「十二国記」シリーズの魅力とは。世界観や登場人物、新作『白銀の墟 玄の月』も紹介

更新:2021.11.22

地球と異空間の12の国を舞台としたファンタジー小説「十二国記」シリーズ。つくり込まれた世界観と、壮大なスケールが人気です。この記事では、シリーズの概要や登場人物、『魔性の子』と『白銀の墟 玄の月』のあらすじと魅力を紹介していきます。

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「十二国記」シリーズとは。新潮社と講談社の違いはある?

 

「十二国記」シリーズは、地球と12の国が存在する異空間を舞台にくり広げられるファンタジー小説です。神仙や妖魔が登場し、どことなく古代中国を思わせる世界観になっています。

その始まりは、1991年に新潮社から刊行された『魔性の子』。作者の小野不由美は物語の背景となる年譜や背景を綿密に練っていました。『魔性の子』を発表した後、その構想を講談社の編集者に話したところ、シリーズが誕生することになったのです。

また「十二国記」シリーズは、出版社やレーベルをまたいで刊行されている異色の作品でもあります。当初は小野不由美が少女向け小説を書いていたこともあり、講談社のライトノベル系レーベルから発表されました。

その後、読者層が子どもにとどまらず大人にも拡大していったため、一般向けの講談社文庫に移行しました。さらに担当編集者の転職にともない、2020年現在は新潮社へ発行元を移して刊行が続いています。細かな文言の違いはありますが、ストーリーの大筋に変わりはありません。

「十二国記」シリーズは世界観が面白い!麒麟、蝕などを解説

 

小野不由美は、十二国の地理、環境、法令などを具体的に創りあげ、詳細に記しています。中国風の人名や個々の名称なども歴史を感じさせ、ファン心理を刺激しているようです。

地球と十二国は異なる空間に存在し、2つの世界を隔てているのが「虚海」と呼ばれる広大な海です。そして、嵐のような天災「蝕」が、唯一2つの世界を繋ぎます。

時に「蝕」は、異なる世界に暮らす人々の配置を狂わせ、運命を変えてしまうことも。「海客」と呼ばれる地球から十二国に辿り着いた人々や、地球に流れ着いた十二国の子「卵果」や「胎果」たちは、故国を離れ不慣れな環境で過ごしていくことになるのです。

十二国では、天意を受けた神獣「麒麟」が選んだ「王」が各国を統治しています。治世に共通するのが、儒教経典に近い政治体系と、天命による絶対的な法則です。善政の間、「王」には不老不死が約束されています。しかし、天命に背くと「麒麟」も「王」も死んでしまい、その国は新しい「王」が就くまで、荒廃の歴史を刻むのです。

「十二国記」シリーズの主な登場人物を紹介!

 

「十二国記」シリーズは、固定の主人公がいるわけではなく、作品によって主役が入れ替わります。どこからでも読み始められますが、通して読むことで登場人物の相関関係や背景を把握できるので、より楽しめるでしょう。

中嶋陽子

蓬莱(現代の日本)で暮らす胎果の女子高生。ある日十二国に引き戻され、日本に戻ろうと異世界を冒険します。旅の途中で何度も裏切られた経験から人間嫌いに陥りますが、楽俊との出会いにより道が拓け、後に「王」になるのです。

楽俊

ネズミの半獣。行き倒れになっていた中嶋陽子を救い、親友となります。出身の巧国では、半獣の身分であることから貧しい生活を強いられていました。役人だった父の遺品で独学をした努力家で、特に法令に関しては該博な知識があります。嘘がつけないお人好しです。

泰麒・高里要

戴国の麒麟。もともと胎果でしたが、蝕で蓬莱に流されて幼少期を高里要として過ごしました。10年後に連れ戻され、麒麟として王(驍宗)を選びますが、再び蓬莱に戻ることに。この間は神隠しにあったとされ、記憶がありません。

李斎

戴国の女性中将軍です。驍宗の治世下では、外様の少数派として重用されていました。驍宗と泰麒が行方不明になった後は、事実上の王(阿選)に就くことはなく、2人を探す旅に出ます。慶王となった中嶋陽子を頼り、泰麒を蓬莱から呼び戻すことに成功して戴国に戻りますが……。

「十二国記」シリーズの原点『魔性の子』のあらすじと魅力を紹介!

 

教育実習生として母校の男子校にやって来た広瀬。実習中に、不思議な雰囲気をもつ高里という生徒と出会います。高里は小学生の時に1年間神隠しにあい、それ以降彼の周りで祟りのような不可解な出来事が起きるという噂がありました。広瀬はその異質さが気になり、高里に関心を寄せます。

高里の周辺ではトラブルが頻発。ある日のこと、噂の釈明を求めた生徒が体育祭の練習中に謎の死を遂げる事件が起き、生徒たちが高里に詰め寄りました。

高里と広瀬は教室の窓から突き落とされてしまい、さらに祟りの噂を嗅ぎ付けたマスコミが騒ぎを大きくして……。

著者
小野 不由美
出版日
2012-06-27

 

現在は「十二国記」シリーズの外伝として位置づけられる本作。もともとはシリーズの始まる前年に発表された、単独のホラー小説でした。後にシリーズに登場する泰麒や廉麟なども登場しますが、ここではその正体が明かされることはありません。

何より、次々と人が死んでいくストーリーと、過剰な反応へとエスカレートしていく人々の描写に圧倒されるでしょう。また、思い通りに生きることができない難しさを抱えた高里の感情や、人間のもっているエゴなどの欲深さには絶望感すら覚えます。

さらに、高里の1番の理解者だったはずの広瀬は、終盤で「選別」され、裏切られてしまうのです。読者が驚くほどの残酷な結末に、茫然としてしまうかもしれません。

「十二国記」シリーズの新作『白銀の墟 玄の月』のあらすじと魅力を紹介!

 

遂に戴国へ帰還した泰麒。あれから6年が経っていましたが、王の驍宗は失踪したままでした。王や麒麟を失った戴国の人々は、悲惨な暮らしを強いられています。

引き続き驍宗の行方を追うことにした泰麒が訪れたのは、阿選のもと。王位を奪ったにも関わらず政治をしようとしない阿選に対し、必死に諭すのですが……。

さらに阿選に反発する民が結集するなか、姿を現した驍宗が阿選の軍に捕らえられる事態に。李斎らの軍も敗れ、驍宗に迫る阿選に泰麒が下した決断とは……。

著者
小野 不由美
出版日
2019-10-12

 

「十二国記」シリーズの9作目。前作の刊行から5年が経った2019年に発表されました。全4巻の長編小説です。

泰麒は、『魔性の子』をはじめとするいくつかの作品で物語のキーマンを担ってきました。本作では、数奇な運命に翻弄され続けてきた泰麒の成長した姿が描かれています。終盤の怒涛のような逆転劇からは目が離せません。

また泰麒の企てだけでなく、李斎と同志たちの冒険や、息を潜める驍宗の行方など、本編ではいくつもの物語が交錯していきます。複雑ながらもそれぞれの描写にぬかりはなく、「十二国記」シリーズの世界観を存分に楽しめる作品です。

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