誰だって生きていればお腹が減るもの。それは探偵だって例外ではありません。『美食探偵 明智五郎』は、人気漫画家東村アキコが手掛けた初の探偵漫画。美食を追い求める探偵が、様々な事件や謎の美女と対峙していきます。美味しそうな料理も多数登場しますよ。 この記事では、2020年4月にドラマ化する話題作についてご紹介いたします。原作ならではの魅力をたっぷりご紹介しますよ!
東村アキコといえば、メディア化された作品が多く、特に『東京タラレバ娘』や『海月姫』でご存知の方も多いのではないでしょうか。また、自身の子育ての様子をコミカルに描いたコミックエッセイ『ママはテンパリスト』も人気で、幅広い読者を抱えています。
そんな彼女は、女性たちが抱える理想と現実を赤裸々に描き、痛いところをビシバシ突きまくる作風が魅力です。
しかし、そのなかでも『美食探偵 明智五郎』は、今までの作品とは一線を画しています。まず、主人公が女性ではありません。ウェービーな髪と端正な顔立ち、ループタイが特徴の探偵、明智五郎が主人公。
流麗なたたずまいと美食家という設定もあり、ストーリー全体の雰囲気もどこかハイソ。
愛だ恋だという感情も絡んできますが、本題ではありません。美味しい料理と、どこかで発生する殺人事件、明智に複雑な感情を抱く謎の美女、彼女との駆け引きなどの要素が、何ともいえない世界観をつくり、それに引き込まれていくのです。
この記事で、さらにその魅力を詳しくご紹介していきます!
明智五郎は表参道の一等地で江戸川探偵事務所を営む探偵です。
ある日彼は、浮気調査の依頼を受けることになりました。依頼人である女性は、みそ汁と焼き魚くらいしか食べない夫から様々な料理の匂いがする、と言います。つまり、他の女性と食を楽しみ、浮気しているのではないかと言うのです。明智は大事な自身のランチタイムを返上して張り込みを行い、ある現場を押さえました。
それは、依頼人の夫が若い女性の部屋に入っていく様子でした。
しかし、それは昼間で、さらに1時間ほどで出てきたのです。肉体関係があるかは不明ですが、食事をしているのは確実なようでした。
その調査結果を依頼人に伝え、一仕事終えたと食事を堪能していた明智。しかしテレビのニュースで調査対象だったアパートの近くで通り魔事件が発生し、浮気を疑われていた夫が刺されたと知り……。
このような事件がいくつか収録されている、短編形式の本作。美しい雰囲気ながら、東村アキコらしい笑いも織り込まれているのでかなり読みやすいですよ!
ちなみに第1の事件は苦い結末を迎えます。しかしこの時の依頼人「マグダラのマリア」は、ここで物語から退場することはなく、再び明智と会うために暗躍するようになりますので、注目してみてください。
明智五郎が本作の魅力をほぼ作り出しているといっても過言ではありません。そのミステリアスでちょっと抜けた様子に、不思議と惹きつけられてしまいます。
そもそもなぜこんなにミステリアスで高貴な雰囲気なのでしょうか。
明智は、探偵事務所を営む職業探偵です。しかし難事件を解決することで金銭を得ているわけではありません。しかし、表参道の一等地に事務所を構え、食事はだいたい高級レストラン。財布には千円札どころか1万円札も入っておらず、支払いはカードかツケが主。事務所の内装も高級感にあふれ、本人の所作やテーブルマナーも洗礼されているなど、ただの一般人には見えません。
実は明智、扇屋百貨店の社長令息という正真正銘のおぼっちゃま。美食倶楽部を主宰するほどの美食家である点や、洗礼された立ち居振る舞いが似合うのもうなずけます。とはいえ、食事のこと以外の私生活は謎が多く、そこがまた読者の関心を引くのです。
ちなみに美食家ではあるものの、高級志向というわけではなく、街の人気店のパンや弁当など何でも食べるというところに愛嬌があってよいですね。また、ぼっちゃんらしく傍若無人だったり天然?と思わせるところはありますが、観察眼が鋭く探偵としては優秀で、そのギャップもまた、よいです。
- 著者
- 東村 アキコ
- 出版日
- 2016-02-25
探偵ものには、助手となるワトソン役がつきもの。本作の探偵役が明智なら、ワトソン役を担っているのは小林苺です。
とはいえ、苺は明智の探偵事務所の関係者ではありません。探偵事務所の向かいで、ワゴン車で弁当を販売している料理人です。明智は店の常連ですが、現金を持ち歩いていないため、支払いは主にツケ。若干迷惑がっている節があります。
