1980年代に流行した「サイバーパンクSF小説」は、電脳社会に抑圧されながらも人間らしさを追い求める「パンク」なストーリーが特徴。そのクールな世界観が人気を集めています。この記事では、海外の名作といわれる小説をご紹介。気になったものからぜひ読んでみてください。
かつて伝説のハッカーの弟子だったケイス。雇い主を裏切った制裁として脳神経を焼かれ、電脳空間に入り込む能力を失いました。電脳都市チバ・シティで、ドラッグ浸りの日々を送っています。
そんな彼のもとに、ある日ストリート・サムライのモリイと名乗る女が現れ、謎の男アーミテジと引き合わせます。
失った能力を再生させる代償としてアーミテジから危険な仕事を引き受けたケイスは、モリイとともに、陰謀とテクノロジーと暴力が支配する電脳世界へと舞い戻っていくのです。
- 著者
- 出版日
サイバーパンクSF小説の先人ウィリアム・ギブスンのデビュー作。「ネビュラ賞」「フィリップ・K・ディック賞」「ヒューゴー賞」を受賞し、サイバーパンクの代名詞としても知られています。1984年にカナダで、1986年に日本で刊行されました。
物語の舞台は、サイバネティクス技術と超巨大電脳ネットワークが地球を覆いつくし、「ザイバツ」と呼ばれる巨大企業と「ヤクザ」が経済を支配している近未来の日本。
驚くべきは、作者が考え出した「精神ごと電脳空間にダイブする」という概念が、インターネットすら普及していない時代に生み出されたということでしょう。クールで刺激的な世界観が、SF界を一変させました。
サイバーパンクというニュージャンルを作ったといっても過言ではない本作、ぜひお手にとってみてください。
第三次大戦後の地球では、放射能に汚染されて自然が壊滅的な被害を受けていました。人々の間では、生きた動物を持っていることがステータスになっています。地球以外の星へ移住する計画も進められ、それらの作業はアンドロイドが担っていました。
しかしある時、火星から8人のアンドロイドが逃亡し、地球に逃げ込む事件が発生。サン・フランシスコ警察のリック・デッカードは、生きた動物を手に入れたいという欲から、多額の懸賞金を狙って彼らを処理する仕事を引き受けますが……。
- 著者
- フィリップ・K・ディック
- 出版日
- 1977-03-01
1968年に刊行されたフィリップ・K・ディックの作品。映画「ブレードランナー」の原作としても知られています。
逃亡したアンドロイドは、発見されれば即座に廃棄されてしまうのですが、感情や記憶を与えられた彼らのなかには、自身が機械であることを知らずに生きている者もいるのがポイント。主人公のリックは、他者への共感度を測定できる「感情移入度測定法」を用いてアンドロイドを判別するのですが、あまりに人間らしいアンドロイドと出会い、しだいに区別することができなくなっていくのです。
人間とアンドロイドを描いたサイバーパンクSF小説のなかでも特に長く愛される本作は、「感情をもった人造人間と生物の違いはどこにあるのか」という哲学的な問いを読者に投げかける、名作といっていいでしょう。
第二次世界大戦末期のロンドンで、アメリカ軍中尉スロースロップは、戦時下にもかかわらず行く先々で女性をナンパし、関係をもっていました。彼は律儀にも、自身のナンパ地図を作成していたのですが、その地図はロケットの落下地点と謎の一致を示すのです。
スロースロップには予知能力があるのか、それとも彼にロケットが呼ばれるのか……その秘密を探るべく、ある組織が彼の監視を始めます。そしてスロースロップ自身もまた、謎の解明を求めて連合軍の占拠地をさまよい……。
- 著者
- トマス ピンチョン
- 出版日
- 2014-09-30
1973年に刊行されたトマス・ピンチョンの作品。作者は公の場に姿を現さず、経歴も非公開の覆面作家です。工学や化学、心理学、神話、宗教、セックス、ドラッグ、はたまた女装やロリータ、超能力まで……ありとあらゆる知識が織り込まれた長大作になっています。
