ライトノベルというと中には40冊を超えるような作品もあり、さすがに読む時間が取れないことも多いのではないでしょうか。今回は忙しい方でも楽しめる1冊で完結するラノベをご紹介します。
物語の舞台となるのは人間と感情を持ったロボットがともに暮らしている世界です。タイトルにもあるアイリスとは正式登録名称をアイリス・レイン・アンヴレラというロボットの名です。
彼女はアンヴレラ博士の元で家政婦をしていたロボットで、家族のように愛され、何不自由なく暮らしていたのですが、やがて彼女の身に不幸が訪れます。物語は彼女の残骸から取り出された精神回路に記録されていた記憶をたどるお話になっています。
- 著者
- 松山 剛
- 出版日
- 2011-05-10
ロボットというとSFのような雰囲気を想像されるかもしれませんが、これはどちらかというと魔法的ファンタジーによって作られた存在という方がイメージとして近いかと思います。人に仕え、人のような感情を持ち、しかし人と同じには扱われない、それがこの世界でのロボットです。
物語としては全体的に暗めで、アイリスが過酷な運命に晒されていく様を描いていく部分が大半を占めます。その点ではあまりライトノベルらしいとは言えないかもしれません。しかし、彼女の出会いと別れのストーリーは見る者の涙を誘い、そして優しさと温もりに溢れています。映画や童話を楽しむように読める傑作です。
主人公の兎田晃吉は「宇宙人」と揶揄され友達もいない内気な高校生です。軽音部に所属する彼の唯一の趣味はギター、しかし文化祭を控えた時期になっても彼には一緒にバンドを組む仲間もいなければ、部長の嫌がらせで練習場所すら与えられないのでした。
そんな彼が偶然出会った漫研の部長、兎毛成結奈。彼女は晃吉の事情を知り、自分の部室を練習場所として使わせてくれることになります。文化祭に出て奴らを見返してやれと言う結奈。果たして晃吉は無事にリベンジを果たすことができるのでしょうか。
- 著者
- 秀章
- 出版日
- 2011-07-20
内気な少年が同じような仲間たちに出会い、成長し自分に自信を持つという物語になっています。スクールカーストの底辺にいる彼が、自身の才能を武器にのし上がっていくのです。
非常に勢いがあり、爽快感を覚える作品。おすすめです。
地方都市の冬、高校生の桧山ミツルは予備校で名前も知らない3人の高校生と同じ部屋になり、テスト中停電が起きてしまいます。それ自体は大きなことではなかったのですが、それをきっかけに育ちも学校も違う4人の高校生は、親交を深め次第に惹かれ合っていきます。
本当に小さな偶然と、その場にいた彼らの行動から絆が生まれやがて恋に育っていく美しい純愛のストーリーです。
- 著者
- 三上 康明
- 出版日
- 2009-06-18
受験生として悩みを抱えた4人が恋に落ちていく様を描いた作品で、ドラマのような激しくも素敵な恋ではなく、現実で起こりそうな素朴な恋の物語が特徴的な作品です。
そのため全体的に甘い話でも、心から楽しいといえるような話でもなく、どこか痛みがあり、影があり、救いがある、非常に面白い物語が展開されていきます。ノスタルジックな雰囲気で恋愛小説が好きな方ならば一度読んでみるのをおすすめします。
タイトルのニライカナイとは、人々が住む世界とは別の神々の国のことです。
物語は主人公の拓郎が、空港でアイドルの宮沢梨花と出会うことからはじまります。人気絶頂である彼女に手を引かれながら搭乗ゲートをくぐることになり、そのまま那覇、石垣島、そして波照間島へと二人は旅を続けていくのです。
- 著者
- 葉山 透
- 出版日
- 2005-12-10
たまたま出会った美少女に引きずられるように沖縄へというセオリーでベタともいえるようなお約束展開な作品です。もちろん悪い意味ではなく良い意味で、王道でストレート。
発行は富士見ミステリー文庫、なのでどんでん返しの要素もあり、そちらの面も楽しめるライトノベルとなっています。
人間と吸血鬼が、昼と夜を分け合って暮らしている世界が舞台です。
主人公の山森頼雅は両親がコンビニを営む普通の高校生で、よく両親の手伝いをしています。そんな彼の日課となっているのが、同じ高校に通う少女が毎日夕方に紅茶を買っていく姿を冷蔵庫の奥から確認することでした。
そんなことを続けていたある日、頼雅はついにその少女、冴原綾萌と出会います。彼女とのふれあいの中で、吸血鬼も自分たちと同じような普通の高校生であることを知っていく頼雅。いつしか二人は普通に惹かれ合っていくことになり……。
人間と吸血鬼の恋愛を描いた胸を焦がすようなラブストーリーです。
- 著者
- 石川博品
- 出版日
- 2013-07-29
主人公である頼雅と、ヒロイン綾萌のふたりの視点で描かれた作品です。これにより、お互いが相手のことをどのように思っているのかが読者には分かるわけですが、これがどうにももどかしく読む者の心を揺さぶってきます。
特に序盤は、よく知らないが故にお互い相手を美化して思い悩んでいる様がなんともいえません。人間と吸血鬼の恋愛という切ない雰囲気を払拭させるように甘い恋愛が楽しめる一作です。
「喪失症」という病気のせいで緩やかに滅びゆく世界の中で、少年と少女が旅をする物語です。
「喪失症」は人々が名前を失い、色を失い、やがて存在自体を喪失してしまうという病気で、これにより人々が消えていってしまっているのが滅びの原因となっています。そんな世界でお互いに名前を「少年」、「少女」と呼び合う二人がスーパーカブに乗って旅をしていくのです。たどり着くかもわからない、世界の果てを目指して。
