こぶしファクトリーの広瀬彩海です。 3月30日、解散日となりました。 それに伴い、私の連載も今回が最終回となりました。 ホンシェルジュ読者の皆様、約4年半前から変わらず拙い書評でしたが、ご愛読頂きありがとうございました。 またいつか、ホンシェルジュで連載出来る日が来るよう、また1から努力を積んでまいります。 今後とも広瀬彩海をよろしくお願いします。 さて、今回は最終回ということで、私の読書人生最愛ともいえる3冊をご紹介します。 なのでどれもご紹介したことのある作品ですが、数年前に紹介したきりということで、あらためて集大成として書かせて頂きたく思います。 それでは、最後までぜひご覧ください。
- 著者
- 真梨幸子
- 出版日
- 2011-05-07
真梨幸子さんは、今回紹介する作家さんのなかでも、
「背筋の凍るような怖さ」を孕んだ物語を書かれる印象があります。
伏線を回収している途中のゾワゾワとする感覚や、全ての伏線を回収したときにのゾクッと夜が怖くなるような感覚は、イヤミス好きにはたまりません。
物語は文字通り殺人鬼フジコの話なのですが、
殺人鬼であるフジコだけではなく、登場人物皆あまり印象が良くないのです。
フジコがここまでにどんな人生を歩んできたかも含めて非常に後味の悪い小説です。
フジコのような世に言う“悪人”は産まれた頃から悪人だったのか、歩んできた道がそうさせたのか、そんなことを考えさせられる物語です。
家族というのもひとつのキーワードになっていて、家族の愛や絆も大きなポイントになります。
こうして小説として物語が展開されていると、現実味を帯びないまま自分の心に刻まれていきますが、ミステリーというのは基本的に特に非現実的なことは何も書いていないのです。
自分で勝手にありえないと決め付けて、私には無縁だと思い込んでいるのです。
将来の夢が悪い人になること、なんて子供はきっといないでしょう。
人は誰も完璧ではない、この言葉の裏を返せば、どんな極悪人だっていいところのひとつやふたつきっとあるのです。
人間は人の一面をその人の全てだと思ってしまう傾向を持っているように思います。
殺人鬼フジコの衝動を読んでいると、その人の真実はどこに隠されているのか、そんなことを考えさせられます。
- 著者
- 沼田 まほかる
- 出版日
- 2014-01-09
沼田まほかるさんの作品からは、「生あたたかい沼に使っているかのような怖さ」を感じます。
ひとりの男性が、父の書斎で『ユリゴコロ』という4冊のノートを見つけ、そこにはユリゴコロを探し求めて、殺人を犯したという旨の告白が記されていました。
これは誰が書いたものなのか、どうして自分の家にあるのか、父が持っているのか、果たして『ユリゴコロ』とは何なのか、それを探っていく物語です。
過去の生々しい告白文と現在のリアルタイムな現実が交互に押し寄せてくる恐怖が虜になる面白さです。
殺人なんて言うものはあってはならないものであることは間違いありませんが、殺人を犯してしまう動機のパターンとしてはいくつかあります。
本人への恨みを殺人という形でぶつけてしまうこと、やり場のない怒りを関係のない人にぶつけてしまうこと、その他にもありますが、ごく稀に、衝動ということもあります。
ホラー小説よりも、ミステリー小説を読んだ日の帰り道の方が怖く感じるのは、何よりも怖いのが人間だと分かっているからなのだと思います。
現実世界で起こりうることを文字に起こされると、作り話だと割り切っていても、不安になることは少なくありません。
人間の感情は理性である程度抑えられますが、衝動というものは簡単に制御できるものではありません。
人間の一番大きなエネルギーは衝動なのかもしれない。
と初めてこの小説を読んだとき、感じました。
その物語で何を感じるかも人それぞれ。ぜひ考えながら、感じながら読んでみてください。
- 著者
- 湊かなえ
- 出版日
- 2012-06-06
私がこの世の中で最も好きな小説です。
再三、湊かなえさんが大好きだとホンシェルジュでもお伝えしましたが、そのなかでも贖罪は随一の輝きを放つ小説です。
前に紹介したことがあるので、そちらも合わせて読んで頂きたいのですが、この小説の一番の素晴らしい点は、当事者全員目線で物語が進んでいくことです。嫌な時間を共有した女性達の、罪を贖う姿とそれまでの経緯、動機や事件の真相をそれぞれの視点で描いているのです。
日常的に、喧嘩や言い合いがあった時は、一方の自分に偏った目線での話で済ませてはいけないと強く感じていますが、ミステリーでは一方の目線に集中させ、もう一方の真相が隠れている部分を霞ませる、というギミックがしばしば使われます。
そんな中で、全目線から少しずつ物事を紐解いていくのは、一歩間違えれば途中で何となく真相がわかる、という事態を招きかねないのです。
そんな大胆かつ繊細なストーリー展開に心奪われ、最後はあっと驚かされます。
そしてこの物語の一番の要素は被害者だと思っていた人間がそうではなかったり、そうでなくなってしまったりすること。
そしてそこに悪意がないことです。
歯車が噛み合わないことの虚しさを感じます。
悪意がなくても、してしまったことは事実として残ります。
自分も悪意なく、背負わなくていいひとに十字架を背負わせてしまったりしてしまわないかと考えます。
ホンシェルジュ連載を始めた4年半前から変わらず私の中で一番の小説です。
いつかこの小説を超えるものに出会えるかもしれませんし、一生自分の中で一番なのかもしれません。
私と読書は切っても切り離せないもので、これからも素敵な作品を探して本を読み、自分をさらに深めていきます。
私の記事を読んでくださった皆さんがもっと素敵な作品に出会い豊かな生活を送れることを心から願っております。
あらためまして4年半、本当にありがとうございました。
本とアイドル
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