「R-18文学賞」歴代受賞作おすすめ5選!女による女のための小説

更新:2021.11.22

名称からして背徳感のある「R-18文学賞」。女性ならではの感性を生かした小説を対象に、受賞作もすべて女性が選んでいます。複雑な心情を描いたものや、攻めた性描写を描いたものもあり、さまざまな角度から楽しむことができるでしょう。この記事では賞の概要を解説したうえで、歴代受賞作のなかから特におすすめ小説を紹介していきます。

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「R-18文学賞」とは?賞の趣旨や種類を解説

 

「R-18文学賞」の正式名称は「女による女のためのR-18文学賞」。新潮社が主催する公募の新人文学賞です。賞に応募できるのは女性限定。さらに選考する編集者や作家も女性が担当しています。年齢制限はありません。

第1回が開催されたのは2002年。当初は「女性が書く、性をテーマにした小説」を対象にしていて、女性のための官能的な作品を作り出すことを目指していました。しかし時代が流れるにつれて、それまでタブー視されてきた女性が性について書くことが当たり前となり、社会的役割を果たしたとして、第11回からは「女性ならではの感性を生かした小説」を対象にしています。

また「大賞」のほかに「読者賞」も設けられています。こちらは最終候補に残った作品をWeb上で公開し、女性読者の投票で選出されるものです。

近年は「R-18」という枠から外れ、性に振り回されるだけだった女性が性を謳歌するなど、新しい価値観を感じられる作品と出会うことができるでしょう。

 

映画化もされたおすすめ「R-18文学賞」受賞作『マンガ肉と僕』

 

大学生のワタべは、気が弱く、人付き合いも苦手。とても太っている熊掘サトミと偶然知り合い、家に居つかれてしまいました。サトミの態度はどんどん大きくなり、生活も金銭面も圧迫されていきます。

そんな時、新しく始めたアルバイト先で専門学生の菜子と出会うのです。サトミとは正反対のかわいらしい彼女に惹かれたワタべは、サトミを家から追い出す決心をしました。

時は流れて10年後。社会人となったワタベのもとに、学生時代の友人から連絡がきます。あの時とはまったく違うサトミの現状を知り……。

 

著者
朝香 式
出版日

 

2013年に「R-18文学賞」で大賞を受賞した作品。2016年には映画化もされました。主人公を変えていく連作短編集で群像劇が描かれます。

とにかく登場人物が個性的。不倫をする既婚者、不倫相手との子どもを生みたい女性、嘘をついてしまう女性……みなどこかがズレていて、いびつで、壊れているようにも見えるのですが、それこそが人間の根底にあるものなのではないかと思わせてくれるのです。いわゆる草食系男子のワタベが彼らと出会い、一筋縄ではいかない関係を築きながら生きていきます。

基本的には日常と、やや一方通行ぎみの恋愛模様が描かれているので、暗い気持ちにはならず、一気読みできるでしょう。

 

女性の内面と欲望を描いた「R-18文学賞」受賞作「べしみ」

 

自分の女性器があるはずの場所に、ある日突然知らないおじさんの顔がついている……。

驚愕の設定で物語は始まります。結婚、夫婦関係、夜の営み……アラフィフの女性たちには思い悩むことがたくさん。女として男に愛されたいという欲望が引き起こす、ありのままの女性たちを描いた短編集です。

 

著者
兆子, 田中
出版日

 

2011年に「R-18文学賞」で大賞を受賞した、「べしみ」が収録された作品です。「べしみ」というのは、鬼神のような造形をしたお面のこと。下あごに力が入り、口を横に結んだ天狗のような顔をしています。

作中には、40代の女性が6人登場。婚活を頑張っていたり、夫とのセックスレスに悩んでいたり、夫の浮気に気づかないふりをしたり、アルコール依存症だったり……それぞれの結婚観や家族観、セックス観が語られます。

社会や周囲の目を気にしながら、諦めや焦りを感じながらも生きている彼女たちの内面と欲望がこれでもかと描かれていて生々しい反面、きっと誰しもが抱いたことのある感情だからこそ生々しいと感じるのだと思わせてくれるでしょう。

