百合SFって一体ナニ!?その魅力とハヤカワのおすすめ小説を紹介!

更新:2021.11.22

女性同士の関係性を描く「百合」と、現実とは異なる世界を描く「SF」。それぞれがまったく異なるファン層から絶大な人気を獲得していますが、実はこの2つのジャンルを融合させた「百合SF」というものがあるんです。この記事では、その魅力とおすすめの作品を紹介していきます。

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百合SFの魅力とは

 

「百合」という言葉が普及してからずいぶんと経ちましたが、当初は女性同士の「恋愛もの」という印象が強くありました。それゆえに、百合小説や百合漫画といわれるものを、自分の好みではないからと避ける人も多く、一部の人に向けたコアなジャンルという認識が広まっています。

しかし最近では「関係性」に注目するようになり、百合のバリエーションも豊かになっています。アニメやゲームなどでも、女の子たちが切磋琢磨して夢の実現を目指すストーリーが流行。過激な表現がなくとも、女の子同士が大きな感情を向けあうことを百合として認識するようになりました。

そんななか、新たに「百合SF」というジャンルが生まれ、人気を得ています。

SFでは世界観の設定に力を入れる傾向があり理論的な説明も多くなりがちですが、一方の百合ではキャラクターの心情や関係の描写を重視。この2つがあわさることで、これまでにない物語が誕生します。壮大な世界観のなかで、登場人物の想いが繊細かつ激しく描かれ、読者を惹きこんでいくのです。

百合SFの最初の一冊はコレ!おすすめアンソロジー『アステリズムに花束を』

 

全9篇の物語が収録されている、百合SFアンソロジーです。宮澤伊織、草野原々といった百合SF界で勢いのある作家や、「日本SF大賞」を受賞した長編『天冥の標』の作者、小川一水などが集結。宇宙ものから妖怪ものまで幅広いストーリーを楽しめます。

さらに、「百合文芸小説コンテスト」にて話題になった、『ソ連百合』の南木義隆も参加。ロシア研究者の意見も取り入れつつ、発表当時の作品を徹底的に校正した決定版を掲載しています。どれも女性同士の恋愛や友愛を描いており、色物では終わらない重厚な物語です。

著者
S‐Fマガジン編集部
出版日

 

収録されているのは宮澤伊織「キミノスケープ」、森田季節「四十九日恋文」、今井哲也「ピロウトーク」、草野原々「幽世知能」、伴名練「彼岸花」、南木義隆「月と怪物」、櫻木みわ・麦原遼「海の双翼」、陸秋槎「色のない緑」、小川一水「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」の9作。奇想天外なものから王道と呼べるものまでさまざまです。

「彼岸花」は、大正時代の恋愛を美しく描いたストーリー。作者の伴名練はホラー小説を得意としていますが、本作では吸血鬼と人間の恋という結ばれない運命を描いています。その切ない結末に、ぐっときてしまうでしょう。

百合のイメージをいい意味で壊してくれるうえ、趣向の異なる複数の物語を読むことができるので、初めて百合SFを読む人も手に取りやすいはず。新たなお気に入りの作家を見つけることもできる、おすすめの一冊です。

少女たちのデスゲームを描いた『少女庭国』

 

中学校の卒業式に向かっていたはずの女子生徒たち。突然意識を失くしてしまったかと思いきや、立方体の密室で目を覚まします。

隣室へ続くドアには、卒業試験と題して、他の卒業生を殺せばひとりだけ解放されるという張り紙がありました。羊歯子が扉を開けると、そこには彼女と同様に目覚めた女の子の姿があったのです。

著者
["矢部 嵩", "焦茶"]
出版日

 

少女たちのデスゲームを描いた矢部嵩の『少女庭国』。密室に閉じ込められた少女たちが脱出を目指すストーリーです。

大きく前編と後編に分かれていて、後編には少女たちの死にゆく様子が次々と描かれる衝撃のもの。ところがそれだけで終わらず、物語は想像の斜め上へと展開していきます。奇妙な世界のなかでお互いを想いあう少女の姿に、絶望と希望の両方を感じるでしょう。

