大正時代に活躍した文豪と、代表作やおすすめ小説を紹介!近代文学を代表する作家たち

更新:2021.11.22

数多くの文豪が活躍した大正時代。国語の教科書に取りあげられているものも多く、現代でも高い評価をされている作品ばかりです。この記事では、大正時代に活躍した文豪と、彼らの代表作を紹介していきます。

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大正時代の文豪と代表作を紹介!

 

1912年から1926年という、日本史上もっとも短い区分となった大正時代。しかし「大正デモクラシー」という言葉があるように、政治、社会、文化とあらゆる面で変革が起こった時代でもあります。

文学界も、作家たちが複数の派閥に分かれてそれぞれ雑誌を発行するなど、非常に賑やかでした。大衆は雑誌や新聞などの媒体で文字に触れ、西洋の文化を取り入れた思想を楽しみました。また、数々の名作が生み出されるなかで、森鴎外や夏目漱石といった指導者も現れ、弟子たちに影響を与えています。

主な派閥としては、志賀直哉や武者小路実篤らの「白樺派」、谷崎潤一郎や芥川龍之介の「新思潮派」など。これによって、読者も自分の好みにあった作家や作品を見つけやすくなったのです。

また「大正ロマン」という言葉もあるとおり、世の中は近代化が進み、新時代への心躍るような理想を掲げる者もいれば、不安定な時代に退廃的な思想を語る者もいました。それまでは禁欲的なまでに抑圧されていた色恋に対して、解放されたように自由恋愛が流行したのも特徴です。

大正時代を牽引した文豪、志賀直哉の『城の崎にて』

 

短編小説『城の崎にて』は、志賀直哉の小説。1917年に発表されました。

志賀直哉は武者小路実篤らとともに「白樺」という雑誌を創刊。そのなかで本作を含めた数々の短編を発表しました。白樺派を代表する小説家のひとりとして、「小説の神様」と呼ばれた人物です。
 

文章の特徴としては、対象を正確に表す無駄のなさが挙げられ、近代文学では散文の典型として高く評価されています。 作中には本人の体験がいかされていて、本作の主人公と同様に、彼自身も山手線にはねられたことがあるそう。生き生きとした表現で、現実の出来事を丁寧に描いています。

著者
志賀 直哉
出版日

 

物語は、主人公である「自分」が山手線の電車にはねられる場面から始まります。養生するために、兵庫県の温泉を訪れた彼は、1匹の蜂の死骸を見つけたことで複雑な感情を抱くようになりました。生き物に対しての哀れみや寂しさとともに、生と死に対して深く考え込むようになっていくのです。

最大の見どころは、主人公が儚い命と自分を重ね合わせる描写です。ドラマチックな展開があるわけではなく、ありふれた現実を、精緻で美しい文章で表現しており、そこから広がる思想に深く考えさせられるでしょう。

現実そのものを描いた先に、主人公の生と死に対する思想が際立つ奥深い作品です。

有島武郎が強く生きる女性を描いた『或る女』

 

『或る女』は、有島武郎が1911年から1913年にかけて「白樺」で発表した長編小説です。

有島武郎は、学習院の中等科を卒業した後、農学者を目指して札幌農学校に進学。その後アメリカに渡り、ハーバード大学の大学院で歴史学や経済学を学びましたが、1年足らずで退学します。帰国し、志賀直哉や武者小路実篤らとともに活動しました。

繊細な人物描写や情景描写が美しく、物語のなかに読者を惹きこむ魅力があります。また彼自身は妻の死後に愛人を想って自死するなど、作中にその恋愛遍歴が垣間見えるのも面白いでしょう。

著者
有島 武郎
出版日
1995-05-16

 

主人公は、国木田独歩の最初の妻である佐々城信子をモデルにした、早月葉子という女性。美貌と才知を兼ね備えた彼女はその情熱のままに、窮屈な社会と衝突しながら生きています。男性優位な環境のなかで、強く生きる姿が魅力的でしょう。

彼女の奔放ともいえる性格に周囲の人々が振り回される様子や、どんどんと過激になっていく葉子の姿が丁寧に描かれています。

当時としては珍しく、女性としての自由な人生とその悲しい結末を描いた本作。自分らしさを貫く、新時代の女性を象徴した作品です。

大正時代の顔ともいえる文豪、芥川龍之介の代表作『羅生門』

 

国語の教科書にも掲載されて多くの人が知っているであろう、芥川龍之介の『羅生門』。1915年に発表されました。

芥川龍之介は東京に生まれ、生後数ヶ月で母親が病気になったため、伯母に育てられました。高校進学時は、成績優秀者だけが受けられる無試験入学制度に選ばれるほど優秀だったそう。その後は東京大学の英文学科に進んでいます。

在学中に文芸誌「新思潮」にて処女小説を発表し、その後もさまざまな作品を執筆。何度も病に侵されますが、服毒自殺する直前まで小説を書き続けました。生々しい表現も多く、反軍的な思想が現れた小説も発表しています。

