直木賞作家桜木紫乃のおすすめ作品6選!

更新:2021.12.14

直木賞を受賞した『ホテルローヤル』にて一躍有名になった桜木紫乃。受賞直後のインタビューで明らかになった生い立ちや、あまり知られていない詩人としての一面にも迫りつつ、作品を紹介していきます。

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直木賞作家桜木紫乃

桜木紫乃(サクラギ・シノ)は北海道の釧路で生まれ育ちました。高校卒業後に就職、結婚後退職して専業主婦となり、二人の子供の母親となっています。二人目の出産後に小説を書き始め、「北海文芸」という文芸誌にて活動。単行本デビューは2007年の『氷平線』でした。釧路市以外にも北海道の様々な地域で居住経験があり、多くの作品で北海道が舞台となっています。

デビュー当時「新官能派」のキャッチコピーが与えられたように、性愛文学の作家として知られています。直木賞受賞直後のインタビューにて、「ホテルローヤル」とは実在したラブホテルの名前で、実家が経営していたのだと語っていました。

桜木紫乃はデビュー前に、金澤伊代というペンネームで詩人として活動し詩集も発表しています。そのひとつ『海のかたち』は、その中から選ばれた四編が北海道教育大学の教員の手によって合唱組曲となりました。新国立合唱団によって歌唱されるなど、詩人としての功績も確実に残しています。

女にとって「書く」こととは

舞台は北海道・江別。主人公は、作家になる夢を抱きながら、離婚した夫からの慰謝料と少しばかりの月収で細々と暮らす40代の女性・柊令央。文学賞に応募しては落選し、ビストロで働く彼女の前に、編集者・小川乙三が現れます。令央に辛辣かつ的確な批評をする乙三。その乙三の言葉に導かれるように「書き」始める令央。この出会いによって令央の運命が変わり始めます。

令央は母親・ミオの人生を書くことを決意。20才で令央を生んだミオの人生と隠し続けた秘密、そして令央自身のこれまでのこと。自分の半生と向き合うことを決めた令央は、徐々に「書くこと」にとりつかれていきます。

著者
桜木 紫乃
出版日
2017-09-29

桜木紫乃はこの作品を出版するにあたり、「書けても恥、書けなくても恥」とコメントを残しています。そのことから、もしかして自叙伝的な作品なのではと感じ、いや、そう思わせる作者の手腕かもしれないとも感じます。

自分の半生と母の秘密を書くことによって変わっていく人間関係。作家とは、自らの身を削り、人生を切り売りし、苦しみながら作品を生み出しているのかもしれないと感じさせる作品です。

雪深く、厚い雲に覆われた江別の風景と、今まで閉ざしていた自分自身と向き合う決意をした令央。リアルな一人の女流作家の姿がここにあります。

ラブホテルが舞台のオムニバス

まずは直木賞を受賞した作品から。紹介した通り、タイトルは実家が経営していたラブホテルの名前をそのまま使用したそう。作者も知らないうちに実家のホテルローヤルは廃業していたそうで、実在の建物が失われる一方で作品の方が後世に残るものとして選ばれたことに、不思議な縁を感じたとのことです。

ラブホテルを舞台に、オムニバス形式で書かれた連作短編集。全七編で、既に廃業したホテルローヤルに写真撮影をしにやってきたカップルの話から始まります。編が進むにつれて時系列的には遡っていく形となり、廃業直前のすたれた様子、経営が傾くことになったきっかけのある事件、最後の七話目ではホテルローヤルが誕生した当時のことが描かれています。

 

著者
桜木 紫乃
出版日
2015-06-25


少しずつリンクする物語に出てくる男女が情愛を交わして行った場所。ただし題材から予感させるような重さはありません。染み付いた特有の寂寥感がなんとも切なく、しかし最後には開業当時の明るさに救われるようなストーリー運び。ラブホテルという場所を舞台に綺麗な物語を描き切った作者の手腕に唸らざるを得ない作品です。

