傑作ハードボイルド小説おすすめ5選!【日本作家編】

更新:2021.12.14

テレビで味わうスリルとはまた違った感覚を味わえる、ハードボイルドな小説を5作品ご紹介させていただきます。作者の筆力で表現される、ハラハラドキドキの躍動感を味わえるはずです。

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真の正義をめぐるハードボイルド小説

所轄署の捜査二課暴力団係の刑事の仁義なき闘いを描いた超ハードボイルドなストーリーが綴られています。

舞台は昭和63年の広島。違法捜査やヤクザとの癒着などの黒い噂をされるほどの独自捜査を貫くベテラン刑事大上は、新米刑事日岡とコンビを組むことになります。二人は、ある組の企業の社員が行方不明になった事件を追うことになるのです。

その事件を発端に裏社会に激風が吹き荒れます。手荒に捜査を進める大上に日岡は戸惑いの連続でしたが、組同士の対立が抗争の火種となり、それを止めるべく奔走していくのです。二人の熱いキャラに息をつく間もなくハラハラドキドキさせられ、巧妙に仕掛けられたストーリーと謎かけに最後まで読む手が止まりません。

 

著者
柚月裕子
出版日
2015-08-29


広島弁で交わされるテンポのよいやり取りが、リアリティを生み出す要因になっているのではないでしょうか。徐々に加速する展開と、惚れ惚れしてしまう程の男気に臨場感溢れる描写がハラハラドキドキの怒涛のラストを演出します。

そしてなんと言ってもプロローグの意味がエピローグで一気に結びつくとき、そのどんでん返しにはかなりのやられた感に襲われるでしょう。

正義とは?そして信じることとは何かと、葛藤し続けた果てに出した日岡の答えに深く考えさせられます。疾走感と躍動感で読み手を高揚させスリルをたっぷり堪能できる作品です。

デコボコ漫才コンビ

直木賞を受賞した『破門』へと続く「疫病神」シリーズの第一弾!!笑えるデコボコなコンビが繰り広げるハードボイルド小説です。

建設コンサルタントの二宮が産廃業者の小畠の依頼を請け負うところから物語は始まります。

小畠は、廃材の処分場を作るという計画を進めていました。しかし、いざ申請するとなって地元の水利組合は補償金を上積みしてきたのです。困り果てた小畠は、それを回避し、組合長の同意を得たいという依頼を二宮にしてきました。そして調査をしていく二宮は、この計画の裏に暴力団が大きく関わっていることを突き止めるのです。

 

著者
黒川 博行
出版日
2014-12-25


父が暴力団員だった二宮は、その関係で、建設工事を妨害してくるヤクザをヤクザによって制する“サバキ”と言われているものの仲介をしていました。そこで二宮は、いつものようにサバキの斡旋をしている暴力団の幹部である桑原に依頼することにします。

一方サバキを仕事にしていた桑原は、とある現場のサバキの費用が支払われないという事態になっていました。ここでタイミングよく二宮が受けた依頼を手放すまいと躍起になる桑原と二宮の、お互いを巻き込んだスリリングな4日間が始まるのです。

二宮と桑原が、互いを疫病神と罵り合いながらも、漫才テンポで交わされる関西弁の会話は読み手を引きこみ、繰り広げられる暴力の中に笑いを湧き起こさせてくれます。標準語では表現しようのない世界観のある作品です。

炎上が加速していく展開にハラハラドキドキが止まりません。同時にその場にいるかのような情景描写が読み手の心を掴みます。そして、ヤクザは悪人、という思いを持っていても人間味を持たせていることで、憎めない甘さを植え付けられてしまいます。気づくと二人を応援してしまっている自分にハッとしてしまうのではないでしょうか。

何かを解決するためとはいえ危ない橋を渡ってきたことへの戒め、そんなひとり勝ちさせないクライマックスに清々しさを感じさせてくれる1冊です。

不条理と理念

D機関に所属するスパイ結城中佐を中心に世界各地で展開される、スパイ任務の疾走感溢れる物語が綴られている連作短編集です。

軍部から猛反発されるも作られたスパイ養成機関。それまでのスパイ選抜法ではなく、一般の大学出身者から優れた人材が集められていきます。そして、指導者である結城中佐の理論に基づき養成されていくのですが、その理論はとてつもなく孤独で哀しく苦しいものでした。

