感染症の世界的な流行「パンデミック」。目に見えないウイルスが広がっていく緊迫感や、極限状態に陥った人々がとる言動にドラマがあり、小説や映画の題材にもよく使われています。この記事では、世界的な名作『ペスト』や、コロナウイルスの流行を予言したと話題の『首都感染』など、パンデミックを描いたおすすめの小説を紹介していきます。
中国でサッカーのワールドカップが開催され世間が盛り上がるなか、雲南省のとある農村で、新型インフルエンザウイルスが出現しました。特効薬がなく、致死率はなんと60%。しかし中国は、ワールドカップを続けたいため、事態の隠ぺいを図ります。
ウイルスの封じ込めは初期段階で破綻。さらに日本へと海をわたり、検疫を突破してとうとう都内に患者が発生してしまいました。
総理大臣の息子で内科医をしている瀬戸崎優司は、東京の封鎖を提案。しかし、日本政府もWHOもなかなか判断をくだすことができません。
- 著者
- 高嶋 哲夫
- 出版日
- 2013-11-15
2010年に刊行された高嶋哲夫の作品です。中国から発生した感染症、開催が危ぶまれるワールドカップ、世界的なパンデミックなど、2020年に世界中で猛威を振るった新型コロナウイルス感染症のパンデミックを予言していたと話題になりました。
ワールドカップに参加した各国の選手や観客が、自国にウイルスを持ち帰ってしまう描写は恐ろしいもの。 医療従事者と政府の対立、各国の政策、マスコミの扇動、国民の反応、さらには経済や物流の動きまで、そのリアリティは圧巻です。
日本は首都・東京を封鎖し、ウイルスを撲滅することができるのでしょうか。
南の島で発生した強毒性新型インフルエンザウイルス。H5N1鳥インフルエンザが変異を遂げ、人間に感染したものでした。
感染した日本人男性が、帰国して4日で死亡。それからあっという間にパンデミックとなります。多臓器不全を起こして死に至ること、そしてその致死率の高さに、医療機関にも不安が広がります。
- 著者
- 岡田 晴恵
- 出版日
2007年に刊行された岡田晴恵の作品。作者は、元国立感染症研究所の研究員で、感染症学の専門家です。膨大な知識と専門性をいかし、もしも強毒性新型インフルエンザが日本国内でパンデミックを起こしたら、というシミュレーションしています。
誰も抗体をもっていない新型で、さらには強毒という特性をもつウイルスが、日本に上陸し、広まっていく過程を詳細に描いているのがポイント。なにより医療現場が徐々に崩壊していく様子は恐ろしさがあります。
自分と大切な人を守るため、そして社会を守るために何ができるのか、あらためて考えさせられるでしょう。
弱毒性豚インフルエンザのパンデミックがフェーズ4となった世界。人々は、強毒性H5N1型鳥インフルエンザの流行に脅えていました。
そんななか、人気作家の神崎慧一は、パンデミックを題材にした新たな小説の執筆にとりかかります。しかし海外へ取材へ行き、帰国直後に彼自身がウイルスに感染していることが発覚。そして驚異的なスピードで死んでしまうのです。
感染の原因は、世界的に有名な画家エドヴァルド・ムンクが描いた「叫び」。ひとつの絵画をきっかけに、世界中にウイルスが広がっていきます。
- 著者
- 吉村 達也
- 出版日
2008年に刊行された吉村達也の作品。タイトルにあるとおり、パンデミックが起こる前段が描かれています。
本作のポイントは、ウイルスが拡散していく過程を、さまざまな人間関係とともに描いている点。感染経路をたどるように、恋人や親子はもちろん、愛人、医療従事者、芸術家など、人と人の繋がりが丁寧に描かれているのです。
またムンクの絵についたウイルスが、ダニやネズミを介して変異し、やがて人に感染するという発想も興味深いところでしょう。
映画「感染列島」の前日譚になっているので、本作を読んだ方はぜひ映画も観てみてください。