タイトルとは裏腹に愛に満ちた物語

桜木紫乃がブレイクするきっかけとなった作品です。直木賞にもノミネートされており、『ホテルローヤル』が直木賞を受賞したのと同じ年に、こちらは島清恋愛文学賞を受賞しています。

道東の開拓村で貧しく育ち、奉公に出された後で旅芸人一座に飛び込んだ、百合江という女性。一方妹の里美は地元に戻り、堅実な道を歩んでいきます。対照的に人生を歩んだ二人の姉妹を中心に、その母や娘を含んだ三世代の女性たちの人生を描く長編作品です。

 

著者
桜木 紫乃
出版日
2013-11-28


様々な外的要因に左右されざるを得ない女性たちの生き方。時代特有のものもあるかもしれませんが、女性たちが感じる不自由さや、それを作り出す社会構造はきっと現代も大きく変わってはいません。人生とは、という問いに答えるヒントになりそうなものがぎゅっと詰め込まれた作品です。ラブレスというタイトルですが、全編を通じて、愛は確かにそこにあったのだと感じることができます。

何が本当の幸せなのか

読了後、「幸せ」とは何かを深く考えたくなるような一作。こちらの作品も舞台は北海道です。高校卒業後に、二十も年上の男と東京に駆け落ちした順子という一人の女性。その同級生と家族にあたる女性たちを描く物語です。

 

著者
桜木 紫乃
出版日
2016-06-16


故郷を離れ、極貧の生活を送ることになる順子のことを不幸だと思い込むことで、自分の境遇を幸せだと思おうとする女性たち。だけど順子本人は「幸せ」なのだと言っています。

自分が望む幸せと他人から見た幸せ。どちらが本当の幸せなのか、答えが出ることはないのだろうと思いながら、考えてみたことがある人も多いのではないでしょうか。救いが無いようにも思えますが、最後まで読めば心の中に小さな光のような何かが残る作品です。

北海道の女たちを描く短編集

こちらは北海道の様々な地方が舞台となった作品が七編収録された短編集。大都市札幌の他、過疎に悩む農村や漁村として栄えた頃の栄光にすがる地方都市など、北海道ならではの風景の中で人生を送っていく様々な女性たちの姿が中心に描かれています。

 

著者
桜木 紫乃
出版日
2013-01-25


登場する女性たちは、恵まれているとは言い難い環境のもとで力強く生きている者ばかり。様々な事情を抱えながらもその日その日を一生懸命に生きています。

強い意志や潔い決断力を持つ彼女たちの誰かに、きっと勇気をもらえるはず。したたかな生き方は北の大地に根を張るゆえに身に付いたものでしょうか。北海道に長らく居を構えている作者だからこそ作ることができた物語なのだろうと強く感じます。

縁が切れる場所、繋がる場所

こちらも北海道が舞台となった短編集。六編が収録されています。「無縁」という共通するテーマがあり、登場するのは近しい人と別れて孤独に生きていく人々。しんと寂しい雰囲気は、やはり舞台あってのものだと感じます。

 

著者
桜木 紫乃
出版日
2015-03-06


表題作は『起終点駅 ターミナル』というタイトルで2015年に映画化されました。心に深い傷を負い北の大地で孤独に生きる男が、こちらもまた傷を抱えた女と少しずつ関わり合う中で、人の温かさに触れ、お互いに心を溶かしていく物語です。

終着点だと思ったところがやがて始発点になっていく。万々歳のハッピーエンドが描かれるわけではありませんが、どの編の終わりにも希望を見出さずにはいられません。しんみりとした空気の多い桜木作品の中でも、明るさを感じ取ることができる北海道の物語と言えるかもしれません。

北の大地という舞台を存分に生かした桜木紫乃の作品を紹介しました。共通して感じられる寂寥感は、作者の目を通じて見たその地そのものなのかもしれません。桜木紫乃だからこそ描けるそんな世界を、これからも見せて欲しいと思います。

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