著者
["芥川 龍之介"]
出版日

 

本作の舞台は、平安時代の荒れ果てた羅生門。ある日の夕暮れ、職を失った下人が羅生門の下で雨宿りをしていました。生活のために盗みに入る勇気もなく、せめて安全に寝る場所を確保しようと門を上ると、老婆と出会います。

老婆は女の死体から髪を抜いていました。それを見た下人の心には、老婆に対する憎悪と、この世に対する憎悪が湧きあがり、思わず取り押さえるのです。

その後の老婆とのやり取りで、下人の正義心が変化していくさまが見どころ。生きることの辛さと、人間がもつエゴイズムや矛盾を感じられる一冊です。

大正時代の文豪、宮沢賢治が描く児童文学『注文の多い料理店』

 

『注文の多い料理店』は宮沢賢治が1924年に発表した児童文学。生前に出版された唯一の短編集で、当時は図画教師だった菊池武雄の挿絵がついていました。

宮沢賢治は、仏教信仰と農民生活に影響を受け、詩や童話を創作。生前はほとんど売れず、亡くなってからようやく世に広まり、国民的な作家となります。

きれいな言葉で綴られた物語は、読者に豊かなイメージをもたらしてくれ、子どもだけでなく大人からも人気の作家です。

著者
宮沢 賢治
出版日
1990-05-29

 

本作の主人公は、イギリス風の身なりをして猟銃を持った、2人の青年紳士です。山奥まで狩猟にやって来ましたが、獲物を得られず、やがて案内人も姿を消してしまいました。

帰り道を見失い、途方に暮れていた時、西洋風の一軒家を発見します。中に入り、いくつもの指示書きに沿って奥へと進んでいくと、ようやく自分たちの考えが間違っていたことに気づくのです。

青年たちの鈍感さは、本作の何よりの魅力。難しい言葉も使われていないため読みやすく、童話のような不思議な世界観に惹きこまれてしまう一冊になっています。

耽美派として活躍した文豪、谷崎潤一郎の『痴人の愛』

 

長編小説『痴人の愛』は、谷崎潤一郎が1924年に発表した作品。当時の谷崎は、女性愛やマゾヒズムなどをテーマにほの暗い文章を綴る、耽美派として知られていました。

戦争により創作活動から離れた時期もありますが、常に作品を生み出す姿勢を忘れず、国内外でその芸術性が評価されています。

本作に登場するナオミのモデルは、谷崎の妻の妹である小林せい子。女性としての魅力を持ったナオミにとらわれていく男の人生を描いていて、映画化もされています。

著者
谷崎 潤一郎
出版日
1947-11-12

 

物語は、主人公の河合譲治がカフェでナオミという美少女に出会うところから始まります。彼女を気に入った譲冶は、そのまま引き取り、洋館を借りて2人暮らしをすることにしました。当時のナオミはまだ15歳。譲冶は彼女を、立派な女性に育てようと計画したのです。

しかし淑女に育てたい譲冶と、浪費家で行儀の悪いナオミはたびたびぶつかるようになりました。ついに譲冶はナオミを家から追い出してしまうのですが、その後も彼女の魅力に取りつかれ、どんどんと虜に。最終的には財産も肉体も、すべて捧げてしまうのです。

本作の見どころは、自由奔放なナオミに心酔していく主人公の凋落っぷりでしょう。真面目なサラリーマンだったはずなのに、彼女の美しさにはまっていく姿は、恐ろしくさえ感じます。マゾヒズムや美意識を美しい文章で綴った作品です。

大正時代を代表する文豪、川端康成の『伊豆の踊子』

 

ノーベル文学賞も受賞した川端康成の代表作『伊豆の踊子』。彼が19歳の時の実体験がもとになっていて、1926年に発表されました。

大阪出身の川端康成は、東京大学を卒業後、横光利一らとともに文芸誌「文藝時代」を創刊。西欧の思想を取り入れた新感覚派として注目され、詩や心霊作品、少女小説などさまざまなジャンルの創作活動をおこないました。

妖艶な世界観のなかで、人間の醜い部分や悲しい部分を美しく描くのが特徴。数々の文学賞も受賞し、近代文学の最高峰として高い評価を得ました。

著者
川端 康成
出版日
2003-05-05

 

自分の性格を疎んでいる20歳の青年が、憂鬱から逃れようと東京から伊豆まで旅に出ます。その道中で旅芸人の一行と出会い、ひとりの踊り子に心惹かれました。

ほんの数日間でしたが、彼女の無邪気な愛らしさに触れて自分を受け入れられるようになった青年。コンプレックスを乗り越え、人の温かさに気づきます。

本作の見どころは、東京へ帰らなければならない青年と、踊り子の別れの場面。多くを語らずとも2人が心を通わせる切ない描写と、旅に出る前よりも成長した青年の姿が印象的な作品です。

大正時代の文豪たちと、その作品について紹介しました。近代文学のなかでも特に有名な作家ばかりなので、教養として読んでおいてもいいでしょう。

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