文芸

日本のサイバーパンク小説おすすめ5選!言葉の意味や由来も解説!

更新:2020.11.29 作成:2020.3.30

SF小説の一ジャンルである「サイバーパンク」。生物と機械の接続、と考えると非現実的な気がしますが、実は登場人物の感情を丁寧に描いた作品が多いのが特徴です。この記事では、日本のサイバーパンク小説のなかから、読んでおきたいおすすめの作品を紹介していきます。

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サイバーパンクとは。意味や由来など概要を解説

サイバーパンクという言葉は、1980年代にSFのサブジャンルのひとつとして成立しました。

もともとは、アメリカの作家ブルース・ベスキが発表した短編小説のタイトルとして登場。その後SF雑誌の編集者ガードナー・ドゾワによって作風を示す言葉として用いられ、やがてSF界における思想や運動などを表すようになりました。

おおまかな定義は、人体の一部または全部を機械に置き換えたり、脳や精神をコンピューターと接続したりして、人間が本来持っている機能や意識を生物工学的に拡張する「サイバー」の概念が登場する作品であること。

さらに、そのような近未来の世界で、AIなど新たな権力に支配されても生きざまを貫こうとする「パンク」たちが、荒廃した世界に立ち向かうこと。

コンピューターに支配された、暴力的で退廃した世界を描いていますが、決して非現実的ではなく、人間の心理描写に重きを置いた現実性のあるストーリー展開が特徴です。

日本サイバーパンク小説の金字塔といわれるおすすめ作品『マルドゥック・スクランブル』

物語の舞台は、近未来の工業都市マルドゥック市。裏社会を取り仕切る賭博師シェルの専属娼婦となった15歳のバロットは、とある陰謀によって乗っていた車ごと焼かれてしまいます。瀕死の重傷を負いますが、シェルの犯罪を追っていた捜査官のイースターと、人語を解するネズミ型万能兵器ウフコックに助けられました。

生命を維持するため、マルドゥック市の緊急法令「スクランブル-09」が適用され、高度な電子交渉能力を得た状態で蘇生。身体能力も常人よりはるかに優れたものになり、シェルを追いかけてカジノに乗り込んでいきます。

著者
冲方 丁
出版日
2010-10-08

2003年に刊行された冲方丁の小説。「日本SF大賞」を受賞しました。

壮絶な虐待を受けてきた少女が、特殊能力を得たことで、真の強さや他者を愛することを学んでいく日本のサイバーパンク小説の金字塔ともいえる作品です。

バロットは生き抜くために戦うなかで、時には加害者側になってしまうこともあり、自分の行動に関する責任や、力をもつことの意味などを考えていきます。さらに彼女を守るため全力を尽くすネズミ型の兵器ウフコックは、戦いを好まないにもかかわらず、自身が武器であることから戦うことでしか己の価値を見出すことができません。

人間や武器の存在意義について考えさせられる作品。細かく練られた設定と、迫力あるアクションシーンも魅力的でしょう。

日本のサイバーパンク小説の傑作『ハイブリッド・チャイルド』

アディアプトロン機械帝国と、長期間戦い続けている人間。劣勢に立たされていましたが、戦いに終止符を打つため、特殊金属ユニットの骨にあらゆる生命体の細胞をサンプルとして取り込み、姿や性能を変えることのできる最終兵器を開発しました。

いわば生物と機械が融合した人造兵器であるそれは、「ハイブリッド・チャイルド」と呼ばれます。

ところがそのうちの一体が、「生きよ」という声に導かれて意志を持ち、軍から脱走。さまざまな細胞を取り込み変化しながら旅を続け、数奇な運命を辿ります。

著者
大原 まり子
出版日

1990年に刊行された大原まり子の代表作。「星雲賞」の日本長編部門を受賞しています。

「ハイブリッド・チャイルド」は、単なる生体メカニックではありません。サンプリングされた細胞の記憶から徐々に自我に目覚めて、人間以上に人間らしく悩み、生きるのです。

機械と人間の細胞を融合した宇宙戦闘用生体メカニックというサイバー要素の強い主人公が求めるものは、「愛」。生命の美しさを感じられる、サイバーパンク小説の傑作といってよいでしょう。

