日本ではまだまだセクシャルマイノリティに関する教育の機会は少ないですが、世界に目を向けてみるとジェンダーフリーやLGBTに関する絵本が多数発表されています。この記事では、幼い頃から多様性への理解を深めるきっかけとなる、おすすめの作品を紹介していきます。
女の子と男の子には、どんな違いがあるのでしょうか。女の子はピンク色やお人形が好き、男の子は青色や運動が好き?女の子はおしゃべりが好きで、男の子は乱暴?
「それって、本当に男の子と女の子のちがいかな?」(『こんなのへんかな?』より引用)
- 著者
- ["村瀬 幸浩", "由為子, 高橋"]
- 出版日
2001年に刊行された、村瀬幸浩の絵本です。村瀬は保健体育の教師だった経験がある人物で、ジェンダーフリーや性の自己決定権に関する作品を多数発表しています。本書も、性差に囚われることなく自分の好きなことを見つけて自由に生きることを提唱した「ジェンダー・フリーの絵本」シリーズの第1巻です。
ジェンダーに対する意識は、思い込みや刷り込みがほとんど。作者の問いかけにハッとするのは子どもだけではないはずです。
女の子は、男の子はこうでなければいけないという思い込みに囚われてしまうのはとても窮屈なもの。日常の暮らしを見つめ直し、身近なところからもっと楽に生きられるヒントを与えてくれる内容になっています。
ペンギンのロイとシロは、とても仲良しなオス同士のカップルです。楽しく泳いで、巣づくりをして、いつも一緒にいました。
他のカップルが巣で卵をあたため、赤ちゃんが生まれていることを知ると、彼らも卵に似た形の石を拾ってきて、毎日交代であたためるようになり……。
- 著者
- ["ジャスティン リチャードソン", "ピーター パーネル"]
- 出版日
- 2008-04-16
アメリカの医学博士ジャスティン・リチャードソンの作品。日本では2008年に刊行されました。
石をあたためる2羽の様子に気付いた飼育員は、他のカップルが放棄してしまった卵をロイとシロの巣に置いてみることにするのです。すると2羽にしっかりとあたためられた卵から、かわいいタンゴが生まれました。
本書は、ニューヨークの「セントラル・パーク動物園」で起こった実話だそう。他のカップルと同じように卵をあたためようとする健気さと、ロイとシロの関係を理解しているからこそできた飼育員の英断に心打たれるでしょう。
ストーリー自体はまったく堅苦しくありません。子どもでも読みやすく、さまざまな家族の形があることを理解できる一冊です。
テディベアのトーマスは悩んでいました。ずっと女の子になりたいと思っていたのですが、これをエロールに話したら、もう友だちでいてくれなくなってしまうのではないかと、怖かったのです。
勇気を出して、本当の自分を打ち明けたトーマスに対し、エロールが伝えたこととは……。
- 著者
- ["ジェシカ ウォルトン", "ドゥーガル マクファーソン", "かわむら あさこ"]
- 出版日
トランスジェンダーの父親をもち、自身もバイセクシュアルだというジェシカ・ウォルトンの作品。息子のエロールに家族の多様なあり方を伝えたいと制作した絵本で、日本では2016年に刊行されました。
作者自身、社会で決められた男女の枠に馴染むことができず、しかし家族や友人に知られたら嫌われてしまうのではないかと悩みながら大人になり、打ち明けるまでに長い時間がかかったそう。本書では、トーマスに本心を言われたエロールが、次の言葉をかけています。
「だいじなのは きみが ぼくのともだちってことさ」(『くまのトーマスはおんなのこ』より引用)
日本では、セクシュアルマイノリティの教育機会が少ないといわれています。本文はすべてひらがなかカタカナで書かれているので、幼い頃から多様性への理解を深められるおすすめの一冊です。
レッドは赤いクレヨンですが、赤い色を出すことができません。家族やクラスメイトたちは心配し、なんとか赤い色を出せるように手を尽くすのですが、それでもレッドはどうしても赤い色を出せないでいました。
そんなレッドに、ある日友だちが「海を書いてほしい」と頼んできます。レッドは赤だから描けないと言うのですが……。
- 著者
- ["マイケル・ホール", "上田 勢子"]
- 出版日
アメリカの絵本作家で、デザイナーでもあるマイケル・ホールの作品。さまざまな文学賞を受賞したほか、アメリカ図書館協会が定めるLGBTの青少年向け推薦図書「レインボーリスト」にも選ばれました。日本では2017年に刊行されています。
見事な青い海を描いた時、レッドは自分が赤ではなく青だったのだと気付きます。ブルージーンズや青いクジラを次々と描き、見違えるように輝きだすのです。
青いクレヨンに赤いラベルが貼ってあること、しかし自身も周囲の人もラベルに囚われて本質を見れなかったことなど、多様性をクレヨンの色で表すアイディアがわかりやすいでしょう。本当の姿に気付いてからの活き活きとした姿も魅力的で、小さな子どもにもおすすめの一冊です。
世の中には、いろんな家族の形があります。大家族もあれば2人だけの家族もあるし、一人親の家族もあれば祖父母と孫で暮らしている家族もあります。
LGBTの家族もあるし、住んでいる場所や休みの日の過ごし方、学校や仕事もそれぞれです。
- 著者
- ["メアリ ホフマン", "ロス アスクィス", "杉本 詠美"]
- 出版日
イギリスの作家メアリ・ホフマンと、漫画家でイラストレーターでもあるロス・アスクィスの作品。日本では2017年に刊行されました。
本書で描かれる本当にいろいろな形の家族を見ると、「こうあるべきだ」という決まりごとはないのだと気付かされるでしょう。ジェンダーフリーやLGBTはもちろん、生活スタイルもさまざまで、周りと「違う」ことが当たり前で、差別の原因にしてはいけないと考えさせてくれます。
表情豊かなイラストはどこかユーモラスでかわいらしく、文章もわかりやすいのでおすすめです。
わたしの家には、ミーマとマーミというママが2人。弟と妹がいて、ママたちの愛情をたっぷり受けて暮らしています。ママたちは性格は正反対だけど、2人とも楽しいことを思いつくのが得意で、いつも笑いが溢れていました。
でも、わたしたちに鋭い視線を向ける人もいて……。
- 著者
- ["パトリシア・ポラッコ", "パトリシア・ポラッコ", "中川 亜紀子"]
- 出版日
アメリカの絵本作家パトリシア・ポラッコの絵本です。日本ではクラウドファンディングがおこなわれ、2018年に翻訳出版されました。
長女のわたしが子ども時代を振り返るように語るのは、ある家族の何気ない日常。2人のママは子どもたちに愛情を惜しみなく注ぎ、時には差別とも向き合う力強さを見せてくれます。やがて子どもたちは成長し、2人のママはおばあちゃんに。懐かしむように語る思い出は、常に笑顔とともにありました。
「典型的」な家族の形でなければ幸せになれないなんてことはない、愛にあふれたあたたかい気持ちになれる一冊です。