山田風太郎のおすすめ文庫小説6選!忍法帖もの、柳生十兵衛ものの第一人者!

更新:2021.12.14

忍法帖ものの第一人者・山田風太郎。名前を聞くとどうしても「忍法帖!」と言ってしまいそうになりますが、ほかにもおもしろい作品をたくさん書いているんです。そんな山田風太郎の作品のおすすめを6作ご紹介します。

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挫折を乗り越え、推理小説から忍法帖にたどり着いた山田風太郎

山田風太郎は日本の小説家です。1922年、兵庫県養父郡関宮町で生まれ、兵庫県立豊岡中学校(旧制中学=5年制、現在の兵庫県立豊岡高等学校)を卒業。

旧制高等学校の受験に失敗し、家出同然に上京。徴兵検査は肋膜炎のため丙種合格となって入隊を免れています。22歳のときに旧制東京医学専門学校(後の東京医科大学)に合格して医学生になりました。

旧制中学校時代から何度か雑誌に投稿して入賞しており、医学生時代に『達磨峠の事件』が入選して作家としてデビュー。当時は推理小説が中心でした。高木彬光、島田一男、香山滋、大坪砂男とともに「探偵小説界の戦後は五人男」と呼ばれていたそうです。

山田風太郎といえばコレ! 忍法帖ものはここからはじまった

服部半蔵に率いられる忍者群ながら、甲賀卍谷と伊賀鍔隠れに潜む一族は数百年に渡り、憎み合う敵同士でした。

それでも、甲賀組首領である甲賀弾正の孫・弦之介と伊賀組頭目のお幻の孫・娘朧は恋仲で、このまま縁組が進めば甲賀と伊賀の確執もとけるのではないかと思われていました。

ですが、慶長19年4月、徳川家康と半蔵が甲賀・伊賀の忍びたちに与えた使命はその望みすらを打ち砕くものでした……。

家康は、天海からの提言を受けて、甲賀対伊賀の忍法争いによって三代目の将軍選定をすることに決めたのでした。

その方法は、双方から10人ずつの代表を出して、最後まで生き残ったものが家康のもとへ巻物を持ち帰ること――伊賀が勝てば竹千代、甲賀が勝てば国千代が後継者となるのです。

その10人の中には祝言が近い弦之介と朧の名前もありました。

著者
山田 風太郎
出版日
1998-12-11

忍法を使用しての戦いのおもしろさはもちろん、伊賀と甲賀の戦いの結果で後継者を決めるというストーリーも型破りで、その戦いも正々堂々としたものではなく、罠も奇襲も騙し合いもあるという部分に引っ張りこまれます。

「別の人物になりすました人物」の振りをするという二重の騙し方や、盲目の人物の奇襲方法、死んでも生き返るという忍術の効果や手足が自由に外せる人物の闘い方、不意打ちの仕方など、どれをとっても「あっそうくるのか」とびっくりさせられます。

タイトルから漫画みたいな感覚で読みはじめると、とにかく良くも悪くも裏切られまくることでしょう。これが50年近く前に発表されたことに驚くばかり。

古臭さは一切ありません。掛け値なしにおもしろい山田風太郎の作品です。

人間臭い柳生十兵衛が描かれる

寛永19年春。暗君を見限った国家老・堀主水が一族とともに会津から出て行くという会津騒動が起こり、当の会津藩主・加藤明成は幕府の許可を得て彼らを捕縛しました。

さらに、連行する道中、鎌倉東慶寺を襲い、彼らの目の前で匿われていた一族の女たちを惨殺してしまうのです。実行したのは会津七本槍と呼ばれる家来たちでした。

寺の後見人である千姫が騒ぎをおさめますが、生き残ったのは堀主水の娘・お千絵を含む7人だけ。堀一族の男たちも処刑され、彼女たちは藩主・加藤明成と会津七本槍への復讐を誓い……。

著者
山田 風太郎
出版日
1999-06-15

復讐相手は武芸に精通していて、とてもではないですが、彼女たちの手にはおえないわけです。千姫が沢庵和尚に相談したところ、柳生十兵衛が師範役を担当することになりますが、彼女たちは武芸の覚えがまったくありません。

女たちを助け、その仇討の手伝いをする十兵衛が、権力にもどんな相手にも屈さず、信じる道のためになら徳川家を滅ぼすこともためらわない激しさと、それでいて無邪気でユーモアも忘れない人物として描かれていて、とても格好いいのです。

山田風太郎だけに相手が、素手で寺の山門を打ち抜いたり、馬を軽々とくびり殺したり、切っても突いても死なかったり……。とんでもない怪物レベルばかりなので、なんの武芸の心得もない女たちの復讐に至るまでの過程ははらはらさせられますが、誰ひとり欠けることがないので、読後感がとても爽やかです。

山田風太郎の忍法物にしては明るい展開をする作品ですので、ぜひページをめくってみてください。

人生の悔いは自分で取り返す! 柳生十兵衛大活躍

紀州藩の徳川頼宣とともに江戸幕府を転覆させ、三代将軍・徳川家光の天下を奪うための企てを進めていた由比正雪は、森宗意軒という名の謎の老人から「魔界転生」なる忍法を見せられました。

それは、並外れた技量を持ちながら、死の直前まで自らの人生に悔いを残している人間が、心から愛しいと思う女と交わることによって、新たな肉体とさらなる優れた技量を持ち合わせて転生できるというものでした。

