「クレヨン王国」シリーズの魅力を伝えたい。青い鳥文庫の超ロングセラー

更新:2021.11.21

1965年に初版が刊行されて以来、人々に愛され続けている児童文学「クレヨン王国」シリーズ。色鮮やかなファンタジーの世界に迷い込んだ子どもたちの冒険譚ですが、単なる成長物語にとどまらず、人生における大切なことを教えてくれると幅広い層から支持されています。この記事では「クレヨン王国」シリーズのなかでも代表作をピックアップし、あらすじと魅力を紹介していきます。

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「クレヨン王国」シリーズとは

 

「クレヨン王国」シリーズは、童話作家の福永令三が手掛けたファンタジー児童文学です。

シリーズ1作目の『クレヨン王国の十二か月』は、1965年に初版が刊行。1980年に「青い鳥文庫」の創設とともに文庫化されると大人気になり、累計発行部数はなんと500万部を超えるロングベストセラーです。2011年からは「新装版」も刊行されています。

物語の舞台となるのは、架空のクレヨン王国という場所。ゴールデン王とシルバー王妃を中心に、12色のクレヨンの大臣が治めています。総理大臣がカメレオンなのも面白いでしょう。そんなクレヨン王国に、現実世界の子どもたちが迷い込み、さまざまな出来事を経験し成長するストーリーです。

対象年齢は小学校中学年以上。1冊読み切りなので、シリーズのどこからでも読むことができます。では、「クレヨン王国」シリーズのなかでも特に読んでおきたいおすすめの作品を紹介していきます。

 

『クレヨン王国の十二か月』のあらすじと魅力を紹介

 

大晦日の夜。小学2年生のユカが目を覚ますと、枕元でクレヨンたちが会議をしています。どうやら、クレヨン王国のゴールデン王が、家出をしてしまったらしいのです。その理由は、シルバー王妃のもつ12の悪い癖に愛想をつかしてしまったから。

そこでユカは、シルバー王妃と一緒にゴールデン王を探す旅に出ることにしました。12色のクレヨンたちが治める12の町をめぐっていきます。果たして無事にゴールデン王を見つけることはできるのでしょうか。

 

著者
福永 令三
出版日
1980-11-10

 

「クレヨン王国」シリーズの1作目。初めて読む方は、やはり本作がおすすめです。ユカとシルバー王妃の旅を追いながら、基本の世界観を知ることができるでしょう。

12のクレヨンたちが治めている12の町を、12色の洋服を着替えながら12ヶ月をかけて旅します。色彩の表現が豊かで、読んでいるだけでワクワクできるはずです。

また、ひとつの町をめぐるたびに、シルバー王妃が12の悪い癖をひとつずつ克服していくのもポイント。はじめは欠点だらけですが、心はまっすぐで、自分を変えようと努力する姿勢に心を動かされます。

旅が終わると、ユカとシルバー王妃はお別れをしなければなりません。最後は少し切ないですが、2人の成長した姿に感動できる一冊です。

 

『クレヨン王国の花ウサギ』のあらすじと魅力を紹介

 

小学5年生の子どもたちと校長先生が、遠足に出かけたまま行方不明になってしまいました。ちほは、ウサギのロペと一緒に、いなくなった兄を探しに出かけます。

ロペの案内でクレヨン王国に迷い込むと、今回の事件はクレヨン王国の悪魔「アオザメオニ」が引き起こしたものだと判明。アオザメオニは自然破壊をする人間に怒り、ちほの兄たちを動物に変えてしまったというのです。

 

著者
福永 令三 三木 由記子
出版日
1982-10-10

 

「クレヨン王国」シリーズの2作目です。

ちほたちが暮らす町では、海の埋め立てが進められていました。小学校も新設することになり、土地開発がすすみます。しかしこれは、あくまでも人間による人間のための開発です。

本作を読むと、世の中には人間以外にも動物や植物などありとあらゆる生き物がいることがわかるはず。ちほは、クレヨン王国でさまざまな動植物の話を聞き、人間がいかに自分勝手に生きてきたのかを知ることになります。

