「少年犯罪」は、一部の異常な人間が起こした特異なものなのでしょうか。加害者や、犯罪者家族の心の内を読むことで、彼らがなぜ人を殺さなければいけなかったのか考えます。この記事では、少年犯罪をテーマにしたおすすめの小説を紹介していきます。
女子中学生の春日井のぞみが、殺害される事件が発生。容疑者として、同級生の冬野ネガが逮捕されました。ネガは犯行を認めますが、動機については口を閉ざしたまま。しかし捜査を進めるうちに、ネガものぞみも貧困に苦しんでいたという事実が浮かびあがります。
捜査一課の警部補真壁は、数々の少年犯罪を解決した実績をもつ巡査部長の仲田とタッグを組み、事件を担当することになりました。送検までのタイムリミットは48時間。限られた時間で謎を解き明かしていきます。
- 著者
- 天祢 涼
- 出版日
- 2019-10-09
2010年に『キョウカンカク』で「メフィスト賞」を受賞しデビューした天祢涼の作品。本作は2017年に刊行されました。物語は、14歳の少女ネガの視点と、刑事の視点の交互に進んでいきます。
働かなくなった母親と二人暮らしのネガは、周囲に頼れる人間がいません。それでも希望を胸に抱いて何とか生きています。そんななか、同じ貧困に苦しむ親友を得るのです。
少女たちは、希望を見出しては大人たちに突き落とされ、それでも暗い水底から浮き上がろうともがきます。貧困という足枷をはめられた子どもの心の揺れ動きや感性、純粋な友情がリアルに描かれ、読み手を惹きこむでしょう。社会問題とミステリーを見事に組み合わせた作品です。
建設会社に勤める吉永のもとに、数年前に離婚した元妻の純子から連絡が入ります。14歳になった息子の翼が、同級生刺殺の疑いで警察に連行されたというのです。
翼は吉永との面会を拒否し、何も語ろうとしませんでした。吉永は、弁護士から紹介された「付添人制度」を使い、付添人となって事件の動機や真実を探っていきます。
やがていじめにあっていたことを明かしていく翼ですが、殺人に対して反省の気持ちをもてないまま時が過ぎていきます。吉永は、父親としてどう接していくのでしょうか。
- 著者
- 薬丸 岳
- 出版日
- 2017-07-14
2016年に刊行された薬丸岳の作品。「吉川英治文学新人賞」を受賞しました。薬丸は本作にも『天使のナイフ』や『友罪』など、贖罪の在り方に向き合う作品を発表しています。
自分の子どもが犯罪を犯して「少年A」になる……加害者について一切の公表をしない少年犯罪では、たとえ親族であっても情報を得ることができません。真実を知りたくても叶わない吉永の憔悴ぶり、そして息子の言葉を聞くために異例の付添人になる思いの強さに、読者も胸打たれます。
心を殺すことと体を殺すことのどちらが罪深いのか……翼が投げかけられる問いは、誰しもをたじろがせるでしょう。加害者家族の苦悩と、親も含めた更生とは何かを考えさせられる作品です。
いじめにあった過去から「力による支配」に固執する久藤。異常なまでに優しい女性教員の柏木を憎み、殺害します。
一方、恵まれた頭脳と容姿をもつ葛城は、自分の大切なプラモデルを壊した使用人の息子を殺害。
さらに、遊び歩く母親のかわりに祖母と叔母に育てられた神原は、祖母の遺産をだまし取ろうとした実の母親を焼き殺しました。
殺人を犯した3人の14歳の少年は、少年院で地獄のような日々を送ります。出所した後はそれぞれ生活を取り戻そうとしますが、徐々に行き場をなくしていき……。
- 著者
- 貫井 徳郎
- 出版日
3つの少年犯罪を描いた貫井徳郎の作品。2006年に刊行されました。
物語の前半では、3人の主人公の日常がそれぞれ語られます。犯罪に至るまでの心理描写が緻密で、無理がないため、読者も感情移入して殺意を抱いてしまうほど。