- 著者
- 萬屋 直人
- 出版日
- 2008-03-10
記憶も記録もなくなっていくという世界の中で旅をする二人の姿が、短編連作のような形で描かれています。
退廃的なセカイを旅する雰囲気が魅力的で、その世界観に惚れこむファンも多い作品です。
異世界人が地球に侵略するために送り込んでくる「ギタイ」と戦うために、統合防疫軍に初年兵として入隊したキリヤ・ケイジという青年がこの作品の主人公です。
彼は初出撃で絶望的な戦場に送り込まれてしまい、「サーバ・アルファ」と呼ばれるギタイと相打ちとなって死亡してします。しかし、彼はなぜか意識を取り戻し、確認すると出撃前日の朝に時間がまき戻ってしまっていて……。
- 著者
- 桜坂 洋
- 出版日
- 2004-12-18
ジャンルとしてはループものと呼ばれるタイプの作品です。何度死んでも、出撃前日に戻り、苦しさと経験だけが蓄積されるキリヤは、その経験を活かし驚異的なスピードで成長していきますが、それと同じくなぜか彼を狙ってくるかのようにギタイたちは行動を変化していきます。
そんな日々の最中、キリヤは初出撃を共にした凄腕の兵士リタと出会い、キリヤと同じようにループを繰り返してきた彼女から、このループを脱出する方法を提案されます。
何度もギタイにやられ、それを経験として生かしていく凡人兵士の戦いがこの作品では描かれていくことになります。キリヤは100回、200回とひたすらに痛みを伴いながら死を繰り返すのです。
ただ一人同じ境遇になっていたリタだけが、彼の心を慰めてくれる存在です。極限状態の中で絆を深めていく二人が一体どうなってしまうのか、無事に脱出することはできるのか、ループ体験に伴う痛みを一冊の中に濃縮した作品です。
7作の短編が載せられた短編集です。テーマは、温かくておかしくてちょっとフシギなボーイミーツガール。表題作の「ある日、爆弾が落ちてきて」はテレビ番組「世にも奇妙な物語」でドラマ化もされ話題にとなりました。
「ある日、爆弾が落ちてきて」はその名の通り主人公の遠山聡の上に落ちてきた爆弾を巡る物語です。もちろん、ただの爆弾ではありません。それは女の子の形をした爆弾でした。しかも聡の高校時代の同級生とそっくりな顔をしています。
彼女は聡に対して、自分は人型の爆弾であること、胸の時計の針が12時を指すと爆発すること、その針は胸のドキドキで進むことなどを説明し、そのまま彼をデートへと誘い出します。彼女の目的とは何か、そして本当に爆発してしまうのか、どこか切ない結末を迎える物語です。
- 著者
- 古橋 秀之
- 出版日
どの短編にも普通じゃない設定をもった女の子が登場します。
いずれも時間がテーマとなっていて、たとえば「恋する死者の夜」では死者が何度もある日の行動を繰り返す世界で、ヒロインのナギと共に遊園地へと行く姿が描かれます。「三時間目のまどか」では窓に映った違う時間を生きる少女との交流が描かれます。
どれも時間を切り口とした作品ですが、切なかったりおかしかったりと様々で、多様性ある物語が楽しめる一冊です。
「電撃文庫MAGAZINE 11月号増刊」に掲載された短編に、中編とエピローグの書き下ろしで構成された「少し不思議な」日常系SFライトノベルです。
物語の軸となるのは自分以外の人間が「ロボット」に見えてしまうという眼を持った毬井ゆかりで、彼女の親友である波濤学の視点で語られていきます。電撃文庫MAGAZINEに掲載された短編は彼ら二人の奇妙な日常を、書き下ろしの後半部分は物語を大きく動かし、彼女が死んでしまう未来をなんとかしようとする物語です。
- 著者
- うえお 久光
- 出版日
- 2009-07-10
ゆかりによって左腕に携帯電話を埋め込まれた学が、死んでしまう未来のあるゆかりを助けるため、平行世界の情報を集め救おうとするお話です。
主人公であり視点人物である学ですが、彼の行動はどうにもうまくいきません。それが一体なぜなのか、彼らの行く末はどうなるのか、ループものとしては少し珍しい展開をする作品です。
「レヴァーム皇国」と「天ツ上」という二つの国が戦争を続けている世界が舞台のファンタジー作品になります。
主人公のシャルルは敵国となる二つの国のハーフという身の上から迫害されてきたという生い立ちを持っているキャラクター。彼は運よく一人の神父に拾われ成長し、傭兵の飛空士(パイロット)としてレヴァーム皇国に仕えています。
物語はそのシャルルが、次期皇妃ファナを1万2千キロ先の皇都へと送り届けるという重要任務を受けたところから始まります。
- 著者
- 犬村 小六
- 出版日
- 2008-02-20
孤児であり、迫害された経験もある主人公と、皇国の次期皇妃であるヒロインとの身分違いの恋を描いた物語です。皇都を目指す5日間の道中で、彼らは少しずつ互いに惹かれ合っていきますが、その時間が過ぎてしまえば彼らはともにいることを許されません。
あと少しでいなくなってしまうという状況、そして襲ってくる敵に二人がどう行動するのか。一冊の中にたくさんの物語と世界観が詰め込まれた名作。文章も素晴らしいので普段ライトノベルを読まないという方にも是非読んでいただきたいです。
いかがでしたでしょうか。長いライトノベルが主流の中、単巻で終わるラノベというのは珍しいと思った方もいるかもしれません。ライトノベルの花形はたしかに長期シリーズ作ですが、たまにはこういった1巻で完結する名作を読んでみるのもよいではないでしょうか。