しかしその理論のもと、恐ろしくも哀しい自負心が彼らを動かし、冷静に賢く任務こなし着実に成果をあげていくのですが、次第に指導者の統計が崩れていくのです。

 

著者
柳 広司
出版日
2011-06-23


飾り気のない読みやすい文章が、先へと読み急ぎたい気持ちにさせ、あっという間にラストまで導いてくれます。そして、冷たく暗い感覚が肌に伝わる情景描写が大戦前の情景や雰囲気が凄く伝わり、最後まで目が離せません。

私たちが目にしてきたスパイ映画とは違い、冷たく乾いた人間描写が本来のスパイの姿を連想させ、その環境の不条理さが胸に渋い痛みを与えるのでしょう。超人的な肉体と怜悧さで任務をこなしていくも、孤独で亡霊のように日々を過ごすその様は、読み手に寂しさを湧き起こさせるかもしれません。

あなたは何かに命をかけることができますか?常に危険と隣り合わせのスパイたちの、命をかけた壮絶な戦いを本作でご堪能ください。

孤独と信念の先に

一匹狼の鮫島警部が、拳銃の密造事件を追っていくストーリーが綴られています。直木賞を受賞する『新宿鮫 無間人形』へと続く「新宿鮫」シリーズの第一弾です。

キャリア組のエリートである主人公の鮫島警部は、強い正義感から公安内部の闇に首を突っ込み出世コースから外れてしまいます。しかし新宿署に飛ばされるも、少しの妥協もすることなく、誠実さとかげひなたなく何事にも屈せず常に検挙率トップの鮫島。その姿勢に警察組織からも憎まれてしまうのですが“新宿鮫”と呼ばれ、ヤクザからも一目置かれるようになっていくのです。

 

著者
大沢 在昌
出版日
2014-02-13


孤立し、過去の傷からコンビを組まず単独で行動していく一匹狼の鮫島。そんな中、拳銃の密輸を行っている木津を追っていた鮫島ですが、木津の拳銃によって警官が二人殺害されてしまいます。

孤立し助けも味方もない中、恋人に癒されながら懸命に事件を追っていく鮫島。しかし、犯人の巧妙な罠にかかってしまい、絶体絶命に危機に襲われてしまうのです。孤立無援の中むかえる鮫島の運命に、緊迫感と臨場感あふれる情景描写が読み手の鼓動を加速させます。

複雑な構成ではないので、とても読みやすく一気に中へ引きこまれていくことでしょう。鮫島の信念に惹かれ陰で協力する人たちの人物描写が、登場人物の魅力を最大限に引き出していて、心地よくじんわり広がる温かさが感動を与えてくれる作品です。

渋い情感の漂うハードボイルド小説

私立探偵の沢崎が、行方不明のルポライターの調査をしていき、過去の事件の全貌を暴いていく長編です。

西新宿の高層ビルの並ぶ街はずれに事務所をかまえる沢崎。私立探偵をしている彼のもとにルポライターの消息を探ってほしいという依頼が舞い込みます。調査に乗り出す沢崎は、この行方不明の事件と過去の東京都知事狙撃事件が繋がっていることを突き止め……。

 

著者
原 りょう
出版日


交わされる会話が沢崎の情感を巧みに表現し、読み手を夢中にさせてくれます。法の網を掻い潜りグレーゾーンで調査を進めていく中で見る男の世界を、人間描写が際立たせ、物語に臨場感を与えているのでしょう。

静かに展開していき徐々に加速していくも、クルンとひっくり返される展開に、あれよあれよと一気に読まされてしまいます。依頼人との絶妙な男女の糸の引き合いに筆力の深さを感じ、この巧みさが読み手を魅了するのだと感じられる作品です。

乾いたテンポで、しかし巧妙に練られ展開されていくストーリー。詰まることなく読み進めることができ、あっという間に中へ引きこまれていきます。

今では失われつつある人の密接したかかわりを思い起こさせ、大切な何かを気付かせてくれる1冊でもあるのではないでしょうか。

最後までお読みいただきありがとうございました。ハードボイルドな男の世界。テレビでは味わえない小説だからこそ感じられる感覚に感動を覚えるのではないでしょうか。淡々と過ぎる日々の中で、激しいハードボイルドな世界のスリルをご堪能ください。

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