家庭裁判所は、少年事件や家事事件を処理するための裁判所です。そこで働く国家公務員職のひとつに「家庭裁判所調査官」という職業があります。 事件を適切な方法で解決するために「調査」や「調整」をおこなうのが、家庭裁判所調査官の仕事です。 資格が不要のため社会人からの転職も可能で、年収も安定しています。そのため試験倍率は高くなっていますが、やりがいある仕事であることは間違いありません。 この記事では家庭裁判所調査官の全貌と採用試験の内容などを解説します。記事の最後にはおすすめの書籍も紹介しているのでぜひご一読ください。
家庭裁判所調査官(家裁調査官とも呼ばれる)は、裁判所のなかで調査や調整をおこなっている人たちのことです。司法の現場で働いたことのない方にとっては耳慣れない職業かもしれませんが、事件の適切な解決には欠かせない国家公務員職のひとつなのです。
家庭裁判所調査官の仕事は主に「調査」や「調整」です。心理学、社会学、社会福祉学、教育学などの専門的な知識を使い、家庭内の問題の解決や非行少年の立ち直りをサポートしています。
▶︎家事事件
家事事件では、当事者や子どもにとって最も適切な解決方法を検討します。問題の原因を調査し、必要に応じてカウンセリングなどの方法を用いて心理的援助もおこなっていきます。
裁判官は、家庭裁判所調査官の報告に基づいて事件の解決に向けた審判や調停を進めていくため、かなり重要な職務を担っているといえるでしょう。
▶︎少年事件
少年事件では、少年鑑別所、保護観察所、児童相談所などと連携をとりながら、少年が立ち直るためにはどんな方策が適切なのかを検討します。
そのために非行を犯した少年や保護者に事情を聞き、非行の動機から原因、性格、生活環境などの調査を徹底しておこないます。多角的な視点から情報を収集して、適切な解決方法を導き出すため、足も頭も使って調査をおこなっているのです。
参照:家庭裁判所調査官
多角的な情報収集をおこなうには、裁判官や裁判書記官などとチームを組み、互いに協力し合いながら仕事を進めなければなりません。
また家庭裁判所内にとどまらず、学校や児童相談所、保護観察所、弁護士など少年を取り巻く機関や専門家と相談しながら仕事を進める場面もでてきます。少年が再び非行を繰り返さないよう生活の土台作りをおこなうのも、家庭裁判所調査官の役割なのです。
どうしたら少年と社会の繋がりを作ることができるのか。親と子を健全な関係で結び直すためにはどうしたらいいのかなど、対象の人物が変われば、考えなければならない内容も変わります。
家庭裁判所調査官は国家公務員職です。そのため資格は不要ですが、「裁判所職員採用総合職試験(家庭裁判所調査官補)」を受け、試験に合格しなければなることはできません。
▶︎受験資格
国家公務員職は基本的に年齢制限があります。裁判所職員採用総合職試験(家庭裁判所調査官補)は大卒・院卒者のみ受験することができ、また社会人ならば21歳以上30歳未満であれば、社会人になってからも受験が可能です。
大卒区分・院卒者区分ともに試験種目は同様です。このうち「基礎能力試験」のみ1次試験となっており、他の種目は2次試験となっています。各種目ではどんな問題が出題されるのかをさらに細かく見ていきましょう。
▶︎基礎能力試験
公務員として必要な基礎的な能力・知識についての筆記試験がおこなわれます。
▶︎政策論文試験
この5領域から出題される問題のうち、2問を選択して回答します。どの問題も家庭裁判所調査官補に必要な専門的知識を問われる筆記問題です。
▶︎制作論文試験
組織運営上の課題を理解し、解決策を企画・立案する能力について問われます。
▶︎人物試験1、2
どちらも人柄、資質、能力などについて面談を通して見られます。
試験に合格し、採用された後すぐに家庭裁判所調査官になるわけではありません。まずは家庭裁判所調査官補として採用され、家庭裁判所調査官補の間は2年間の研修を受ける決まりになっています。
前期合同研修では、家庭裁判所調査官として必要となる法律の基礎知識・心理学や教育学などの行動科学・調査実務と演習があります。
その後の実務修習は、先輩調査官の指導のもとで各裁判所に配属されて実務修習を受けます。この修習では実際に少年事件と家事事件の担当をおこないます。
そして最後に、後期合同研修を受けます。この研修を修了すると家庭裁判所調査官補から家庭裁判所調査官になることができます。
採用されてから家庭裁判所調査官として実際に働き始めるまで2年間の時間が必要になるわけです。長く感じるかもしれませんが、しっかりと研修や修習をおこない基礎作りをするのが大切です。