後半では、殺人を犯した3人が少年院で出会い、更生に向かって歩き出します。しかし人生の歯車は再び狂い始めるのです。自身のなかにある黒いものに向き合う者、のまれてしまう者、逃げる者……彼らを待ち受けるのはハッピーエンドではありません。少年犯罪を犯してしまう子どもたちの心の軌跡と、現実世界の悲哀を描いた作品です。
山口県の離島で暮らす女子中学生の葵。学校では明るく振る舞うごく普通の少女でしたが、家では、女であることを優先し葵を重荷扱いする母親と、働きもせず暴力をふるう義父との暮らしに苦しんでいました。
夏休みのある日、幼馴染の颯太とゲームセンターで遊んだ帰り道に、同じクラスの静香から声を掛けられます。クラスでは目立たない存在の静香は、港で見つかった水死体を一緒に見に行こうと葵を誘いました。
静香と会話をするようになった葵は、冗談半分で一緒に義父を殺す計画を立てて……。
- 著者
- 桜庭 一樹
- 出版日
- 2007-12-23
2005年に刊行された桜庭一樹の作品。「中学二年生の一年間で、あたし、大西葵13歳は、人をふたり殺した」という衝撃的な独白で幕を開けます。
本作で描かれるのは、家庭からの脱出を望む2人の少女の戦いの物語。彼女たちは、「自己防衛」のために人を殺さざるをえませんでした。殺人という衝撃的な展開と、あまりにも普通の学校生活が並行して描かれるため、かえってリアリティがあるでしょう。
学校と家という自分では変えられない閉鎖的な環境で生きる彼女たちに、別の選択肢はあったのでしょうか。主人公を「犯罪者」という向こう側の人として描くのではなく、あくまで健全な精神をもったひとりの少女として描くことで、その未熟な心が抱える葛藤に心ゆさぶられる作品です。
名門高校に通う優等生の櫛森秀一は、母親と妹の3人で、平和に暮らしていました。ところがある日、10年前に母親と離婚した義父の曾根が現れ、生活が一変します。
家に居座って傍若無人に振る舞い、一家の幸せを踏みにじる曾根に対し、秀一は法的手段に訴えます。しかし法律も警察も助けてくれないことを知り、さらには妹にまで手を出そうとする曾根を見て、殺害する決意を固めました。
用意周到に計画を立て、決行。しかしあることをきっかけに第二の殺人を犯してしまい……。
- 著者
- 貴志 祐介
- 出版日
- 2002-10-25
1999年に刊行された貴志祐介の作品。2003年には映画化もされました。
単に少年犯罪を描いた物語ではなく、秀一にとっての正義と、大切な家族への愛情が描かれているため、どうしても犯罪者側に感情移入してしまうでしょう。彼は知能も行動力もあり、完全犯罪を計画するのですが、それでもまだ17歳。未熟な部分がありました。
すべてが露見した後に、初めて自分を客観的に見ることができた秀一は、やはり家族を守るため、最後の手段を選択。悲しくやるせないラストに、読後も深い余韻を残す一冊です。
「ぼく」が住むニュータウンで、9歳の女の子の遺体が発見されました。逮捕されたのは、なんと13歳だった「ぼく」の弟。残された家族の居場所はなくなり、両親は離婚、妹は姓を変えて転校します。
しかし「ぼく」は、どこにいても状況はかわらないと、もともと通っていた中学校に戻る決意をするのです。
弟はなぜ少女を殺したのか……辛い現実と向き合いながら、真相を探っていきます。
- 著者
- 石田 衣良
- 出版日
1999年に刊行された石田衣良の作品。1997年に起きた「神戸連続児童殺傷事件」をベースにしています。
加害者家族となった「ぼく」の一人称と、新聞記者を中心とした三人称が入り混じった構成は実に巧み。センセーショナルな事件に対する社会の反応に警鐘を鳴らしながら、主人公の孤独な闘いを描くのです。
二重人格や少年犯罪、加害者家族にふりかかる厳しい現実など、これ以上ないほど重く暗いテーマですが、作者が登場人物に注ぐ優しい眼差しがストーリーを支えます。弟を思う「ぼく」の成長には心惹かれるものがあり、少年犯罪に新しいアプローチをした作品だといえるでしょう。