脈絡のないエピソードが挿入されたり、笑えるエピソードが散りばめられたりして混乱を誘いますが、そのなかに見え隠れする本筋がポイント。戦争によって利を得る巨大な権力が、弱くて小さな個人を飲み込んでいく悲劇が描かれているのです。
刊行当初はまだ「トリップ」という表現しか存在しなかった異世界へのプラグ・インや、時空を超えた父娘の交情が登場するため、サイバーパンクSF小説の「元祖」とも呼ばれる破天荒な作品です。
脳をスキャンすることで、記憶や人格をコンピューター内に再現することが可能になった21世紀なかば。一部の裕福な者が財力を使い、コンピューターが止まらないかぎり死なない「コピー」となって世界を支配していました。
ある日、そんなコピーたちの前に謎の男が現われます。彼が言うには、たとえ宇宙が終わろうと永遠に存在しつづけるコンピューターを手に入れる方法があるとのこと。果たして富豪たちは、真の不死を手に入れることはできるのでしょうか。
- 著者
- グレッグ イーガン
- 出版日
1994年に刊行されたグレッグ・イーガンの作品。作者の前職はプログラマーで、その豊富な知識が存分に活かされています。
仮想空間で肉体のない人間が生きていけるようになる過程と、その後の世界の在り方を描いていて、時間の意味や、「創造主」に対しユニークな角度から考察を加えているのが魅力でしょう。
電脳世界を描いたサイバーパンクSF小説でありながら、人間の生き方を問うハードSF作品です。
アラブの犯罪都市ブーダイーンで探偵をしているマリードは、とあるロシア人の男から行方不明の息子を探してくれと依頼を受けます。しかしその交渉の席で、男が何者かに射殺されてしまうのです。
その日を境に、マリードの周囲で連続殺人事件が発生。暗黒街の権力者に目を付けられて、事件の調査をすることになるマリードですが、事態はどんどん大きくなっていき……。
- 著者
- ["ジョージ・アレック・エフィンジャー", "浅倉久志"]
- 出版日
1988年に刊行されたジョージ・アレック・エフィンジャーの作品。悪態交じりの一人称で語られる語り口と、どこかいかがわしい登場人物たちが魅力のサイバーパンク小説となっています。
物語の舞台は、世界をリードする近未来のイスラム世界。ブーダイーンでは他国が禁じている電子的拡張機能が合法化されていて、頭のソケットにモジュールを差し込んで人格を変えたり、ソフトを差し込んで知識を入手したりできます。
マリードはドラッグ中毒の冴えない探偵でしたが、生命を脅かされることになり、ずっと拒否していた電脳手術を受け入れることにしました。そうして事件の真相を追っていくと、意外な事実が明らかになってくるのです。
わかりやすい電脳社会が描かれているので、初めてのサイバーパンクSF小説にもおすすめ。ミステリーとしても楽しめます。
月の周りをまわる環月軌道コロニーでは、生物学を駆使して新たな種への進化を目指す「工作者」と、人体を機械化することで宇宙の生活に適応し延命をはかる「機械主義者」という2つの勢力が争っています。
「工作者」として活動していたリンジーは、「機械主義者」の支配に立ち向かおうとクーデターを企てるものの失敗。コロニーから追放されて しまいました。
精神と肉体を制御する特殊な能力を身に着けているリンジーは、広大な太陽系に踏み出して、それぞれのコロニーで独自の文化を築いている多様な人類に出会います。
- 著者
- ["ブルース・スターリング", "小川 隆"]
- 出版日
1985年に刊行されたブルース・スターリングの作品。作者はウィリアム・ギブスンとともにサイバーパンク運動の中心的役割を果たした人物で、本作も『ニューロマンサー』と並ぶ、サイバーパンクSF小説の傑作といわれています。
人類が月の周りに数々のスペースコロニーを建設し、宇宙で生活している世界。3部構成になっていて、コロニーを追われた後のリンジーが、異なる環境のもと、さまざまな立場で生き抜く生涯を太陽系の進化とともに描いています。
機械によって能力を引き上げるか、生物学によって能力を引き上げるか、立場は異なるものの、化学の発展によって多様化していく人類。その先には一体どんな未来が待っているのでしょうか。