国家公務員ですので、初任給や年収などは「行政職俸給表(一)」をもとに決められています。
令和2年4月1日時点での家庭裁判所調査官の初任給は下記のようになっています。
これを1年に換算すると下記のようになります。
この金額に期末・勤勉手当が4.5カ月分加算され、その他にも諸手当がつきます。ですので1年目の年収は大体、下記のようになるでしょう。
院卒者の方が月給の水準が高いので、その分年収も高くなります。しかし総合職と一般職で1年目の年収にあまり差がないのは意外ですよね。
ただ一般職に比べて総合職に合格した者は昇格のスピードが違うと言われています。勤務年数が長くなればなるほど支給額に差が出てくると考えてもよいでしょう。
前述したように「裁判所職員採用総合職試験(家庭裁判所調査官補)」の受験資格は2つあります。
この受験資格をどちらもクリアしていれば、社会人から家庭裁判所調査官への転職は可能です。最もネックとなるのは年齢の問題でしょう。
家庭裁判所調査官になるためには、心理学、教育学、福祉、社会学、法律学などの基本的な知識をしっかりと身に付けなくてはなりません。そのため今までそれらの勉強をしたことのない方がさくっと勉強して合格することは難しく、それなりに時間がかかると考えておいた方がよいでしょう。
ですので年齢制限ぎりぎりに受験をするのではなく、合格までに最低でも2年はかかると考えて受験することをおすすめします。
裁判所職員採用総合職試験(家庭裁判所調査官補)では、あまり多くの人数は採用されません。例として「令和2年度に実施結果」がこちらです。
▶︎院卒者区分
▶︎大卒程度区分
院卒者区分・大卒程度区分ともに倍率は7倍〜9倍となっています。過去の実施結果の推移も同程度ですので、かなり狭き門といえるでしょう。
また申込の半数以上が女性であり、最終合格者においては8〜9割が女性となっています。性別によって判断しているなどはないですが、少年や家族、子どもの心のケアや各所との調整などはもともと女性の方が得意ということもあり、そのような数字になっていると考えられます。
- 著者
- 柚月 裕子
- 出版日
- 2016-07-29
この本は、家庭裁判所調査官補として採用された主人公・望月大地が2年間の研修を経て家庭裁判所調査官になるまでを綴った物語です。
主人公の望月は、試験合格後の研修期間に九州の福森家裁に配属されます。そこで初めて向き合う少年事件と家事事件に日々悩む、望月の姿が描かれています。
この本を読んで改めて思うことは、家庭裁判所調査官はチームワークだということです。家庭裁判所調査官は責任ある仕事ですが、たったひとりでは適切な解決を導くのはとても難しいのです。
非行少年や家事事件の子どもを取り巻く関係各所と連携を取り、裁判官とチームを組んで仕事を進める能力をつけなければ、きっとすぐに行き詰まってしまうでしょう。
この本は小説で登場人物・場所などは架空となっていますが、家庭裁判所調査官に興味を持ち始めたら読んでほしい1冊です。
- 著者
- 法学書院編集部
- 出版日
小説『あしたの君へ』を読み終えて、実際の家庭裁判所調査官の就業記録や仕事内容を知りたいならこの本を推薦します。
この本には、家庭裁判所調査官の就業記録が載っています。また、裁判所がこれから採用する家庭裁判所調査官に何を求めているのか、採用されやすい人物像も知ることができます。
司法の現場で働く家庭裁判所調査官については難しいイメージが先行してしまいがちですが、この本ならざっくりと仕事内容を知ることができます。わりと大きな文字で書かれているのでさくっと読むことができますよ。
- 著者
- 清永 聡
- 出版日
戦後に創立され、2019年に70周年を迎えた家庭裁判所。戦後の混乱した時代から現代にいたるまで、時代に寄り添いながら、さまざまな事件を扱ってきました。
家庭裁判所は、社会のなかで弱い立場の人を支援する場所です。この本では、大昔に作られた家庭裁判所の理念をなぞりながら家庭裁判所調査官の役割などにも焦点が当てられています。
この国の裁判所が歩んできた道のりを読みながら、家庭裁判所のこれからのあり方について考えたい方におすすめの名著です。家庭裁判所で働くのに重要なエッセンスが詰まっています。
家庭裁判所調査官は、その職業名以上に重要な役目を担っています。
家事事件では当事者や子どもにとって最適な解決法を検討したり、少年事件では少年が社会生活を送るために適切な解決策を検討したり、頭だけでなく足も使い、関係各所と相談をおこないながら進めなければなりません。
法学部に所属している学生で、少年事件や家事事件に対して問題意識を持っている方にぜひ就いていただきたい職業です。