 

秘めている愛のカタチを垣間見れる「R-18文学賞」受賞作『自縄自縛の私』

 

立花百合亜は、ブラック企業さながらのサービス残業や職場内のいじめで、ストレスを溜める日々を過ごしていました。そんな彼女の唯一の嬉しみは、大学時代からハマっている「自縛」。

もちろん周りの人には秘密にしていましたが、ブログをとおして共通の趣味をもつ人と出会い、自分をわかってくれる存在がいることを知ると、自縛行為も徐々にエスカレートしていくのです。

 

著者
["蛭田 亜紗子", "くまおり 純"]
出版日

 

2008年に「R-18文学賞」で大賞を受賞した蛭田亜紗子の作品。受賞時の「自縄自縛の二乗」から改題され、また2012年には映画化もされました。

表題作のほか、使用済みのコンドームを収集したり、複数の性行為を楽しんだり、覗きが趣味だったり、全身をゴムで包まれれるのが好きだったりと、さまざまなフェティシズムをもった女性たちが登場。それぞれの愛のカタチを追求していきます。物語をとおして、見てはいけない秘め事を垣間見れるのが魅力でしょう。

特に「自縄自縛」では、縛られているにも関わらず、むしろ開放的で爽快なのが印象的。やがて彼女の趣味が上司にバレてしまい、意外な結末を迎えるラストまで注目です。

 

「R-18文学賞」で2冠をとったおすすめ小説『花宵道中』

 

物語の舞台は、江戸時代末期の吉原。

遊女として働く朝霧は、男に心を動かしてはいけないという吉原の掟に従い、仕事と割り切って己の役目をこなしていました。

同業の女性と出かけた縁日で、半次郎という青年に出会い、恋をします。しかし遊女の自分は彼を愛することができず、初めての恋の苦しみを抱えながらも、これまでどおり数多の男に抱かれる日々を送るのです。

やがて半次郎からの連絡は途絶え、朝霧にも身請けの話が持ち込まれました。究極の選択を迫られた彼女は……。

 

著者
斉木久美子
出版日

 

2006年に「R-18文学賞」で大賞と読者賞を受賞した宮木あや子の作品。江戸時代の遊郭を舞台に切ない恋模様を描いた、連作短編集です。 2014年には映画化もされました。

そもそも彼女たちは、人さらいや人身売買で遊女になり、生きるだけで精一杯。辛い過去とどうしようもない現実に、胸が張り裂けそうになります。さらに恋のジレンマに悩む姿は切ないでしょう。

一方で、女性同士助けあい、力強く生きていこうとする姿には勇気ももらえるはず。色香漂う文章も魅力的な一冊です。

 

揺れる女心を描いた「R-18文学賞」受賞作「ねむりひめ」

 

女子高生のゆかりは、高校生活最後の夏にあることに気がつきます。それはセックスという行為と、愛の違いについて。

友人の彼氏やホームレス、顔も知らない男たちとするのは1度だけと決めているのに、好きな人には何度でも触れてほしいという気持ちが溢れてくるのです。

大好きな彼氏がいるにも関わらず、好きでもない人と寝ている自分……大人と子どもの間で揺れ動きます。

 

著者
吉川 トリコ
出版日

 

2004年に「R-18文学賞」で大賞を受賞した、「ねむりひめ」が収録されている作品です。

少女から女性へと変化する自身の体と心についていけず、揺れる気持ちを描きます。本作が面白いのは、彼女自身の心がとても純粋なところ。不特定多数の男性と関係をもちながらも、ゆかりには心の底から好きな人がいて、切ない恋心が綴られているのです。不安と焦り、そして日々とてつもない速さで成長していく彼女の心が優しい文章で綴られていきます。

そのほか表題作の「しゃぼん」では、歳をとることを受け入れられない30歳の女性が主人公。若さを失うことを見たくなく、仕事をやめて引きこもり、風呂にも入らず食べて寝るだけの生活をします。一段飛び越えて「おばさん」となった彼女が、現実を受け入れて立ち直る様子が滑稽ながらも痛快なお話です。

 

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