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『クラバート』は児童文学に収まらない名作!あらすじや時代背景などを解説!

更新:2020.4.27 作成:2020.4.27

児童文学と聞くと「子ども向けの本」という印象を受けるかも知れませんが、実は大人が読んでも心に深い余韻を残す名作と呼ばれる作品がたくさんあります。今回紹介する『クラバート』もそのひとつ。『大どろぼうホッツェンプロッツ』で有名なドイツの作家が手掛けたもので、宮崎駿監督が映画「千と千尋の神隠し」を描く際に参考にした物語ともいわれているのです。この記事では、あらすじや時代背景、作品から読み解けることなどを解説していきます。

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『クラバート』のあらすじをネタバレ紹介

ヴェンド人の少年クラバートは、身寄りのない浮浪児。仲間の少年たちと施しを受けながら暮らしていました。

ある時から、止まり木に11羽のカラスが止まっている夢をみるようになります。さらに夢のなかで「シュヴァルツコルムの水車場に来い」という声が聞こえたため、仲間と別れ、水車場を目指すのです。

ようやくたどり着くと、そこには夢の中の声を同じ声をした、親方と名乗る男がいました。クラバートはほかの11人の職人たちとともに、水車場で働くことになります。

水車場での日々は、親方への絶対服従。辛いものでしたが、トンダという職人頭が親切にしてくれ、クラバートも仕事をできるようになっていきます。

そうして見習いから弟子へと認められた金曜日。親方がクラバートの体に触れると、彼はいつの間にかカラスの姿になっていました。そのまま魔法の授業を受けることになります。そう、親方は魔法使いだったのです。

水車場にやってきて1年が経った大晦日の夜、トンダが突然死んでしまいます。しかし新しい弟子がやってきて、職人は再び12人になりました。2年目の大晦日、弟子がひとり死にましたが、また新しく入って12人になります。クラバートは、ここが普通の水車場でないことに気づきはじめました。

仲間をこれ以上死なせないため、そして自分が殺されないために、親方へ立ち向かうことを決めたクラバート。必死に魔法を学び、どんどん習得していきます。

親方を倒すためには、自分に恋をしてくれている相手が、親方の出す試練に打ち勝たなければならないとのこと。失敗をすればクラバートと相手2人揃って死ぬのみです。

水車場で迎える3回目の大晦日がやって来ました。クラバートには心を通わせる娘がいましたが、果たして親方との対決はどうなるのでしょうか。

著者
["プロイスラー", "ヘルベルト=ホルツィング", "中村 浩三"]
出版日

『クラバート』の作者オトフリート・プロイスラーはどんな人?

本作の作者オトフリート・プロイスラーは、ドイツを代表する児童文学作家です。『クラバート』と並んで、『大どろぼうホッツェンプロッツ』が有名でしょう。世界各国で多くの文学賞を受賞しています。

プロイスラーは、1923年に当時のチェコスロバキアのボヘミア地方に生まれました。両親は教師だったそうです。

20歳になった頃は、ちょうど第二次世界大戦の真っただ中。ドイツ陸軍へ入隊しますが、1944年に捕虜となり、5年間を収容所で過ごしています。

戦後はドイツ南部のバイエルンに移り、結婚。小学校の教師をしながら執筆活動を始めました。子どもたちに語っていた物語が書籍化されたこともあるそうです。

『クラバート』はドイツの伝説が元ネタ。時代背景を解説! 

物語の舞台となっているのは、ドイツとポーランドにまたがったラウジッツ地方という場所。ドイツ人のほかに、ヴェンド人というスラヴ系少数民族が住んでいました。『クラバート』は、ドイツに伝わる伝説のなかの「ラウジッツ地方の伝説」をもとに執筆された作品だそうです。

時代としては、18世紀の初頭。フリードリヒ・アウグスト1世がザクセン選帝侯だった時のこと。古くからの言い伝えと同時に、多数派の支配民族とは異なる言語や文化をもち、貧困が存在する日常が描かれています。

作者のプロイスラーは、少年の頃にクラバート伝説と出会いました。20年以上経って再びこの本を見つけ、執筆にとりかかる際、ヴェンド人の風習や水車場、職人たちの生活などを徹底的に調べたそうです。

『クラバート』は独裁者との戦い?親方や水車場が表すものとは

浮浪児という境遇から、仕事を得て、住む場所も食事も保証されることになったクラバート。しかも魔法を習い、使う立場になりますが、その安定を捨ててでも自由と愛を手にいれようと、親方と対決することを決意します。

魔法が登場するファンタジーでありながら、本作がやけにリアリティをもっているのは、クラバートが自分の意思で支配から脱却することを目指しているからでしょう。

彼が住み込みで働くことになる水車場が表すのは、自由のない閉鎖された共同体。職人の生命までもを掌握する親方は独裁者です。チェコスロバキアで生まれ育ったプロイスラーの出自がどこまで影響を与えているかはわかりませんが、少なからず関係していることを感じるのではないでしょうか。

恐ろしい水車場から逃亡をはかった職人は過去にもたくさんいましたが、いずれも失敗しています。親方の魔法に逆らえるほどの強力な覚醒力が必要だからです。その覚醒力が「恋の力」であることを知っている親方は、恋をした職人を次々と殺していきました。

果たしてクラバートは、親方に打ち勝って自由と愛を手に入れることができるのでしょうか。

『クラバート』から学べることとは

3年目の大晦日。クラバートに恋をしている娘は、親方に「私の大事な人を自由にしてください」と申し出ました。親方は、12人の職人をカラスに変身させ、さらに娘に目隠しをして、「どれがおまえの大事なクラバートかわかったら連れていっていい」と答えます。

予想外の展開に焦るクラバートでしたが、目隠しをした娘はは迷わず、カラスの姿になったクラバートを見つけ出しました。どうやって自分を探しあてることができたのか、クラバートが問いかけると、娘は「クラバートが私のことを思って心配で不安になっていることを感じ取った」と答えます。

実はクラバートが苦労して習得しなければいけない魔法のひとつに「心の奥底からはぐぐまれる魔法」というものがありました。それは愛する人に対する「心配」から生まれるものだそう。彼らを支配から救ったのは、お互いを思いやる気持ちだったのです。

私たちが暮らす現実の世界に、魔法は存在しません。それでも、日常で起こる小さな奇跡は、もしかしたら自分を心配してくれる誰かが生み出した、尊い愛の力によるものなのかもしれないと思わせてくれるでしょう。人を愛し、想うことがどれほど強い力をもっているのかを教えてくれる作品です。

著者
["プロイスラー", "ヘルベルト=ホルツィング", "中村 浩三"]
出版日