漫才コンビ「爆笑問題」の太田光といえば、芸人としてだけでなく、文筆家としての評価も高いことで知られています。この記事では、これまでの彼の著作のなかから、特におすすめの6作をご紹介していきます。
1965年生まれ、埼玉県出身の太田光。文学好きの両親が所有していた大量の本に囲まれて、子ども時代を過ごしたそうです。
高校を卒業した後、日本大学の芸術学部演劇学科に進学。在学中に田中裕二と知り合い、1988年に漫才コンビ「爆笑問題」を結成します。
ネタ作りを一手に引き受け、読書量は年間100冊以上、映画や落語、歴史や政治などにも深い関心を抱く太田が本の執筆に行き着くのは自然の流れだったのでしょう。1997年、雑誌「小説新潮」にて短編小説「終末のコメディ」を発表しました。
2010年には小説『マボロシの鳥』を刊行。そのほか、コラムやエッセイ、時事論評などさまざまなジャンルの作品に挑み続けています。
過激でエキセントリックな言動から奇人扱いされることもある太田光ですが、幼少期からの確かな読書体験をもとにした作品は多方面から評価されていて、芸人としてだけでなく、作家としての太田のファンも数多くいます。
自身の青春時代からのプライベートエピソードと、1990年代の懐かしい時事ネタをからめた太田光初のエッセイ集です。
オウム真理教、司馬遼太郎の死、パチンコ、安楽死、芸能人ネタなど、当時世間を賑わせたトピックに斬り込み、読者に新たな視点を提示しています。
- 著者
- 太田 光
- 出版日
1997年に刊行された初めてのエッセイ集です。雑誌「テレビブロス」に連載していたコラムをまとめたもので、初版は爆笑問題名義。その後、太田光のエッセイのみを抜粋して文庫化されました。タイトルは、佐々木味津三の時代小説に登場するキャラクター、旗本退屈男の額にある三日月型の傷「天下御免の向こう傷」をもじったものです。
エッセイの内容は、3年間でひとりも友人ができなかった高校時代の話や、妻の太田光代への愛を感じられる話など、内面に踏み込んだものが多数。相方の田中裕二に関する話はまさに「爆笑」ものになっています。
毒と優しさをはらんだ太田のまなざしを読めば、もっと彼に興味がわいてくるはずです。
2004年から2006年にかけて、雑誌「テレビブロス」に連載されていた文書をまとめたエッセイ集です。
時事問題や戦争、政治、社会について深掘りしていきます。
- 著者
- 太田 光
- 出版日
- 2006-12-15
アメリカのブッシュ政権と、日本の小泉政権に感じる違和感や戸惑いを語っています。イラク戦争、テロに屈しないという言葉への疑念、憲法九条、教育問題など、当時の時事問題を書きあらわしているのですが、一貫しているのは「自分を含む一人ひとりが社会を構成している」という太田光の目線です。
特に日本では、政治に関する話題を公の場で口にするのがはばかられがち。彼がこれほどまでに自分の想いを自分の言葉で発信できるのは、世間で起こっていることを「当事者」として考えているからなのでしょう。
「未熟だった時代の人々にならないために、何を行動し、何を行動できなかったのか自分たちで判断する必要がある」と語る太田。内容は時事問題が多いですが、時を経て読んでも読者の心に刺さる文章を読むことができます。
2010年に刊行された短編集。寓話や童話、SFなどの要素が散りばめられた9つの物語が収録されています。
カート・ヴォネガットの影響を大きく受けたそうで、太田光が抱く痛々しいほどの純粋さを垣間見ることができるでしょう。
- 著者
- 太田 光
- 出版日
- 2010-10-29
表題作の「マボロシの鳥」は、舞台芸人チカブーのいる世界と、勇者タンガタのいる世界を不思議な鳥が行き来するお話。誰かとつながっていることの安心感や、誰かのために自己犠牲も辞さない勇気が描かれている、心温まるストーリーです。影絵作家の藤城清治とコラボレーションし、絵本化もされています。
そのほか、イバラに全身を覆われて生きる姫と謎の老婆の共同生活を描いた「荊の姫」、沖縄で暮らす日米混血の青年が、とある行動によって皮肉にも運命の扉を開けてしまう「タイムカプセル」、クラスメイトから壮絶ないじめを受ける少年を描いた「ネズミ」など。
重たいテーマの物語もありますが、太田の語り口は優しく、作品全体に暗い雰囲気はありません。人生や世界の在り方を考えさせられる、哲学をも感じる一冊です。
太田光が敬愛し「日本のような方」と礼賛する向田邦子の魅力を語り尽くした作品。まるで初恋の相手へのラブレターのような熱が込められています。
「自己表現とは、自分を表すことではなくて、自分を消すことだ。(中略)向田邦子は、少女の頃から、それを知っていたのだと思う。私のようなものにとって、本当に恐ろしい表現者とは、こういう人だ」(『向田邦子の陽射し』より引用)
- 著者
- 太田 光
- 出版日
- 2014-02-07
向田邦子の没後30年にあたる2011年に刊行されました。「自分を消す表現者」である向田の凄さを、『あ・うん』『かわうそ』など具体的な著作を挙げて紹介しています。
太田光が向田邦子に本当に惚れていて、作品を理解しようと誠実に向きあい、読みこんできたことがわかるのが本書の最大の魅力でしょう。太田が選んだ向田の小説、エッセイ、脚本もベスト10形式で収録。ファンならではのおもわず唸りたくなる絶妙なチョイスもたまりません。
太田の強い向田愛を読めば、きっと彼女の作品を手にとってみたくなるはず。入門書としてもおすすめです。
時は23世紀。天馬新一博士が、「ヴェガ」という人間の願いをかなえるマシンを開発しました。試しに、孫のワタルの願いごと「空飛ぶクジラに乗りたい」を命じると、望みどおり巨大なクジラが目の前に現れます。
クジラに乗って宇宙を旅するワタル。動物と会話ができるマナブという少年と出会い、「財宝」を求めます。
- 著者
- 太田 光
- 出版日
- 2017-09-28
2012年に刊行された太田光の作品。場所も時代も次元も異なる短い物語が並んでいるようですが、読み進めるうちに繋がりが見えてきて長編小説となる構成です。
旅に出たワタルは、時空を超えたパラレルワールドの海賊となり、「文明のはじまり」を獲得していきます。ワタルの出生や天馬新一博士の運命を描くことで、「文明の行きつく先」を考えさせてくれるのです。
ファンタジックに童話を織り交ぜたような少年の夢の世界は、現代社会が内包する恐ろしさを表しているのでしょうか。そこに込められているのは、皮肉なのか、希望なのか……。太田光の描きたかった世界はどんなものなのか、体感してみてください。
爆笑問題結成30周年を記念して、2018年に刊行された作品。
テレビでは言いたくても言えなかったことが、語り下ろしで綴られています。
- 著者
- 太田 光
- 出版日
- 2018-04-20
本書で語られるのは、個性や生きづらさなどの「人間関係」について、笑いや才能など「仕事」について、そして大衆やテロなど「世間」について。
太田光の見解に、すべて同意できる人は少ないかもしれません。「こんな考え方もあるのだ」と納得したり、「いや違う」と自分の意見を振り返るきっかけになるでしょう。
そしてどこまでもまっすぐ、ピュアに世間と向き合う太田光を見ると、お互いの意見を完全に理解しあうことはできなくても、想像をしあうことが大切なんだとわかるはずです。