高田郁作品おすすめ7選!心に栄養をくれる時代小説

更新:2021.12.17

高田郁は「みをつくし料理帖」シリーズで、困難な中でも夢に向かってひたむきに生きる主人公を書いて多くのファンの心をつかみ、その後もコンスタントに、感動する作品を生み出しています。そんな高田作品をご紹介します。

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小説家の前は漫画原作者!高田郁とは、どんな小説家?

高田郁は、1959年兵庫県宝塚市生まれの小説家。中央大学卒業後、1993年に漫画原作者としてデビューし、2008年に『出世花』で小説家としてデビュー。「みをつくし料理帖」シリーズは大ベストセラーとなり、『銀二貫』もともにドラマ化されました。原作を未読の方は、是非小説の方も楽しんでほしいと思います。

漫画の原作者だった時に山本周五郎の短編を読み返してショックを受けた高田郁は、“小説家になれれば何も望まない”と思ったそうです。知人の勧めもあって、見事に小説家への転身を遂げました。

高田郁はとても研究熱心で、例えば「みをつくし料理帖」シリーズに出てきた献立は、ほとんど自分で料理してみてから書いたそうです。また、彼女の作品は時代ものが多いので、執筆に必要な江戸時代の時代考証などは、いつも自分で図書館等に足を運んで調べるとのことです。

イラストも上手な高田郁は、キャラクターを考える時には、ひとりひとりのイラストをスケッチブックに描いて、細かい設定を決めるのだとか。そんなふうにして生み出された登場人物たちは、みな生き生きとして素敵なキャラクターばかりです。

好きな言葉は「縁」。数々の作品を読めばなるほどな、と思います。高田郁の作品と縁のあった人はみな、感動をもらっているのです。

お縁が自分で選んだ生き方とは?

幼い頃に母がよその男性と駆け落ちし、仇討ちを目論む父と共に行き倒れとなったお艶(えん)。奇跡的に近くのお坊さんに助けられましたが、残念なことに父は亡くなってしまいました。父のことを丁寧に湯灌して弔ってくれた青泉寺の僧たちの姿に何とも言えない感謝の気持ちを覚えたお艶は、その時まだ9歳でした。

父の遺言通り、名前を「縁」と改名したお縁は、青泉寺で住職をはじめ、若い僧たちからも可愛がられて育ちました。気立てがよくてよく働くお縁のことを気に入り、お縁を養女にと望む菓子屋・桜花堂の夫婦とあたたかい交流ができたのですが、後になって驚くような運命のいたずらを知ることになるのです。

著者
高田 郁
出版日
2011-04-15

寺の中だけでなく、寺の外の人々の暮らしにも接したり、不条理な世の中を静かに悲しんだりしながら人生を学んで、お縁は人間として成長していきます。男女や家族を超えた、深い人間愛がじんわりと染み込んでくるような、味わい深い物語です。

高田郁のこの作品は後に『蓮華の契り・出世花』という続編が出ています。続編も見逃せません。

これぞ大坂商人の心意気!

商人の町・大坂(現在は大阪)を舞台に、寒天問屋・井川屋を営む和助と、彼に命を助けられ、奉公する松吉の話。

ある日、店先で羊羹を食べていた和助の目の前で、突然侍どうしの仇討ちが繰り広げられました。仇として討たれた侍のそばには、まだ幼い息子が寄り添っていました。自分の体を盾にして倒れた父をかばう息子を見ていてたまらなくなった和助は、ある方法でその男の子を助けました。

その鶴之輔という息子を店に連れ帰った和助は、番頭の反対も聞かずに鶴之輔に「松吉」という名前を与えて、自分の店で奉公させることにしたのです。

著者
高田 郁
出版日
2010-08-05

初めは厳しかったけれど、年を経るごとに松吉への態度も言葉も柔らかくなっていく番頭の姿や、井川屋のみんなの気持ちがひとつになっていく過程は、読んでいて何度もほろっとさせられます。

理想の寒天を夢みて、いくつもの冬、凍てつく寒さの中を寒天作りに出かけて行く松吉と、送り出す和助や番頭や丁稚仲間。そこには、いつしか家族を超えた絆ができていて、ほんわりと心が温かくなるのです。

主自らが節約に努め、番頭も無駄遣いしないように引き締めてようやく貯めた、天満宮へ寄進する銀二貫でしたが、困っている人のためには惜しみなく与えてしまう和助。和助に仕えて35年の番頭は主に口うるさく注意しながらも、もはや慣れっこになっていました。果たして、この井川屋の人たち、天満宮に寄進することができるのでしょうか?

目指す寒天は、出来上がるのでしょうか?

