ラテンアメリカ文学おすすめ6選!ガルシア・マルケスやマジックリアリズムなど

更新:2021.11.22

ラテンアメリカ文学というと、日本人にとってはあまり馴染みがないかもしれません。定義としては南米で書かれた、もしくは南米出身の作家が書いた文学です。20世紀後半に「マジックリアリズム」と称される特徴的文脈で世界的に注目され、数々の名作が生まれました。この記事では、読んでおきたいおすすめのラテンアメリカ文学を紹介していきます。

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ラテンアメリカ文学を代表するおすすめ作品『百年の孤独』

 

コロンビアのリオアチャで、豚のしっぽがはえた子どもが生まれました。原因は、近い血縁での婚姻が続いたこと。奇形児を見たウルスラは、又従弟で夫となったホセとの性行為を拒否するようになります。

夫婦は故郷を離れてジャングルを放浪し、新しい村「マコンド」を開拓。奇形児を生まないよう、血縁関係の婚姻を禁止する家訓を残すのです。

その後マコンドは繁栄していきますが、100年後、ウルスラの玄孫であるアマランタと甥のアウレリャノが恋をし、家訓は破られることに……。

著者
ガブリエル ガルシア=マルケス
出版日

 

コロンビア出身の作家で、「ノーベル文学賞」を受賞したガルシア=マルケスの作品。1967年に発表されラテンアメリカ文学ブームを巻き起こし、「世界傑作文学100」にも選ばれています。

ガルシア=マルケスは、「マジックリアリズム」を代表する作家です。登場人物の心理に寄り添うことなく、ルポルタージュ的に書き綴られる文体はまるで神話のよう。ファンタジーにならない絶妙なバランスで結び付いた、現実と非現実の描き方が特徴的です。

ウルスラの一族ブエンディアは、「豚のしっぽ」を恐れて家訓を守り、繁栄していきますが、彼らはあまり幸せではありません。力強く飄々と流れる時代の根底には、一族の孤独が存在し続けています。

長い時を経て、愛によって生まれた「豚のしっぽ」の生えた子どもが誕生することで、一族は衰退。人々の記憶から蜃気楼のように消えて無くなります。しかしそのラストシーンは、安堵と幸福に満ちているのです。

世界的ベストセラーになったおすすめラテンアメリカ文学『アルケミスト 夢を旅した少年』

 

スペインで羊飼いをしていた少年サンチャゴは、夢のお告げでピラミッドの下に財宝が眠っていることを聞きました。今の生活を捨てることに迷いましたが、偶然出会った老人に導かれ、旅を始めます。

しかし、途中で盗賊に騙され無一文に。クリスタル商人のもとで働いてお金を貯め、再び旅に出ようとしますが、ピラミッドを目指すことを話すと笑い飛ばされてしまいました。

エジプトがいかに遠いかを知ったサンチャゴは打ちのめされ、夢を諦めて、再び羊飼いをしようと考えるのですが……。

著者
パウロ コエーリョ
出版日

 

ブラジルの作家パウロ・コエーリョの代表作。1988年に刊行されました。原著はポルトガル語で書かれたものの、世界的ベストセラーになり、文化現象を起こします。

謙虚で、何にも染まっていない少年サンチャゴが夢を追求する冒険譚。人生の複雑さや心理の追求ではなく、自己啓発的な内容です。一見単純に見えますが、ポジティブシンキングの思想が描かれた、ひたむきな作品だといえるでしょう。
 

どんな困難に直面しても試練ととらえて克服し、成長していく主人公の姿には、夢や運命を求めて生きる知恵が詰まっています。宝物のような言葉が散りばめられているので、何度も読み返したくなる物語です。

キューバ革命を起こしたチェ・ゲバラの日記『モーターサイクル・ダイアリーズ』

 

アルゼンチンの医学生エルネストは、医師で親友のアルベルトとともに、1台の中古バイクにまたがって南米大陸を横断する旅に出ます。

旅の方針は「行き当たりばったり」。お金もありません。彼らは何を見て、何を感じたのでしょうか。

著者
エルネスト・チェ ゲバラ
出版日

 

フィデル・カストロとともにキューバ革命を牽引した、活動家のチェ・ゲバラ。彼の運命を変えた旅の記録を、本人が綴った日記です。公開を前提とはしていませんでしたが、1997年に『モーターサイクル南米旅行日記』として刊行され、2004年には映画化もされました。

作品全体におおらかな雰囲気が漂い、南米の美しい風景やスナップ写真が掲載されていて、男2人の無茶な旅の様子を楽しめます。

しかしこの旅でチェ・ゲバラは、ラテンアメリカの過酷な現実を見ました。貧困、インディオへの差別、ハンセン病患者との出会いなどをとおして、裕福な家庭に育った彼が理想主義に燃え、革命へと目覚めるさまが、日記ならではの臨場感で迫ってくるでしょう。