日々弁当販売に勤しんでいる苺ですが、時には捜査に巻き込まれることも。明智は車が運転できないため、車を出すように言われたるなど、半ば強制的に捜査に協力させられています。
本作の中では比較的明るく、意見のハッキリしている女性で、後ろ暗いところや影のようなものはありません。自分勝手で少し抜けたところのある明智とのやり取りでも、言葉は歯に衣着せず勢いがあり、ツッコミ役として活躍します。
殺人事件を扱うこともあり、人間の暗部にスポットを当てることも多い本作。その中にあって苺が登場するソーンの日常感やコミカルな様子は、読者を安心させてくれます。
東村作品といえば、怒涛の勢いでなされるコミカルな展開がメインでそこに突然やってくるシリアスさが魅力。笑いながら刺されるとでもいうのか、通り魔的な勢いと中毒性があります。しかし本作はそういった勢いは少々控えめ。その代わり、物語の余韻に浸るという楽しみが用意されています。
探偵ものでは事件が発生し、種明かしや犯人の独白などがあり、やるせなさや物悲しさといった、カタルシスに浸るというのが一つの楽しみでもあります。
本作ではほぼ1話完結型で様々な事件が登場し、毎回これまでとは異なる気づきやもの悲しさが描かれます。心のすれ違いや、ちょっとした行き違いで起こる事件。すべてが円満に解決するわけではなく、悲劇的な終わり方の事件も少なくありません。
しかし、だからこそ、読者の心に残るのです。犯人や関係者の心に思いをはせることができるエピソードや演出が、読後感の余韻に繋がっています。
第1の事件の後も、様々な場所で食事をしていく明智。飲食店や家庭の台所、様々なところで事件は起き、その度に人間の暗部が浮き彫りにされていきます。人はなぜ人を殺めるのか。事件が起きてしまったのはだれの責任なのか。ほぼ1話完結の物語の中で、料理にまつわる事件たちが、読者に問いかけてきます。
本作は連作短編形式で、物語の繋がりを担っているのが、マグダラのマリアの存在です。第1の事件の依頼者であり、明智と再び邂逅するために悪に身を染めているという美女。彼女の存在が事件の影に見え隠れしているため、明智は目の前の事件の謎を解決しながら、マリアの影を追っている状態なのです。
マリアがなぜ、ここまで明智に執着するのか。その答えは徐々に明かされます。探偵と悪役の相容れないけれども惹かれあう関係が、作品全体を通しての最大の見所です。
マリアが明智の側に寄ったり、正義感が強い男というわけではない明智が、マリアに引きずられて悪堕ちするのではとハラハラさせられる場面もあり、絶妙なバランスから目が離せません。
ちなみに本作は5巻が2018年の5月に発売されてから、続刊が出ておらず続きが期待されている作品です。しかし5巻時点でマリアと明智の関係性にある程度のメドはついているので、ぜひ原作でその様子をご覧ください!
- 著者
- 東村 アキコ
- 出版日
- 2018-06-25
物語自体が1話完結型なので、ドラマ向きともいえる本作。一番の見所は明智が食する料理ではないでしょうか。1話だけでも2回もレストランでの食事をし、さらに苺の弁当やパンなど様々な物を食べている様子が描かれるほどです。美食探偵という名前のとおり、次々に登場するおいしそうな料理に期待したいところです。
また、涼やかなイケメンながら、言動がオーバーで風変わりな明智を、中村倫也がどう演じるのかも見所のひとつ。特に笑いどころの一つになりそうな、苺とのやり取りは注目ポイントです。
また、原作の雰囲気がドラマでどうなるかもポイント。どこか淡々としており、古式ゆかしい探偵小説の雰囲気を踏襲しているところと、コミカルな部分があるので、それがどう映像に活かされるのでしょうか。
ぜひ原作もドラマもご覧いただき、比べてみてくださいね。
中村倫也のその他の実写化作品が知りたい方は、こちらの記事もおすすめです。
<中村倫也が実写化で出演したおすすめ映画10選、テレビドラマ20選の魅力を語る!>
美食を極めながらも、美女と謎も追う探偵、明智五郎。発生する事件は凄惨な物もあり、特に3巻はスプラッタや血のシーンが苦手な方はご注意ください。作品の中で明暗がはっきりとしたところは作風ですが、より深い闇の部分を覗くことになるでしょう。東村アキコの才能光る異色作、ドラマもあわせてご堪能ください。