まるで文字で映像をみるような、端正で美しい文章にも注目してみてください。

破壊と再生を描いたベストセラー小説『コインロッカー・ベイビーズ』

新生児の時にコインロッカーに遺棄され、奇跡的に生き残った「キク」と「ハシ」。孤児院で育てられた後、九州の離島に住む夫婦に2人そろって引き取られました。

当初は自身のなかに沸き起こる暴力性を抑えられずにいましたが、心臓の音を聞く治療を受け、徐々に社会に適応し成長していきます。

やがてハシは、実の母親を探すために東京へと旅立ちます。一方のキクもハシを追って上京し、破壊的な性格の女性アネモネと出会うのです。そして、小笠原の深海に眠る生物兵器「ダチュラ」を手に入れて街を破壊しようと計画し……。

著者
村上 龍
出版日
1984-01-09

1980年に刊行された村上龍の作品。「野間文芸新人賞」を受賞しました。若者に大きな刺激を与え、ラジオドラマ化や舞台化もされています。

1970年代に多発したコインロッカー幼児置き去り事件をモチーフにしていて、もしもコインロッカーを母体とする子どもが生きていくとしたら、何を考え、どんな生き方をしていくのか、作者の凡人離れした想像力が作品に熱量を与えています。

キクは、細菌化学兵器「ダチュラ」を使ってすべてを破壊することで、再生を求めていました。しかし最終的に彼らを救うのは、母親の胎内できいた「心臓の音」。破壊を描いているようで、生きることを力強く追い求めるサイバーパンク小説です。

サイボーグ猫が活躍するサイバーパンクノワール小説『ペロー・ザ・キャット全仕事』

物語の舞台は、稀代の犯罪者パパ・フラノが支配する未来都市「パレ・フラノ」。そこに住む主人公のペローは、他者との関わりを避け、精神のみの存在になりたいと望んでいました。

ある日ペローは、サイボーグの動物に人間の意識を転移させるシステムを偶然手に入れます。それからというもの、改造した猫に乗り移り、覗きを楽しみ、恐喝をくり返す生活をするようになりました。

しかし彼の存在を知ったギャングに脅されて、パパ・フラノのスパイにさせられ、陰謀の渦へと巻きこまれていくのです。

著者
吉川 良太郎
出版日

2001年に刊行された吉川良太郎の作品。当時の吉川はフランス文学を専攻する現役大学院生で、24歳の若さで「日本SF新人賞」を受賞しました。

人間の戦闘能力を強化するため、全身改造が当たり前になった近未来のフランス。自由を求めた主人公は、猫にジャックする能力を得たために、犯罪組織に取り込まれていきます。危険なノワールの香りが漂うサイバーパンク小説です。

物語は主人公の回想録として語られますが、いかなる場面でもスマートで穏やかな文体なのが特徴。読みやすいため、SF小説初心者の方にもおすすめです。

インターネット前夜に描かれたおすすめサイバーパンク小説『ヴィーナス・シティ』

国際情報調査会社に勤める主人公の咲子は、コンピューター・ネットワーク上に構築された仮想都市「ヴァーチャル・シティ」で、精悍な男性に転換し、夜な夜なバーにくり出していました。

ある夜、シティ内で暴漢に襲われる少女、ジュンコを助けます。ジュンコは現実世界では男性で、謎の人物に脅迫されてヴィーナス・シティに入れられたと言うのですが……。

著者
柾 悟郎
出版日

1992年に発表された柾悟郎の作品。「日本SF大賞」と「星雲賞」の日本長編部門を受賞しています。

本作の舞台は、21世紀初頭。日本は世界経済を支配する国家となり、日本の家電製品や情報ネットワークが世界を席巻。日本企業が海外の大企業を買収しています。

テクノロジーも進歩して仮想が現実を凌駕していきますが、そこではやはりわずかな違和感や乖離が発生。仮想都市でで起きた事件が、世界を巻き込む国際情報犯罪に発展していく過程が見どころでしょう。しかも本作が、インターネットが一般家庭に普及する前に描かれたというのも興味深いところです。