山本一力のおすすめ小説5選!江戸人情に、触れやしょう。

更新:2021.12.14

江戸深川の庶民の人情噺を書かせたらトップクラスの山本一力。家族の絆や友情を描き、さわやかな読後感の作品が多いのです。そんな山本一力の作品のおすすめを5作ご紹介します。

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借金苦から這い上がり、直木賞作家となった山本一力とは?

山本一力は日本の小説家です。1948年、高知県高知市で生まれ、東京都立世田谷工業高等学校電子科を卒業。

高知市の大地主であった実家が没落し、14歳で上京。十数回の転職の後、1997年に『蒼龍』でオール讀物新人賞を受賞してデビューしました。

バブル時代に借金を抱えたらしく、その返済のために小説を書き始めたのだそうです。

自転車愛好家。

借金から抜け出すため、若夫婦は夢を抱く『蒼龍』

途方もない大借金を抱えた大工の若夫婦が、貧しい暮らしから這い出すために茶碗の新柄の公募に挑み……という山本一力の原点を描いた表題作「蒼龍」のほかに、「のぼりうなぎ」「節分かれ」、武家を扱った「菜の花かんざし」「長い串」と全5本が収録された短編集です。

著者
山本 一力
出版日


どれももう少し長いお話にできたのではないかな、もったいないなと思ってしまいます。読後には、前向きに生きる気持ちを抱けるような元気の出る作品ばかりで、ほっとするに違いありません。

深川の人情、大店の苦労、武家社会の理不尽などをモチーフに、親子の情、友人同士、お客さんへの思いなどを描いており、時代小説ながら現代にも通じる部分が多々あります。

本作は山本には珍しく一人称の作品ですが、すぐにその魅力に取り込まれることでしょう。ぜひ手にとってみてくださいね。

山本一力の直木賞受賞作『あかね空』

ある夏の暑い日。江戸深川の長屋に、上方から豆腐職人の大男・永吉がやってきます。京都風の上品な豆腐は、江戸の固い木綿豆腐に慣れた人びとには好まれず、戸惑い、悩むばかりの永吉。そんな彼を支えて助けるのは、ちゃきちゃきの江戸娘の恋女房・おふみでした。

著者
山本 一力
出版日


第一部は夫婦が試行錯誤しながら豆腐作りをしていく姿を、第二部ではそれが彼らの子どもたちの視点から描かれます。

テンポがよく、深川の料理屋の女将、僧侶、同業者、長屋の住人たち、親分、とび職、役人など登場人物も魅力的です。江戸・深川の人情が丁寧に表現されていて、時代劇を観ている気分になりました。

永吉の生きざまや家族のつながり、人びとが互いを思い合う優しさにいやされる作品です。

山本一力が送る、現代人にも響くメッセージ『大川わたり』

銀次は27歳になったばかりですが、ひとつきに2両も稼ぐほどの腕のいい大工でした。

彼は失意の中で博打にはまり、半年で20両にもおよぶ借金を作ります。借金返済で持ち金はすべて取り上げられ、仲間を賭場に引き入れるように強要されるようになります。やがて、賭場に引き込んだ鏝屋の一家が夜逃げをし、銀次は腹を決め……。

著者
山本 一力
出版日


あとがきによると、山本一力が生まれてはじめて最後まで書き通した処女作をあらゆる部分で書き直しをして、時代考証の誤りもできるだけ訂正した作品なのだそうです。

プロットが巧みなのか、冒頭から引きこまれます。 銀次は挫折しても、周りの仲間たちの助けで立ち直って必死に生きていこうとします。読者たちには人を信じ、困難に逃げずに立ち向かうことがいかに大切かを教えてくれるのです。

現代社会に疲れているひとにこそ読んでほしい1冊です。

凛として生きる女将を描く『梅咲きぬ』

江戸中期の深川の料亭・江戸屋が舞台です。この店の女将は、代々「秀弥」という名前を襲名しており、現在は三代目。四代目を継ぐ一人娘の玉枝が主役となるお話です。

著者
山本 一力
出版日
2007-09-04


物語は、玉枝が6歳のときからはじまります。老舗料亭の女将になるべく、周囲に厳しく優しく温かく見守られ育っていきます。彼女は思いやりと気配り、礼儀、物事や人間の質を見抜いていく力などを養いつつ、15歳で若女将となるのです。

江戸深川の人情を描く小説であり、子育て小説でもあるように思えました。節の最後に「このことを、玉枝は九歳の秋にわきまえた」「玉枝はこの日まで思いもしなかったことを胸に刻みつけた」というように、玉枝の成長の様子が記録されているせいでしょうか。

若女将となっていく過程で、ある藩の武士と恋に落ちますが、身分違いですから結ばれることもなく、それでも思いを寄せ合い、お互い結婚話に見向きもしません。結局は別れざるを得ないのですが、それさえもずば抜けた女将としての器量の象徴のように思えました。

凛と前を向いて生きていく玉枝をぜひ見守ってほしいと思います。

山本一力のデビュー作!『損料屋喜八郎始末控え』

喜八郎は、上司の不始末の身代わりとなって同心(下級役人)の職を辞し、庶民相手に鍋釜や小銭を貸す、少し裏事情のある損料屋となります。支給米を担保にして、金繰りに困った旗本や御家人たちに金を融資する札差が盛んであった時期に、喜八郎は米屋の身代わりとなったり、元上司の北町与力・秋山の懐刀となったりして、巨利を貪る相手に渡り合っていきます。

著者
山本 一力
出版日


喜八郎単身での活躍ではなく、彼の手足となる存在がいるという構成や、喜八郎と料亭の女将とのロマンスなどが楽しめる作品です。シリーズになっていて3冊刊行されていますので、設定の妙をぜひ楽しんでもらいたいなと思います。

どんな時代でも、人と人の情を描く作品とは共感を覚えるものです。時代について詳しい知識がなくても楽しめますので、山本一力作品をぜひ手にとってみてくださいね。

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