そうやって蘇った剣豪たちは転生衆と称されます。転生したのは天草四郎時貞、荒木又右衛門、田宮坊太郎、宝蔵員胤舜、柳生如雲斎、柳生宗矩、宮本武蔵……。

森宗意軒がどうしても魔界転生させたい男は、柳生十兵衛でしたが、十兵衛は是とせず、転生衆と戦うことを選ぶのです。
 

著者
山田 風太郎
出版日
1999-04-15

物語の展開が素晴らしく、荒唐無稽さ、ひとを食ったような作戦、意表をついた攻撃など、惜しむことなく描かれています。

山田風太郎の脳みその中身はいったいどうなっていたのだろうと思わざるを得ないくらいのアイディアの乱舞です。普通の作家なら何本かに分けて書くであろうものを1本にまとめてしまう天才ぶり、サービス精神に心から敬服してしまうことでしょう。

映画や漫画などにもなっていますが、山田風太郎の原作がとにかく一番おもしろいと思います。ぜひ読んでいただきたいです。

十兵衛トリロジーのラスト

木津川の河原に倒れていた男は、天下無敵の剣豪・柳生十兵衛でした。死んで、もう開かないはずの目が見開いていて……。

室町時代と江戸の初期と時代を隔てて現れたふたつの陰謀が並行して描かれていきます。
室町の陰謀は三代将軍・義満の皇位簒奪、江戸時代の陰謀は幕府転覆を狙う由井正雪らの慶安の変。

これを阻止しようと動くのがそれぞれの時代の十兵衛(室町では十兵衛満厳)と世阿弥(江戸時代では竹阿弥)です。

著者
山田 風太郎
出版日

タイムトラベルもののの要素を含む、山田風太郎の作品。
ですが、身体ごと時間を移動するのではなく、能を通して、それぞれの時代のもうひとりの自分と人格が入れ替わるという設定がされており、行き先の時代と自分との間で時間の帳尻が合わないというタイムトラベルの矛盾が解消されているのも見事です。

それを70歳で書ききる山田風太郎の才能がすばらしいと思います。

『柳生忍法帖』『魔界転生』から続く十兵衛もののラスト。しっかりと見届けてほしいです。

物語の世界と馬琴のリアルが錯綜する

まずは、滝沢馬琴『南総里見八犬伝』について説明をしておきます。南総の里見家の勃興と伏姫と飼い犬の八房が描かれ、姫の死によって八方に飛び散った珠を授かることになる八犬士たちの物語です。

この部分が山田風太郎風に描かれるのが「虚の世界」、そして原作者である馬琴の日常が描かれるのが「実の世界」という形で構成されています。

新聞連載だったせいもあるのか、とても読みやすく丁寧に書かれた作品です。

著者
山田 風太郎
出版日

もしかしたら原典を超えているのではないかと思わせる程の『八犬伝』の描き方といい、馬琴の家庭や生活について綿密に書いている部分といい、とにかく構成力が素晴らしいとしか言いようがありません。

リメイク版、アレンジ版の『八犬伝』数々あれど、山田風太郎のこの作品は外してはいけないと断言できます。この作品を読み終えた後、馬琴の原典を必ず読みたくなるはずです。

山田風太郎の代表作

中国の「四大奇書」のひとつである「金瓶梅」を元に作られている推理小説です。

主な登場人物としては妻と妾が8人もいる西門慶、その悪友で金欠の応伯爵、色気たっぷりで西門慶の第5夫人の藩金蓮、藩金蓮の小間使いの龐春梅がいます。

中国、宋の時代。名門の西門家で西門慶をめぐっての怪事件が起こります。謎の死を次々と遂げる女たち。そして必ずその近くには藩金蓮の姿が。

応伯爵は藩金蓮がそれぞれの事件の黒幕であることを見破り、彼女に事件の真相をつきつけ、事実を明かそうとしていくのです。

応伯爵の推理力、観察眼の鋭さに脱帽し、彼の金蓮への激しい愛情にも驚かされながら、一気に読み進んでしまいます。

著者
山田 風太郎
出版日
2012-06-22

この物語での一番のポイントは龐春梅です。藩金蓮のお気に入りの彼女ですが、実はただの小間使いなだけでなく、後半に進むにつれて徐々に春梅の本当の姿が明かされていきます。金蓮と春梅の隠されていた関係がわかったとたんに「そうだったのか!」とまた面白くなっていきます。

事件の真相と共に明かされていく、西門慶と金蓮の不思議な純愛。金蓮は、西門慶が使っていた服用後三日以内に男女の関係を結ばないと死んでしまう薬を飲み、西門慶と武松を道連れに死を選ぼうとしますが、結果的に応伯爵が放った矢によって死んでしまいます。

金蓮は女性に嫌われる性格をしていると思います。正直なところ、本当に重い女性です。それにも関わらず、出てくる男性は皆、金蓮に惹かれていきます。それだけの魅力を持ち合わせているのでしょう。

この小説は初めのうちは金蓮の悪女っぷりに驚かされますが、後半に進むにつれ、彼女の心の中、春梅の存在の大きさに引き込まれていきます。推理小説と恋愛小説の二つの要素があるこの作品。初版は1954年の発表ですが古さは感じられないので、山田風太郎作品のデビューにも良いかもしれません。

忍法帖以外のもの、時代小説以外のものを紹介したかったのですが、結局時代ものの紹介になってしまいました。でも、ここにこそ山田風太郎の真骨頂があるように思います。気になった作品からぜひ読んでみてくださいね。

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