったと証明したい御子柴ですが、なぜか稲見は殺意があったと認めているため、思うように弁護が進みません。
そんななか、被害者の栃野の過去を探るうちに、とある人物に行き当たり……。
御子柴の意外と義理堅い一面が見られる本作。そんな主人公の描写だけでなく、事件の鍵となる「緊急避難」にまつわる展開も見所です。その詳細は、ぜひ作品でご覧ください。人が罪を犯したとき、状況を考慮することの難しさを痛感させられます。
- 著者
- 中山 七里
- 出版日
- 2018-04-13
シリーズ4作目。本作では、御子柴を捨てたとされていた家族が登場します。過去の殺人事件後に父親は自殺し、母と妹とは音信不通になっていたため、30年ぶりの再会。
過去の殺人事件によって関係が崩壊してしまった面々が、それぞれどんな思いを抱いているのかが見所です。
前作の弁護がきっかけで仕事量が回復してきていた御子柴に、妹の梓から依頼が舞い込んだのが、ことの始まり。母親の郁美を弁護してほしいという内容でした。
郁美は資産家の成沢拓馬と再婚していましたが、彼が首吊りした状態で発見されたのです。最初は自殺だと思われていましたが、証拠が見つかったことにより郁美が犯行を疑われ、逮捕されてしまいます。郁美自身は容疑を否認しています。
梓は、自分を「殺人犯の家族」にした御子柴を恨んでいましたが、この事件の弁護を引き受けてくれる弁護士がおらず、仕方なく御子柴の元を訊ねたのでした。
家族と会ったことで動揺した御子柴は、体調も情緒も不安定になってしまいました。それでも弁護を引き受け、自分が知らなかった母親の30年間を調べ始めます。
非道な手段を使うことから情がないようにみえる御子柴の、家族に対しての思い、母と妹は御子柴に恨み以外の感情を持っていないのか……。
結末でこれまでのすべてが明かされる場面では、御子柴の人間らしい感情の動きを、読者も痛いほど感じることができるでしょう。
- 著者
- 中山 七里
- 出版日
- 2019-11-14
最後に、作者の中山七里(なかやましちり)についてご紹介いたします。1961年生まれ、岐阜県の出身の小説家です。
幼少のころからミステリを好んで読み、高校の頃に小説を書いて投稿を始めるも落選続き。就職して創作から離れたものの、島田荘司のサイン会をきっかけに創作を再開。2009年『さよならドビュッシー』で「このミステリーがすごい!大賞」を受賞し、作家デビューを果たしました。
作風は爽やかな青春ものや、ダークサスペンスなど幅広いですが、音楽が取り入れられているのが特徴。デビュー作は音楽ミステリで、「御子柴礼司」シリーズにも音楽を感じされるタイトルが付けられています。特にクラシックの名曲が使用されていることが多く、音楽好きにもたまりません。
また、大どんでん返しに定評がある作家でもあります。ミステリ=驚きの文学である、という考えから、様々な仕掛けを用意しているようです。思ってもみなかった事実が結末で明るみに出た時の驚きや感嘆を一度味わうと、ファンになってしまうこと間違いなしです。
さらに中山七里の作品では、それぞれの作品が他作品に影響を及ぼしているというのも特徴。たとえば『連続殺人鬼カエル男』では、『贖罪の奏鳴曲』に繋がる部分があるという仕掛けがなされています。
さらにエピソードだけでなく、キャラクターもそれぞれ影響を及ぼしあっています。「御子柴礼司」シリーズにも登場する刑事、渡瀬と古手川のコンビは、他の中山作品にも登場する名物刑事。御子柴も「御子柴礼司」シリーズ以外にも登場します。
中山七里ワールドでは、新たな作品に触れると意外な再会を体験できるかもしれません。ぜひ「御子柴礼司」シリーズが面白いと思ったら、そのほかの作品もご覧になってみてくださいね。
- 著者
- 中山 七里
- 出版日
- 2011-02-04
殺人事件を犯した弁護士という、衝撃的な設定が目を引く本作。御子柴のキャラクターと背景は強烈ですが、葛藤し過去の自分の罪を悔いて苦悩する姿に人間らしさを感じ、安堵する場面もあります。ミステリとしても上質。御子柴が今後どのような弁護士となっていくのか、ドラマはもちろんのこと、シリーズの続きから目が離せません。