大切なのは共存することだと学ぶことができる、メッセージ性の強い作品です。

 

『クレヨン王国のパトロール隊長』のあらすじと魅力を紹介

 

担任の先生とそりが合わない小学5年生のノブオ。先生に叱られたある日、ついに耐え切れなくなり、山へ向かって駆け出しました。

そうしていつの間にか辿りついたのは、クレヨン王国です。ここでノブオは、「パトロール隊長」という役割を与えられ、クレヨン王国で起きるもめ事を解決する旅に出ます。

 

著者
福永 令三 三木 由記子
出版日
1984-03-10

 

「クレヨン王国」シリーズの4作目。児童書という枠には収まりきらない内容だと反響を呼んでいます。

ノブオは、実の母親を亡くしています。新しくやってきた継母は宗教にはまっていて、彼の名前を「信雄」から「ノブオ」へ変えてしまいました。さらに、義理の妹はノブオの不注意で事故にあい、失明してしまうのです。

家にも学校にも居場所をなくした彼が、クレヨン王国でさまざまな経験をし、自らの傷を癒しながら克服し、少しだけ強くなってもとの世界に帰る様子は、大人の読者こそ泣けてしまうかもしれません。特に、春に咲いてしまった秋の草であるワレモコウのエピソードなどは、印象深いでしょう。

すべてを理解することはできなくても、本作を読んだ子どもが大きくなった時に、きっと力をくれるであろう一冊です。

 

『クレヨン王国 月のたまご』のあらすじと魅力を紹介

 

中学受験に失敗してしまったまゆみ。三郎という青年と出会い、彼の運転するトラックでクレヨン王国に入ります。

そこで、第三王子のサードやニワトリのアラエッサ、子ブタのストンストンとともに、行方がわからなくなっている「月のたまご」を探す旅へと出かけるのです。

しかし、まゆみの存在を面白く思っていない「月のたまご」の乳母だったというダマーニナ、奇病「青ころり」、クレヨン王国を狙う陰謀など、さまざまな試練が彼らに襲いかかります。

 

著者
福永 令三
出版日
1986-01-10

 

「クレヨン王国」シリーズのなかでも人気の、「月のたまご」シリーズ。本編はPART8まで、その後続編が4作でて完結している長編です。

「月のたまご」を探す冒険と、まゆみと三郎の淡い恋愛の2つを軸にして物語は進んでいきます。テンポのよい展開と繊細な心理描写を楽しめますが、三郎が抱えている秘密があったり、嫉妬や羨望など人間の暗い部分があったりと、ただ楽しいだけではないのがポイント。

またアラエッサとストンストンのユーモアのある会話劇も魅力的です。切なくも納得のラストまで、できれば一気読みしてほしい作品になっています。

 

『クレヨン王国 春の小川』のあらすじと魅力を紹介

 

本作の主人公は、元気な丸顔の少女、和子です。ある日、ベーコンが炙られる香りにつられて、クレヨン王国を訪れました。

しかし、和子が椿の木を蹴飛ばして花を落としてしまったことから、王国の気象プログラムが狂ってしまうのです。さらに、気象が変わることで雪女の末娘が命の危機にさらされることに。責任を感じた和子は、彼女の行方を探す旅に出ます。

 

著者
福永 令三
出版日
1987-03-10

 

「クレヨン王国」シリーズの11作目。約半世紀にわたって発表されたシリーズの、中期代表作だといわれています。

ベーコンのにおいに誘われるというなんともユーモラスな方法でクレヨン王国に迷い込んだ和子。元気でひょうきんな彼女の性格が、本作の1番の魅力でしょう。カサゴ釣りが好きな三日月や、喋る馬など個性的なキャラクター設定も光ります。

小川のせせらぎや、空の青い色、野に咲く花など、自然の描写が色鮮やかに描かれているのもポイント。それらはとても尊いもので、美しい自然を守ることがどれだけ大切なことなのかを、あらためて教えてくれる作品です。

 

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