チェ・ゲバラに興味がある人はもちろん、当時のラテンアメリカの空気を肌で感じたい人にもおすすめです。

ラテンアメリカ文学の世界観を楽しめる短編集『伝奇集』

 

架空の人物や書物、評伝などを使って読者を迷宮に誘い込む短編集。我々がもっている宇宙観や時間の概念を揺るがし、ラテンアメリカ文学特有のリズム感と、シニカルな視線が混交した世界が展開されます。

人間の生とは他者の見ている幻に過ぎないのではないかと疑う「円環の廃墟」、宇宙の隠喩である図書館の物語「バベルの図書館」などの代表作が収録されています。

著者
J.L. ボルヘス
出版日
1993-11-16

 

アルゼンチンの作家ホルヘ・ルイス・ボルヘスの作品。1944年に刊行されました。全17編が収録されています。

ボルヘスは、「引用」という行為自体が、引用元の内容とは別にそれ自体で意味をもっているという認識にいたり、新しい形の創作を生み出します。哲学や宗教を扱う手腕は素晴らしく、物語のそれぞれに無限の宇宙が封じ込められているのです。

表紙の気難しそうな人物像そのままに、真偽のほどがわからない引用や哲学めいた言葉が多く、とっつきづらい印象もありますが、読み進めていくと、短いなかにも根源的なテーマを描いていることがわかるでしょう。余計な説明をそぎ落とした文体だということにも気づきます。

ボルヘスの作品のなかでは読みやすいものなので、まずは本作から手にとってみてはいかがでしょうか。

カストロ政権に弾圧された小説家の壮絶な自叙伝『夜になるまえに』

 

キューバ出身のレイナルド・アレナスは、20歳で小説を発表し、海外でも評価されて名声を高めます。しかし作家であること、さらには同性愛者であることから、反カストロの疑いをかけられ投獄されてしまいました。

釈放された後は、難民にまぎれて自由の国アメリカへ亡命。しかし、彼の身体はエイズに侵されていたのです。

アレナスは迫りくる死を感じながら、極貧の少年時代から同性愛者として性の冒険をくり広げた青年期、そして文学との出会いなどを思い返し、魂を込めた自叙伝を書き進めます。

著者
["レイナルド アレナス", "Arenas,Reinaldo", "哲行, 安藤"]
出版日

 

レイナルド・アレナスの壮絶な一生を描いた自伝小説です。彼自身は病苦による自殺で1990年にこの世を去っています。本作は1997年に刊行され、2000年には映画化もされました。

政治や思想の良し悪しを語ったものではなく、アレナスというひとりの人間が自由を求める叫びだとわかります。内容は過酷すぎるものですが、一方で文章からは明るさが感じられ、鬱々とした気分にならないのが不思議です。押さえつけられれば押さえつけられるほど自由への強い欲求が溢れ出し、輝きを放つように感じられるでしょう。

亡命先のアメリカで見た資本主義は、彼を自由にしたのでしょうか。読者に投げかけてくる一冊です。

ラテンアメリカ文学の象徴マリオ・バルガス・リョサのおすすめ小説『楽園への道』

 

物語の舞台は、19世紀なかばのヨーロッパ。「花と悲しみ」という意味の名をもつフローラ・トリスタンは、結婚制度に疑問を抱き、夫から逃れて自由を求めました。虐げられた女性と労働者の連携のために、その生涯を捧げます。

一方でフローラの孫ポール・ゴーギャンは、絵画のためにブルジョワの生活も文明も捨て、本能のまま原始人のように生きることを選びます。芸術の再生を夢見ながら波乱の生涯を送るのです。

著者
マリオ バルガス=リョサ
出版日
2017-05-08

 

ペルー出身で、ラテンアメリカ文学を代表する作家マリオ・バルガス・リョサの作品。2003年に刊行されました。

男女平等と労働組合の創設を説いた革命家フローラ・トリスタンの激動の生涯と、その孫で有名画家であるポール・ゴーギャンの話が交互に描かれます。2つの物語が直接交わることはありませんが、奇妙なかたちでシンクロしていくのです。

『楽園への道』というタイトルとはほど遠く、内容はフローラの報われない戦いと虚しい死、そしてゴーギャンが経験した厳しい現実が綴られています。それに対して第三者的な語り部の、彼らに対する理解と慈愛に満ちた語り口が魅力でしょう。

「ここは楽園ではない」という現実を突きつけられても、それぞれのユートピアの実現を信じて生き抜いた勇敢な姿に、読者は圧倒されるのではないでしょうか。

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