アルジェリアのオランという小さな都市の街中で、数匹のネズミの死骸が発見されました。その数日後、街にはネズミの死骸が大量に発生し、点在するゴミ箱からあふれるようになります。
そんななか医師のリウーは、ネズミの死骸を片付けたという門番の男を診察したことをきっかけに、ペストが流行していることに気づくのです。
新聞やラジオで報道されると、人々はパニックに陥りました。都市の封鎖を余儀なくされ、貧しい者から犠牲になり、医師たちも疲労困憊。そんな状況で、リウーは保健隊を結成し、市民たちとともに困難に立ち向かいます。
- 著者
- カミュ
- 出版日
- 1969-10-30
1947年に刊行された、フランスの作家アルベール・カミュの代表作。ペストに脅える人々の心情を緻密に描き、多くの読者の心をつかみました。
作中では、最悪の状況だからこそ見えてくる些細な価値観の違いや、人々が疑心暗鬼に陥る様子が鮮明に描かれています。ペストのパンデミックによって罪なき命が失われていくのを目の当たりにし、現実逃避をしてしまう様子などは痛々しいでしょう。極限状態に追い込まれた時に、それぞれがどのような行動をとるのか、人間性が垣間見えます。
目に見えないウイルスとの闘いは、不条理の連続。結末まで含めて、本作を書き残したカミュの想いを感じとってみてください。
カリフォルニア州にある軍の細菌兵器研究所から、実験中のウイルス「スーパーフルー」が流出。所内はパニック状態になります。ゲートを封鎖してウイルスを食い止めようとするものの、すり抜けた職員が田舎町に逃亡してしまいました。
やがて、ガソリンスタンドに突っ込んだ車から、逃げた職員と妻子が発見されます。そこを発生源に、町中そして国中にウイルスが広まっていくのです。
- 著者
- スティーヴン・キング
- 出版日
- 2004-04-07
1978年に刊行された、アメリカの作家スティーヴン・キングの作品。人為的に作り出されたウイルスが、地球規模のパンデミックを起こす様子が描かれています。
ウイルスがあっという間に広がり国が崩壊していくスピード感は凄まじいもの。軍も警察も機能しなくなり、各国で死者数が増加してきます。
さらに本作の見どころは、生き残った人間たちのサバイバル模様でしょう。感染を免れた生存者たちが、各々の正義と悪を掲げて争うのです。文庫本で5巻という超大作ですが、パンデミックが人々と世界を変えていく壮大なスケールの物語に、先を急ぎたくなってしまう作品です。
中世ヨーロッパで起こった、ペストのパンデミック。感染を恐れた男女10人は、フィレンツェ郊外にある屋敷に避難してきました。
退屈しのぎに1人1日1つずつ、物語を話すことに。紳士淑女らしい上品な口調とは裏腹に、その内容はどんどんと過激になっていきます。エロティックで、残酷で、時には不謹慎なものまで、全100話が収録された一冊です。
ペストによって死が身近に迫る中、隔絶された空間で楽しげに話す人間たちは現実逃避を楽しみ、100話の物語を語っていきます。
- 著者
- ["ボッカッチョ", "平川 祐弘"]
- 出版日
イタリアの詩人で作家、ジョヴァンニ・ボッカッチョの作品。1348年から1353年にかけて作られたといわれています。
1348年というと、イタリアでペストが大流行した年。実際にフィレンツェでは人口のおよそ3分の2が亡くなったそうで、まさに地獄のような光景だったでしょう。
そんな死の危険が迫るなか、隔絶された空間で、10人は楽しげに物語を話します。その姿は、生きている今がいかに喜ばしいことなのかを体現しているかのよう。死への対抗手段が物語という点も、考えさせられるものがあります。
古典ですが翻訳もわかりやすく、軽快な語り口で読みやすいのも魅力的。短編集のような感覚で楽しんでみてください。