「大坂の陣」を描いた小説おすすめ5選!戦国時代最後の戦い

更新:2021.11.22

学生時代に学んだ歴史を大人になっても覚えているかは、どれだけ興味をもったかに左右されるのではないでしょうか。有名な武将や重要な合戦は、印象的なエピソードとあわせると知識として定着します。この記事では、歴史のなかでも重要な局面である「大坂の陣」を描いたおすすめ小説を紹介します。いったいどんなドラマがくり広げられていたのでしょうか。

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大坂の陣とは

 

「大坂の陣」は、徳川家康が天下統一を成し遂げ、戦国時代に終止符を打った合戦です。1614年の冬の陣、1615年の夏の陣を総称して「大坂の陣」と呼びます。

1598年に天下をほぼ手中におさめていた豊臣秀吉が亡くなった後、好き勝手に振る舞う家康をいさめるため、石田三成が挙兵しました。1600年には各地の大名たちを巻き込み、天下分け目の「関ヶ原の戦い」が勃発します。この戦いに勝利した家康が、3年後に江戸幕府を開くことになるのです。

しかし豊臣家も依然として力をもっていたため、家康が征伐を仕掛けます。1614年の冬の陣では、豊臣方が籠城していた大坂城の守りが固く、ひとまず講和を結ぶことになりました。

その後家康は、大坂城の堀を埋めて再戦。1615年の夏の陣にて、豊臣秀頼と淀殿が自害したことで決着がつきます。徳川家康の天下統一が成し遂げられることになりました。

「織田がつき羽柴がこねし天下餅座りしままに食うは徳川」という歌がありますが、家康が何もしなかったかどうかは別としても、まさに彼が「天下餅」を手に入れた戦いが「大坂の陣」。戦国の気概をもつ武士の時代が終わりを告げた合戦としてさまざまな言い伝えが残っていて、ドラマチックな時代小説も多数誕生しているのです。

大坂の陣を描いた司馬遼太郎の傑作小説『城塞』

 

「関ヶ原の戦い」を制し、天下統一目前まで迫った徳川家康。亡き豊臣秀吉の遺児である秀頼と会見し、その荘厳なオーラと若さ、市井の人々からの人気に危機感を抱きました。そして豊臣家を滅ぼすことを決意するのです。

旧武田家遺臣団出身の小幡勘兵衛は、難攻不落の大坂城を攻略するためのスパイに抜擢。しかしいざ現地へ行ってみると、そこにはすでに多くのスパイや豊臣家の裏切り者が巣くっていました。政治も軍事もわからない淀殿が権力を握る大坂城は、腐蝕していたのです。

家康の仕掛ける策略で、豊臣家は「大坂の陣」へと流されていきます。

著者
司馬 遼太郎
出版日

 

1971年に刊行された司馬遼太郎の作品。『国盗り物語』から始まる「戦国4部作」のひとつで、緩やかに滅びゆく豊臣家の群像劇を描いています。

見るものを圧倒する大坂城を主役に据え、秀吉没後のそれを「栄誉の抜け殻」と表現。重厚で滑らかな文体が、心地よく読者を惹きこむでしょう。

徳川方は、生粋の侍魂をもっている武士は少数です。その一方で「関ヶ原の戦い」で領地を失った牢人たちを集めた豊臣方は、いかにも戦国武士らしく、その対比が面白いところ。家康の狡猾さが際立つストーリーも手伝って、戦国末期らしい泥仕合と、城塞とともに散る死の美学が読者を惹きつけてやみません。

戦場の描写を堪能できるおすすめ小説『戦旗 大坂の陣 最後の二日間』

 

1615年5月、大坂夏の陣。総大将不在5万弱の豊臣軍は、家康の策略にはまり、10万を超える徳川軍に追い詰められ最期の時を迎えようとしていました。

崩壊の音が聞こえるなか、武士の誇りのすべてをかけて真田幸村は家康本陣に攻め込みます。さらに後藤又兵衛や毛利勝永など勇敢な牢人大将たちも、戦国の世を生き延びてきた猛者として、華々しく散ることを選びました。

著者
松永弘高
出版日

 

2016年に刊行された松永弘高の作品。「大坂の陣」の最後の2日間を描いています。

物語は、家康の外孫である松平忠明の視点を中心に進行。彼は大局的で冷静な目をもっていて、新時代の旗手として、「大坂の陣」の終焉を見つめていました。

2日間のみにスポットを当てているので、合戦の描写が非常に細かいのが魅力です。それぞれの場面がカットインされながら生き生きと描かれているので、まるで戦場にいるかのように迫力を感じながら読むことができるでしょう。