高田郁が書く感動の大作です。読み終えた時には、ついつい大坂商人の語り口になってしまう人もいるでしょう。

大人気のシリーズ!女料理人の腕が光る!

幼い頃に遭った水害で両親を失い、偶然の出会いから「天満一兆庵」という料理屋で奉公していた澪(みお)。奉公先の主人・嘉兵衛にも女将の芳にも可愛がられ、料理の才を認められ、大坂で料理人の道を歩み始めた矢先のことでした。大坂が大火に襲われ、澪の働く料理屋も被災し、江戸に向かうことになったのです。

さて、江戸では、頼みの嘉兵衛も亡くなり、跡取り息子も行方知れずとなってしまい、女将の芳と澪の2人は、裏店で細々と暮らしていました。ふとしたことで出会った蕎麦屋の種市に見込まれ、種市の店「つる家」で料理人として働くことに。

ライバル店の嫌がらせや慣れた大坂とは違う舌を持った江戸の客たち、女ゆえの差別……。次々と立ちふさがる壁にくじけることなく大好きな料理の道へと邁進していく澪。

芳や種市などまわりの人たちの優しさに助けられながら、ただ人の心を温かくする料理を一心に作ろうとする澪の姿に胸が熱くなります。

著者
高田 郁
出版日
2009-05-15

同じく水害で家族を亡くした幼馴染との深い友情にも感動します。
人は、何千何百の言葉よりも、ひたむきに生きていく姿を見ることで学ぶことができるんだなと気づかされました。

五つ星、三つ星がもらえる名店にならなくとも、今、目の前にいるお客さんを喜ばせたいという気持ちで料理に臨む澪。澪の恋の行方も気になるところです。

高田郁の今作に出てくる料理は、食材を無駄にすることなく、体にも優しいものばかりです。いつも人のことを思っている澪だからこそ、生活のちょっとしたことからヒントを得て新しい献立を次々に思いつくことができるのでしょう。

このシリーズは、全10巻ありますが、読んでいて、高田郁に、何度言いたくなったかわかりません。「もう、泣かせないでーっ!」と。まぶたが腫れてしまうので……。

山桃の樹に守られて

徳島藩主のご典医を務め、戊辰戦争では人道的な働きが認められ、後に北海道の開拓に力を注いだ実在の人物・関 寛斎の妻・あいの一生を描いた高田郁の作品。

九十九里のやせた土地で貧農の家に生まれたあいは、子どもの頃から、綿から糸を紡いだり、機織りをしたりと働きものでした。特に機織りは、同じ村に住む伯母から習い、一生にわたって役立つ技能となりました。18歳の時にあいは、機織りを教えてくれた伯母の養子で医学の勉強をしている寛斎のもとに嫁ぎます。

寛斎の仕事に伴って、実家近くから銚子、徳島、北海道と住まいが変わっていく中で、お金や名声や援助を欲しがらない寛斎の人となりをよく理解したうえで、寛斎の医学の勉強を支援してくれる人や、あいの悲しみを理解して寛斎に助言してくれる人々との素晴らしい出会いがあります。

著者
高田 郁
出版日
2015-02-14

こんな出会いに恵まれたのも、周囲の人が夫婦の人柄に感化されたからだったのでしょう。故郷で患者が来なかった日々、長崎留学した寛斎の留守を守って子育てする日々、あいはいつも機織り機で反物を作って家計を助けたり、家族や世話になった人に着物を作っては重宝されたりしました。

また、長い人生の間には、次々と不運に襲われた時期がありましたが、つらいことがあっても、すぐに発想を転換させ、どのような状況にあっても物事のいい面だけを見るあいに、寛斎は、どれだけ助けられたことでしょう。幼い頃から培われてきた勤勉さと生来持っていたあいの明るさが2人の人生の大きな宝物だったのだと思いました。

さて、常に人の役に立ちたいと考えていた寛斎は、なんと70歳を過ぎてから、北海道の開拓に力を注ぎたいと爆弾発言します。大反対の子どもたちでしたが、既にあいは、寛斎の決意を聞き、「私も連れて行ってください」と告げていたのです。

さて、2人にとって、北海道での暮らしは、どんなものになったのでしょうか?
冒頭のシーンとつながる最後のシーンは、圧倒的な感動を受けます。

読みごたえのある短編集!高田郁初めての現代もの

双葉文庫のリクエストに応え、高田郁が漫画原作をしていた頃の名作を小説化したもの。自分の人生を懸命に生きる人々の姿を列車から見える風景とともに描写した9編の短編が収められています。

『車窓家族』では、とある出来事から、職業も年代も違う電車の乗客たちに生まれる連帯感が面白おかしく書かれています。忙しい毎日の中でも、ほっと一息つける高田郁の作品です。