中学3年生の女子が無限に増えるという終わりなき脱出劇の先に、彼女たちはどんな決断を下すのでしょうか。ただのデスゲームでは終わらない驚愕のストーリーに目が離せない作品です。

青春学園もの百合SF『ウタカイ』

 

歌聖高校の1年生の登尾伊勢は、ライバル兼先輩でもある朝良木鏡霞に素直な恋心を伝えるため、短歌で異能をぶつけあう「歌会」の全国大会に挑戦することにしました。

しかし彼女の前には個性的な少女たちが立ちはだかり、苦戦を強いられることもしばしば。先輩のために苦悩に向き合おうとしますが……。

著者
["森田 季節", "えいひ"]
出版日

 

大学院在学中に「MF文庫Jライトノベル新人賞」を受賞し、デビューした森田季節の作品。短歌をスポーツとして楽しむ思春期の少女たちと、燃えるような恋心が描かれた物語です。

短歌を詠むことで異能力「歌垣」というパワーを作り出すSF感あふれる設定が魅力的。平安時代から続く古式ゆかしい方法で、想いを綴っていきます。能力の種類もさまざまで、主人公のように竜を呼び出して攻撃するものや、毒を生み出すものなど、短歌に込める気持ちの強さと内容で相手にダメージを与えるのです。

また主要人物をはじめとした少女たちの関係性は熱く、特に伊勢と鏡霞の不器用に恋心を確かめあう様子はたまらないでしょう。周りのキャラクターたちもそれぞれ百合の関係性を築いていくので、SF好きの方も百合好きの方も満足できる一冊です。

忍者と悪の組織の戦いを描いた百合SF『機忍兵零牙』

 

数々の異次元を支配する無限王朝と、抵抗を続ける伝説の忍び集団の光牙。物語は、忍びのひとりである零牙が、亡国の姫真名と幼子の鷹千代を護衛する任務を与えられるところから始まります。

無限王朝から逃げ延びるために旅を急ぐ彼女たちに対し、敵の傘下にある骸魔忍群が襲い掛かります。光牙は火花を散らして戦うのですが、敵もそう簡単には倒されません。果たして生き残るのは、どちらなのでしょうか。

著者
月村 了衛
出版日

 

SFミステリー『機龍警察』を手掛けた月村了衛の作品。本作では、宿命に縛られた女性たちを描いています。亡国の姫である真名と、忍びの蛍牙という地位や友情を越えた関係性が美しいです。

巨大な悪の組織と忍者が戦うという壮大な設定が魅力的。勧善懲悪の展開に、のめり込んで読んでしまうでしょう。

忍者というと少し古風な印象を受けますが、スタイリッシュなセリフ回しはかっこよく、抵抗なく読める一冊です。

幸福への復讐を美しい文章で紡ぐおすすめ百合SF『ハーモニー』

 

21世紀後半、戦争とウイルスによる世界的な混乱を乗り越え、世界はようやく平和を取り戻していました。過去の教訓を活かし、病気の根絶を目指す彼らは、大規模な福祉厚生社会を形成し、不健康なものはすべて排除するようになります。

そんな社会を憎悪するミァハと、彼女に共感したトァンとキアンの3人の少女。自殺を図りますが、失敗。死んだのはミァハだけでした。

それから十数年後のある日。世界中の人々が同時に自殺をする事件が発生。キアンも巻き込まれてしまいます。国の上級監察官として働いていたトァンが捜査をしていくと、かつて死んだはずのミァハが関わっていることがわかり……。

著者
伊藤計劃
出版日
2014-08-08

 

デビューしてからわずか2年、34歳という若さで亡くなった伊藤計劃の作品。「星雲賞」「日本SF大賞」「ベストSF2009」を受賞し、映画化もされました。

酒やタバコは禁止され、高度医療が発達し、ストレスは除去され、人々は「生府」によって生命を管理されるというディストピアの世界。安全や安心を手に入れることはできたものの、すべてを制御されてまで生きることは、幸せなのでしょうか。

優しい平和な世界で生きづらさを感じる少女たちの、苦悩と復讐が見どころの一冊です。

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