戦いの熱気と武将たちの想いを体感できる、戦国時代好きにはたまらない一冊です。

家康の影武者となった男の人生とは『影武者徳川家康』

 

「関ヶ原の戦い」にて、徳川家康が武田軍の忍びに暗殺されました。この事実が知られてしまうと士気が下がるとして、徳川陣営は勝利のために、影武者をたてることにします。

抜擢されたのは、かつて一向一揆で織田信長に銃弾を当てたことのある世良田二郎三郎。この日から徳川家康として生きることになり、思考や戦略など、家康そっくりのものを身につけていくのです。

しかしそんな二郎三郎のもとに、影武者の事実を知りながら孝行息子の皮を被る2代目将軍、秀忠の暗殺の手が迫り……。

著者
隆 慶一郎
出版日
1993-08-31

 

1989年に刊行された隆慶一郎の作品。隆は長らく脚本家として活躍し、1984年に小説家として活動を始めてからわずか5年で急逝してしまった人物。デビュー作は直木賞の候補となりました。

徳川家康には、いくつが影武者説があります。本作は家康が「関ヶ原の戦い」で影武者と入れ替わったという説を描いたもの。単なる想像ではなく資料や文献にもとづいた展開は整合性がとれていて、「事実なのでは」と思わせてくれる面白さがあります。

主人公の生き方をとおして、立場というものがいかに人を成長させ、人生に影響を与えるのかを体感することができるでしょう。

池波正太郎が大坂の陣を描いた、大人気長編時代小説『真田太平記』

 

武田氏の傘下だった真田家は、武田家が織田・徳川連合軍によって滅ぼされた後、信州の小大名として孤立していました。

戦国時代きっての智将である真田昌幸を筆頭に、長男の信幸、次男の信繁は、忍びらによる情報収集と策略を駆使して戦国の乱世を生き抜きます。

しかし豊臣秀吉の死後に起こった「関ヶ原の戦い」と「大坂の陣」が、一族を引き裂くのです。どちらにつくか決断を迫られた真田家は、信幸だけを徳川方につかせ、親子兄弟が敵同士になり、戦いに臨みました。

著者
池波 正太郎
出版日
1987-09-30

 

1974年に刊行された池波正太郎の作品。「真田もの」の集大成として絶大な人気を誇る長編時代小説です。1985年にはテレビドラマ化もされました。

とにかく人物描写が秀逸で、歴史上の人物として人気の高い真田昌幸や真田幸村の人物像を確立させた作品といっても過言ではありません。

状況を読むことに長け、武田信玄、織田信長、豊臣秀吉と主君を変えながらも自分を見失わない真田昌幸の戦略家ぶりと、真田一族の結束の固さを存分に堪能することができるでしょう。

「大坂の陣」で名をあげた戦国スターといえば幸村が有名ですが、真田家のために断腸の思いで徳川方についた信幸の思慮深さも目を見張るものがあります。

大坂の陣で散った真田幸村の魅力を描いた小説『華、散りゆけど』

 

「関ヶ原の戦い」で豊臣方につき、敗北したことで、真田幸村は九度山で14年にわたる不遇の蟄居生活を送っていました。

「大坂の陣」が勃発した1614年、豊臣方から徳川と戦うための出陣要請を受け、ついに立ち上がります。武士としての誇りをかけて大坂城へ行き、自ら造った出城「真田丸」に立つのです。

「華は散りゆけど、その香は残る。されど、われらは死に華に非ず」

父、昌幸の言葉と六文銭を胸に抱いて、宿敵徳川家康に挑む幸村は、最期の華を咲かせるため奮戦します。

著者
海道 龍一朗
出版日

 

2012年に刊行された海道龍一朗の作品。人気の戦国武将のひとりである真田幸村の、清々しい生き方と鮮烈な死にざまが描かれています。

「大坂の陣」に出陣するまでの幸村の苦悩や決意、冬の陣で徳川方を翻弄した「真田丸」での戦い、夏の陣の最期の突撃まで、終始幸村の魅力を堪能できるでしょう。真田の旗印である六文銭に見立てた章構成も粋な計らいです。

「海道節」と呼ばれる作者特有の筆致が涙を誘い、誰もが幸村の生き方に惹かれてしまう一冊です。

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