ストレスのたまる仕事に疲れきった主人公がインコの発する言葉に慰められる『雨を聴く午後』からつながる『あなたへの伝言』では、ひとり暮らしをしながら病気を克服しようと地道に努力を続ける女性の日常が細やかに描かれ、どちらも主人公を応援したくなる話になっています。

著者
高田 郁
出版日
2013-11-14

夫のために毎朝お弁当を作る妻を書いた『お弁当ふたつ』、悩みに押しつぶされそうになっている孫に祖父が教えたことに胸を打たれる『ムシヤシナイ』、庭の花に癒されながら穏やかに余生を送る女性の心の動きが四季の移ろいとともに描かれた『晩夏光』を読むと、読者も家族についてしみじみと思いを馳せることでしょう。

お互いを思いやる兄妹の姿を描いた『ふるさと銀河線』と亡くなった息子が旅したルートをたどる夫婦を描いた『返信』の舞台となっている陸別は、前述した作品『あい』の主人公の夫であった関 寛斎が開拓した地です。そんなことも頭に置きながら読むと感慨深いものがあります。

貧しいながらも充実した学生生活を送った友人3人の再会を描いた『幸福が遠すぎたら』では、震災・病気・倒産の危機、とそれぞれに違った形の苦労を経験しながら年を重ねてきた3人を支えてくれた詩に胸を打たれます。読者もきっと高田郁のこの作品を読めば、明日からまたがんばろう!という思いが湧いてくるに違いありません。

悩んでいる時や寂しい時、1日に1編ずつでも読んでいけば、心があたたかくなる高田郁の短編集です。

 

商売に生きる知恵!

享保の大飢饉の少し前から始まる物語。武庫川のほとりで、学者の娘に生まれた幸(さち)が7歳の頃に七夕の短冊に書いたのは、「知恵」という言葉でした。女に勉強は必要ないと考える母の思いのままによく働いて家を助ける幸。向学心のある幸の一番の理解者は兄でした。

そんな兄は伝染病で早くに亡くなり、父も亡くなった後、9歳にして、家計のために大坂の呉服商に奉公に出た幸の物語です。

幸が働くことになったのは、大坂・天満の呉服商「五鈴屋」。享保の改革でぜいたくが許されない世にあり、人々の財布のひもが固い中、「五鈴屋」は、当主の祖母である富久と番頭の治兵衛の才覚でなんとか保っている状態でした。

著者
髙田郁
出版日
2016-02-12

先輩の女衆(おなごし)であるお竹とお梅から厳しく仕込まれ、懸命に仕事を覚える幸。幸にきらりと光るものを感じた番頭は、丁稚たちが学ぶ商売の基礎を、密かに幸にも教えていきます。

先代から受け継いだ商家を続けていく富久の苦労やそれを支える治兵衛の働き、奉公人たちの生活が四季の移ろいとともに情緒豊かに描かれています。当時の人々の生活の工夫は、現代の私たちにも興味深く読むことができます。

長男の嫁となった菊栄と幸との間に流れる優しい時間にほっとします。

さて、「五鈴屋」の行方はどうなるのでしょうか?シリーズ2巻目では驚きの展開が待っています。

高田郁をまったく知らないという読者におすすめのエッセイ集

本作の内容はタイトルのとおり、高田郁が時代小説を描く作家になるまでの出来事を綴ったものです。学生時代の高田は法曹界を目指し司法試験を受けては落ちていました。結局法曹の世界は諦めることになりますが、その頃入院していた父とのエピソードからは、自分の病気よりも試験に落ち続ける娘を思いやる父の優しさを伺い知ることができます。

時代小説家になる前の高田郁は漫画の原作を書いていました。その時代に訪れた取材先での体験談も描かれており、その中には微笑ましい出来事もありますが哀しい出来事もあります。取材という立場で人から話を聞きだすことの難しさを思わずにはいられません。

著者
髙田 郁
出版日
2014-12-04

高田郁は兵庫県宝塚市の出身で、阪神淡路大震災を体験しています。さらに高田は車に追突されるという交通事故の被害も体験し、その後後遺症に苦しみしばらく不自由な生活を余儀なくされたそうです。それらの困難な時期に色々な人から受けた親切とそれに対する感謝の気持ちも描かれています。

こうした高田の体験が、「刀での切り合いが中心ではない、人情を中心にした時代劇を描きたい」という時代小説作家としての原点なのでしょう。高田郁という作家の人柄を知ることができ、ぜひ他の作品も読みたいと思わせてくれる一冊です。

高田郁のおすすめ作品をご紹介しました。逆境にあってもひたむきに生きる主人公や周囲の人とのつながりを優しく描く高田作品をご堪能下さい。

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